第34話 ゆー! つー! ばー! Bパート

 風が草原を薙ぐ音に、何かが混じる。


 街道を歩く俺達の影に、別の大きな影が重なった。


 けたたましい鳴き声で来訪を知らせてくれたのは、宅配用の伝書鷹。


「おっ、いつもありがとう」


 “勇通部”の本部から派遣されるその鷹の爪にくくりつけられているのは、大きな荷物。

 それを丁寧に解いている間、ハナは鷹に餌をやる。


「ありがとね!」


 餌をもらって上機嫌の鷹は、俺達の周りを一回だけ旋回すると、再び“勇通部”の本部へと戻っていった。


「テンちゃん、今度は何かな!?」


「焦るなハナ。荷物と一緒に悪い報せも入ってるかもしれないだろ」


 そう言いつつも、俺もワクワクしながら開封する。


 時折、こうして“勇通部”の本部から何かが送られてくる。

 大半は視聴者からのプレゼントだ。本部で検閲した後、ここに郵送される。


「あ……これはいいな」


 また装備だった。


 ハナとユキの活躍に見惚れた職人が作ってくれるのだ。


 大きく目立つのは装備だが、他にも食べ物や手紙なども入っている。

 特に箱の底にある手紙の数は多く、その数だけでハナもユキも小躍りするほど。

 魔法でコメントが書けない人は、こうして直筆の手紙の想いをしたためるのだ。


「テンジクさん、読んでいいですか?」


「ああ、じゃあ休憩にしよう」


 荷物を運んできた箱に腰を下ろしたハナとユキは、楽しそうに手紙を読む。

 視聴者からの愛のこもった手紙は、彼女達の一番の活力剤だ。


 そしてその間、俺は他の物品をチェックする。


 一応、本部でもチェックはされているが、それでも何があるか分からない。


「おっ! またMAOHさんからのプレゼントだ!」


 今度は食べ物か。

 切り分けられた干し肉だ。


 俺は“魔眼”で干し肉を観察する。


 どうやら魔力が込められているようだ。

 これを食べると滋養強壮の効果があるが、少しだけ匂いがキツくなるな。


 野生の魔物に絡まれる確率が上がるが――うん、チャンスだな。


「大量の魔物と戦うハナとユキ――大勢を蹴散らすシーンはまだ撮った事がなかったな」


 はっ、もしやそういうシーンが観たいというMAOHさんからのメッセージだろうか。


 相変わらずハナの事を第一に考えてくれる、優しい視聴者さんだ。


「ありがたくいただきます、MAOHさん」


 どこかにいるであろう親切な人に頭を下げつつ、しかし俺の中では対抗心が燃え上がる。


「ただ撮るだけじゃダメだ……もっとハナの笑顔が際立つようにしないと」


 ハナの良さを一番知っているのは俺なんだ。


 他の誰にも奪わせない。


「そうだな……ただ大量の魔物を倒すだけじゃなく、なにかゲームをさせながら……いや、それだと不謹慎だと怒る視聴者もいるな……うーん」


 見栄えの良い動画を作るのは、本当に難しい。


 だけど、それを考える作業もまた楽しいんだ。


「テンちゃん、見て見て! これ、視聴者さんからのお手紙なんだけど!」


「ん……どうした?」


 ハナが持ってきた手紙に、軽く目を通す。


「……ふむ、飼っていた家畜が魔王の魔力にあてられて魔物化してしまったので助けて欲しい――と。野生動物だけじゃなくて、家畜でもそういう事があるのか」


「ねぇテンちゃん、助けてあげられないかな?」


 上目遣いで俺を見るハナ。


 そんな顔されたら、どんな願いだって叶えてあげたくなるだろう。


 ――ん、いや、待てよ。


「そうか、ただ魔物を倒すだけじゃなく、魔物化した動物を野生に戻すドキュメンタリーにすれば……人間だけでなく、環境も救えるぞ……!」


 これならいけるかもしれない。


 MAOHさんがくれた肉を使えば、準備もできる。


「よし、新しい動画の方針が決まったぞ!」


「本当、テンちゃん!?」


「ああ、だがもっと深い魔物の知識が必要になる……また勉強しないと」


「それでしたらテンジクさん、私もいくらか知識があります。おばあちゃんに教えてもらったんですけど」


「おお、ユキのおばあちゃんが何者なのか本当に気になるけど、その知識はありがたい。手伝ってくれると助かる」


「はい、任せてください!」


 自信に満ちたユキの笑顔。


 近頃は本当によく笑うようになった。


 俺にとってはハナの笑顔が一番だが、ユキの笑顔もそれに近い。

 見る者を癒す優しさに満ちている。


「テンちゃん、私もやるよ! 何すればいいかな!?」


「……んー、そうだな」


 俺はちょっと考えて、先ほど送ってもらった装備の一部を手に取る。


「その企画までの繋ぎに、またもらった装備のレビューするから、これ着てくれよ」


「ってコレ、またビキニアーマーじゃない! 嫌だよ!」


「なんと驚け、今度は氷属性に耐性を持ったビキニアーマーでな」


「寒いところにコレ着てくの!? 絶対に嫌だって!」


 憤慨するハナの隣で、ユキが笑っている。


「ちょっとユキちゃん、笑ってないで何か言ってよ! ビキニアーマーは一着じゃないんだよ!?」


「じゃあもう片方はテンジクさんに着てもらいましょう」


「あ、いいね! それだったら私も着るよ!」


「は!?」


「さあテンちゃん、選んで! 私のビキニアーマーを諦めるか、ビキニアーマーを着るか!」


「ぬうううう……!」


 真剣に悩む俺。


 そんな俺を見て、ハナもユキも大笑いする。


 “勇通部”の動画を撮るのは、毎度苦労がたえない。


 だけど――やっぱり、この笑顔のためならどんな事でもしたいって思ってしまう。


「よし、じゃ休憩終わり! とりあえず今日の動画撮るぞ!」


「オッケー!」


 勇者アマリリスと勇者スノードロップ、二人が並んでポーズをとる。


 俺が“魔眼”を発動させ、無言で合図を送ると、いつもの挨拶が飛び出した。


「ゆー!」

「つー!」

「ばー!」

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異世界ゆーつーぶ! ~魔王も観ている話題の勇者~ 田口 仙年堂 @Sennendo

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