第4話 僕の教室

学校の裏口から入った僕は、4階建て校舎の2階にある少し広いカウンセリングルームのような部屋に案内された。

この部屋が僕の教室になるらしい。


「こちらが兵科の課程で使用する教科書になります」

「あ、ありがとうございます」


僕は不知火さんから教科書の束を受けとる。

受け取った教科書を見ながら僕は不知火さんに聞く。


「教科書、少ないですね……?」

「そうですね。普通、兵科は座学よりも実践形式の授業が多いので。それに、将来はどのような形であれ尽岳の組織に進む道がほぼ決まっているので、他の企業が求める学力などは課程に入っていません」

「そ、そうなんですね」


元々志望して兵科に入ったので話には聞いていたが、実際その立場になってみると、その極端さがいまいち実感できない。

僕が若干放心状態になっていると、突然どこかの喧騒が廊下を通して教室に届く。


「何かやってるんですか?」

「他の兵科の生徒は今日、アウス適合の確認があります。その合否で盛り上がっているのかと思います。……少しうるさいですね。忠告に行ってきます」

「あ、はい」


不知火さんはそう言って教室をあとにする。

僕は暇潰しに受け取った教科書を無造作に眺める。

一番上にあったのは戦闘教本のような教科書で、格闘や射撃方法などが載っているようだった。

深く読み込んでも今は理解が追い付かないだろうと思い、僕はイラストや写真が載っているページをペラペラと流し見して時間を潰していた。

しばらくすると喧騒は静かになり少しすると不知火さんが教室に戻ってくる。


「すいません。お待たせしした」

「いえ、大丈夫です」

「どうやら今年のアウス適合者は二人いるようです。あなたを含めると三人ですね」


人数を聞いて僕は少し引っ掛かる部分を感じた。


「……多い、ですよね?」

「そうですね。二人同じ年齢で入ってくるのは時々あるとはいえ、それほど頻繁にあることではありません。今年は比較的豊作の年ですね」


僕が言葉を発しようとしたところに不知火さんが、ああ、そうだ。と続ける。


「午後から適合者二人の模擬戦があるみたいですので、所長が来るまではそれを見ることにしましょう。アウスがどういう使われ方をして、どんな機能が搭載されていてそれがどういう使い方をするのか、肌で感じることができるはずです」

「あ……はい」

「あなたが戦うわけではないので安心してください。そもそも学園内でもあなたが適合者と知っている人間は限られていますので」

「はい……ありがとうございます」


アウス適合者の模擬戦ともなれば生徒は居なかったとしても担当の教員たちは大勢集まるだろう。

もし自分が注目の的になると考えると、恐怖心が胸を包み込む。

元々注目されるのは苦手だが、こういった体になってからは特に怖い。


「……制服で行って誰かに感付かれても面倒ですね。観戦の際は上妻研究所の白衣一式を貸与しますのでそれを着けて行きましょう」

「ありがとうございます」


不知火さんは思い出したように黒板に丁寧な字で『不知火魅波』と書く。


「改めて、私は不知火魅波。このクラス……白森さん、ここで言えば白川さんの担任教師です。研究者歴は6年、教師は非常勤含めて今年で3年目です。拙い部分もあると思いますがご了承を」

「よ、よろしくお願いします」

「次は白川さん、自己紹介を」

「あ、はい。白森東人、学校では白川梓です。学歴は中学校卒業で、どちらも公立です。兵科には親を少しでも早く楽にさせるために入りました。よろしくお願いします」


僕の自己紹介が終わると不知火さんは拍手をしてくれた。


「では少し休憩とってから、午前中は簡単な導入をやっていきます。20分後にまたここで」


不知火さんはそう言うと一礼して教室から出ていった。

休み時間を貰ったが、僕は特に出来ることはない。

先程不知火さんを待っている時のように教科書を無造作に見ながら時間を潰すことにした。

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