第26話 目立つわアホンダラ

 学園のどこにいても視線が突き刺さるかのようだ。

 理由は簡単、私の制服の色だけが違うから……

 一人だけ違う色なんだから、そりゃすれちがったりすれば見るだろう。


 待って、私この感じで一人だけ、違う色の制服を着てずっと過ごすの……と違う意味で絶望しかない展開となる。



 とりあえず、もう制服の色はどうにもならないので。私の人生で今後重要になりそうなメンバーに視線を移す。




 一人目はゲームの悪役令嬢のマリア。

 どんな形であれなんとか私が学園に入学したので、とりあえず私の家であるコーネリアス公爵家への養子にくることは防げたものの。

 うちの血から出た優秀な人間を外に出すことはよく思われず。比較的我が家から近しい親戚の家の養子となったので、直系の一族であることを示す『フォン』のミドルネームこそつかなかったが、今の彼女はマリア・コーネリアスだ。

 やはり何か問題を起こせば、血族の代表として家もとばっちりを受けるかもしれない。

 マリアにしても、今のところは私への失礼な態度や反抗的な態度はほぼかかわっていないのでされたことはないけれど。


 ゲームでの性格を考えると、かなり進んだ養子の話しがとん挫したことはマリアにとっては当然面白くないに違いないし、その辺も気を付けたほうがよさそう。




 二人目はのちに聖女と判明するヒロイン。

 平民として学園へと入学してくるけれど、彼女は聖女故にか皆に愛される。

 そう、皆こぞって悪役令嬢マリアを一族を含めて首ちょんぱに追い込むほどに……


 思わず背筋がぶるっとした。

 そう彼女は平民。

 厳格な貴族社会で、血筋は立場にかなり左右される。

 いくら聖女とはいえ、攻略対象者すべての人となれなれしく接しても平気になるだなんて何かおかしいと思わざるを得ない。




 三人目は、王子ジュリアス。

 彼は本来なら我が家に養子に入ったマリアと婚約をするはずだった攻略対象者の一人だ。

 それが私の学園への入学が決定したことで、マリアは我が家に養子に入らなかったことで、私との縁談が一瞬持ち上がったが……

 そっと私は自身の首筋に触れた。

 そこには噛み跡は何もないが、ジュリアスとの婚姻さえも白紙に戻した番の契約がされたのだ。



 そう先ほどから私の鞄を自ら進んで持ち、白の服一人目だってつらい。つらい……となって一言も発しない私の横でおろおろしている、私の可愛いモフモフ要員だったはずのクロードだ。


 クエスト『街道の簒奪者』という形で私の前に現れた攻略対象の一人である。

 街道で襲われていた馬車を助け、クロードの母を殺さなかったことでシナリオが大幅に変わり、クロードは母を無くさず。

 本来の魔力量が高いからと引き取られるはずの家に養子に行くことなく、私の従者として我が家にやっていたのだった。


 思い返してみれば、その時の戦利品は彼で。クリアしたからもらったという風になるのだろうか。

 達成時期によってシナリオが大幅に変わると書かれていたけれど。

 どれがそれで変わったシナリオなんだろうと思う程、現在進行形でシナリオはかなり変わってしまっていた。



 とりあえず、今後はマリアが我が血筋を利用して悪さをしないように目を光らせつつ。

 ヒロインにも気を配る。


 ジュリアスは、今は婚約しているわけではないから接点はほぼないと思うし。

 となると不敬で処罰されないように、対応を気を付けるくらいかしら。

 そんなことを考えて歩いていると、攻略対象者の一人。

 ルチアが現れた。



 これまた、流石攻略対象者である。

 こちらの世界でお会いするのは初めてであるが、まだあどけなさが残るものの。

 彼の顔立ちはすでに完成されている。

 ツンとした小鼻、小さな口元。

 少し釣り目気味な目元とのバランスがとにかくいい。

 緑色の瞳がちらりと、そりゃ一人だけ白い制服を着ていることもあり見られて、私は私でやっぱり攻略対象者は顔が整っていると思っていたのでばっちり目があった。


「ごきげんよう」

 目があったことで、あちらから挨拶をしてくれた。

「ごきげんよう」

 軽く会釈をして通り過ぎるそれで終わりにならないのが――『ラッキースケベ』の称号の恐ろしさである。




 通りすぎる優れた容姿のやつは絶対逃さないみたいな執念すら感じる。


 通り過ぎるその絶妙なタイミングを狙ったかのように、ルチアの足元を学園によくいるリスが横切ったのだ。

「あっ」

 踏まないように配慮したルチアはバランスを崩し倒れそうになる。



 人が倒れそうになると、人間とっさに手が出るもので。

 私もこれは見え見えな罠だとどう考えてもわかっているのに、目の前で人が転ぶとなると手を差し伸べてしまった。

「あぶない」

 もう、後はお決まりのピタゴラである。


 私の伸ばした手は、ルチアの制服の袖を掴んだ。

 そう、袖を掴んだのだ。

 胸もとなんかじゃない。


 なのにだ。

 なぜか袖を引っ張ったのに、ちゃんと胸もとのボタンが3つもはじけ飛んだのだ。

 まだ肌寒さが残る時期に、胸もとの白い肌がのぞいた。


「わっ!?」

 ルチアは驚愕の声を上げた。そりゃそうだろう。

 なんで胸もとのボタンがはじけ飛んだのか意味が解らないことだろう。

 私もどうしてそうなるかわからないけれど、とにもかくにもこうなるのだから仕方ない。


 後ろによろけている態勢でボタンがはじけ飛んだことで、羞恥から慌てて前を隠そうとしたのだろう。

 後ろに倒れないようにすることから、前を隠すことにシフトしたものだから。

 袖を掴む私の手を振り払うようになった結果。

 さらに力が絶妙に加わり、ボタンは全部とれてしまって。

 地面に尻もちをつく形で倒れこんだルチアのへそが見えた。



 私は袖を掴んだだけなのに、なんでと思いつつ。目の前で起こってしまった惨事を淡々とみていて。

 ルチアは、気が付いたら突然前のボタンがすべてはじけ飛び。

 学校内で、素肌を軽くさらすどころか、女子生徒の前で腹筋からへそまで大公開状態にわけがわからないようで、慌てたしぐさでボタンがはじけ飛んだ制服で前をかくそうとする。

「はぁ」

 クロードだけは、さすが被害の回数が多いこともあり。

 ため息をつくと、そっと上着をルチアに差し出した。




 私は理解した。

 気を付けるべきことは、このラッキースケベものだと。

 この学園には攻略対象者という屈指の顔面偏差値をお持ちの方がわらわらいる。

 今回は周りにだれもいなかったし、ルチアもなんで? どうなってるの? とわけがわかっていないようだからいいものの。


 ジュリアス相手なんかにラッキースケベが高頻度でおこっては大変である。

 

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悪役令嬢にクズ扱いされた、魔力ほぼない姉に転生しました 四宮あか @xoxo817

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