第5話 私の報告

上妻研究所と隣接する尽岳学園はどちらも比較的広大な私有地に存在する。

厳密にはそれぞれ別の組織だが、業務提携を行っている都合上、敷地を区切るための柵などは無く道路数本で繋がっている。

それらの道路は私有地にあるため朝と夕方以外は閑散としたもので対向車を1台も見ないこともあるほどだ。

しかし物資の運搬など大型車両が通行する機会も多いため道は通行量の割に広い。

12時半、私は私用車でいつものように車1台見ない道路を暴風のような速度で飛ばしていた。


「もーう!翌日に会議とか組まないでよってさー!」


前日、アズくんを家に送ったあと自宅でアウスのデータの確認をしていると、秋津帝国アウス研究提携会から上妻研究所の所長として会議に出席して欲しい旨が書かれたメールが届いた。

それだけなら良かったものの、その日付はその翌日、つまり今日の午前中となっていたのだ。


「初日にアズくんにやりたいことたくさんあったのにさー!」


大声で愚痴を漏らしていると車のカーナビが鳴り始める。

これはカーナビと通信してる私のスマートフォンに着信があったことを知らせる音だ。

私は咳払いをしてカーナビの応答ボタンを押す。


「はいもしもし、上妻です」

『お疲れ様です。不知火です』

「はいはいどうした?みなみな?」

『彼を午後の開始にアウス第一模擬戦場に連れていきたいと思いますので、所長もそちらへお願いします』

「模擬戦場?なんで?」

『新入生のアウス適合者が2人いて、彼女たちの実力を確かめるためだということで模擬戦を実施する予定です。それを彼にも見てもらおうかと』

「あー、いたねー確か」


私はアズくん以外にも新入生のデータは全て目を通している。

この中でもアウスの操作が出来そうな適合率を持っている生徒がいた。

尽岳夏佳、尽岳学園理事長の長女で昔からアウスに触れていた影響かアウス適合率がその他の生徒とは抜きん出て高かった。

彼女ならばアウスの適合者であっても不思議ではない。


「うん?2人?」


私は少ししてから、みなみなが2人と言ったことに気付いた。


『はい、尽岳夏佳さんと澄瀬涼姫さんです』

「スミセ……スミセ……?」


基本的に適合率が高い生徒は覚えているはずだが、スミセという名前には心当たりが全くない。


「本当にそのスミセっていうのはアウスを動かせたの?」

『はい、確かに』

「ふーん、それは面白そうだね」


アウス適合率と適合者は一般的には比例するが、中には例外も存在する。

そもそも適合率とは高ければ高いほどアウスと脳波の通信が速くなるというもので、触れた瞬間アウスが起動する者もいれば、触れてから数秒で起動する者もいる。

これはアウス適合率の違いによって生じる。

大体の基準として適合率が60%からアウスが起動するようになり、90%を超えたぐらいから動作にラグを感じなくなるといった感じだ。

だが、これまで上限86%でも動作しなかった例があり、逆に下限52%で動作した例もある。

世間のアウス研究者は最近このからくりを解明するために躍起になってるようだ。

私はそんなことに興味はないが。


「とりあえず第一模擬戦場に向かえばいいんだね?」

『はい、お願いします』

「りょっかい、じゃねー」


私はカーナビの終話ボタンを押して通話を終わらせると、見えてきた学園棟を眺める。


「よーし!午前中出来なかった分午後に精一杯やるかー!」


私はアクセルを踏み込み、更に速度を上げて学園棟への距離を詰める。

その速度はとうの昔に、公道の法廷速度を越えていた。

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僕は作られた戦乙女 純須川スミス @kuzusyu

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