おまけ
第五十地区で掘り返したところには厳重に保管されたノートが埋められていた。書かれていた文字を確認すると、親父のものだということがわかった。内容は俺にしか読めない秘伝のレシピと――警告文だった。
その文というのが、これだ。
『――これを読んでいるのが俺の息子であることを願う。これは秘境島の秘密に関することだ。俺たちは秘境島を広大で未知の島だと考えていたが、それは間違いだった。知っての通り、この島が現れてから百年もの間に、腕の立つ冒険家や料理人が十数名、姿を消しているだろう。その誰の痕跡も第五十地区を最後に途絶えている。だから、俺は調べて答えを出した。秘境島は――蜂の巣だ。つまり、我々はまだ表層をなぞっているだけに過ぎない。だから、俺は先に進む。お前は俺に似ているから、いずれは同じ道を辿ることになるだろう。そうなった時のために、一人の冒険家を雇っておく。俺からの餞別だと思ってくれ。後を追いたくなったらその者に聞くと良い。じゃあ、俺は行く。会いたくなったら会いに来い。玄関はいつでも開けてあるからな。逞しく育てよ』
だ、そうだ。
これを読んだときの感想はただ一つ。
「いや、お前が帰って来いよ」
と。何が逞しく育て、だよ。あんたがいなくなって俺がどれだけ大変だったか知らずによく言えたものだ。
リリのことを雇ったのが親父だってことは知っていたが、そんな隠し事があったとは思わなかった。まぁ、今のところ聞く気は無いのだが。
とりあえず、現状では後を追うことは無いだろう。仕事があるし、親父と違って責任感があるからな。それに今の俺は冒険も好きだが、料理のほうが好きなんだ。未知の味や食材を求めるよりも、食べてくれる人の顔が見たい。
「とはいえ、訊きたいことは山のようにあるんだよなぁ」
馬鹿で無責任な親父の捜索と、店の仕事――天秤に掛けるまでもない。
「てんちょ~、今日の獲物なんだっけ?」
「……いい加減に覚えろよ」
今日も今日とて秘境島に居る。明日には店で料理を作る。
秘境レストランは出来る限り続けていくつもりだ。
少なくとも――俺の気が済むまでは、ね。
秘境レストランへ、ようこそ 化茶ぬき @tanuki3
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