第33話 ゆー! つー! ばー! Aパート

「ま、魔王様、その、元気だしてくださいッス。アタシが悪かったッスから」


「いや……いいよ、内緒にしていた私が悪い」


「おんなじ状況だったらアタシだってブチキレてましたって。ね、だから魔王様、そろそろ立ち直ってくださいッス。もう三日も引きこもってるんスから」


「死にたい……」


「いいからもう切り替えましょうよ! “勇通部”以外にもやる事はあるでしょ!? アマリリスも再戦してくれって言ってるッスよ!?」


「再戦なんかするわけないだろ! またブラックローズにならなきゃいけないんだぞ!」


「もうアタシも正体知っちゃったから今さらッスよ! そんなに嫌なら、ディテュレイオスでもアタシでも、誰でもいいから代わればいいじゃないスか!」


「いや、それはダメだ。ブラックローズは私でないと動かせない。膨大な魔力を込めているから、ちょっとでも油断すると制御できなくなる」


「ああ……だから魔王様が自らやってたんスね。あんな格好までして」


「だーかーら! あれは魔力を伝達するための装衣であって、コスプレとかじゃないんだって!」


「分かりましたって! もう五〇回くらい聞いてるッス!」


 疲れた。


 ひとしきり怒鳴って体力を使ったので、椅子に戻る。


「はい魔王様、お水」


「ああ、ありがとう」


 デモーニアから水を受け取り、一気に飲み干す。


 ようやく落ち着いたところで、今後の事を考える。


「おのれ勇者アマリリス……私の作戦をことごとく妨害するとは。しかしブラックローズを撃破したからといって、次の手に耐えられるかな?」


「おっ、魔王様、次の手も考えてたんスね」


「フフフ……先の盤面を読めずして魔王を名乗れるわけがない。此度の失敗を生かし、新たな作戦の礎にするのだ!」


「それで、どんな作戦なんスか?」


「うむ、次はこれだ」


 私は水晶板に映し出された映像を見せる。


 そこには四本足で動く可愛らしい動物が映っている。


「今までは勇者と同じ女性型で対抗していたが、次は別の方向で攻めてみる。人間どもは小さく手毛並みの良い動物を無条件で可愛がる修正がある。それを利用したバーチャル動物による動画撮影をするのだ!」


「はぁ……」


「なんだデモーニア、なにがおかしい」


「いえ、モフモフ動物で攻めるってのは別にいいんスけど」


 彼女は水晶板を見て、思い切り首をかしげた。


「この気持ち悪い動物で勝負するつもりッスか?」


「なっ!? 気持ち悪いとはなんだ!? 愛らしいではないか!」


「魔王様、毛さえ生えてればいいと思ってません? なんで人間みたいな顔してるんスか。あと、なんで牙が地面に刺さってるんスか」


「いや、それは、人間に近い方がよれ親近感が増すのではと……牙はアレだ、動物らしさを出すためにな」


「全然ダメッス! ちょっとアタシに貸して! 作り直します!」


「ええ!? せっかくここまで作ったのに!」


「魔王様は可愛さってものがまったく分かってません! アタシがデザインします! なんでこんなにセンスないんだか……」


「くっ……!」


 上司に向かってなんという口の利き方。


 しかしデモーニアがサラサラと水晶板に描き始めた動物の絵は、本当に可愛い。


 白い毛並みの犬だが、デフォルメされた二頭身のキャラで、人間のように笑いながら楽しそうに手を振っている。

 同じように人間っぽく笑う動物を描いたのに、なぜここまで差が出る。


「それにしても」


 絵を描きながら、デモーニアが尋ねる。


「なんで魔王様、こんなにセンスないのにブラックローズだけは美人に作れたんスか? ディテュレイオスがデザインしたわけじゃないッスよね?」


「うむ、奴は幼い人間の女にしか興味がない」


「じゃあ、どうしてブラックローズだけ?」


「あれは……うむ、近くにモデルがいたからな。そいつソックリに作っただけだ。いつも見ているから、作りやすかった」


「ふーん……そういうもんスか」


 背を向けたまま水晶板に魔法の筆を走らせ続けるデモーニア。


 無反応を装っているが、耳が赤くなっている。


「と、とにかく、だ。次はデモーニアの描いたキャラで“動物大作戦”だ! これで勇者の人気をごっそり奪い取るぞ! 心してかかれ!」


「ウ、ウッス! 了解ッス!」


 ククク……待っていろ勇者アマリリスよ。


 貴様らの死は近い。


 物理的にも、人気的にも、抹殺してくれるわ!

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