第73話

ダヨーさんの仔はお姉ちゃんたちがはるおと呼んでた。

はるおくんかぁ。どんな仔なのかな。

茂吉の初めてのお友達になる仔だし、少し気になる。

壁さんに聞いてみようかな。


「……まだようわからんのやで。子供はどんどん変わって行くんやで」

聞く前に壁さんが答えてくれた。

「茂吉だってそうなんやで。今はこうやが、どんなふうに大きくなるかは誰にもわからんのやで」

そうだよねぇ。くぅの時もそう思ったよ。

「くぅの時もそうだったやで。大人しくて物分りのええ仔やと思ってたんやが、シュシュの飯を横から狙うようになるとはなぁ」

あれはびっくりしたねぇ。

でも、そのくらいご飯は大事だって教えたつもりだよ。

「そのくらい、子供はどんどん変わるってことやで。せやから今見たってようわからんのやで」

そっかあ。

「まあ、気になるんやったら外出たときに挨拶してみたらええやで」

うん、そうするね。

わたしたちは広いお庭に出られるけど、ダヨーさんたちはまだ狭いとこ。

でも、見えないわけじゃないし挨拶も出来る。

早速明日やってみよう。


そうして次の日になった。

わたしたちがお庭に出た後に、ダヨーさんたちが狭いお庭に出てくる。

青草を食べてると、ダヨーさんの声が聞こえてくる。

「シュシュー、もうすぐそっち行くから待ってるんダヨー」

青草から顔を上げて、ダヨーさんに返事をする。

待ってるよー。そこにいるのがはるおくんなのー?

「そうダヨー。なかなか手のかかる仔ダヨー」

少し離れたとこだから、自然と声が大きくなる。

ダヨーさんの横にぴったりと寄り添ってるのがはるおくん。

まだ生まれて何日も経ってないからかな。

跳んだりはねたりってことはしなさそう。


はるおくん、こんにちはー。

ちょっと声をかけてみる。

するとはるおくんはモジモジしたようになって、ダヨーさんの影に隠れてしまった。

あらら、人見知りさんかな。

ちょっと悪いことしたかなあ。

「母上ー、ボクにお友達が出来るのですかー?」

わたしの横で寝てた茂吉が起き上がって聞いてくる。

そうね。お友達になるみたいだよ。

「お友達の方から来てくれるといいんだけどなぁ」

お友達とお相撲取ったり走ったりして仲良くなったら、そうなるかもね。

「早くそうなったらいいなー」

そう言って茂吉はにっこりした。


夜になって部屋に戻る。

ご飯をもらって食べる。

茂吉はわたしのお乳に吸い付いてる。

ご飯はおいしいし、とっても幸せな時間。

ずっとこうだといいのにな。


「ご飯の邪魔をしたら許さないんダヨー!」

ダヨーさんの声だ。

「ダヨーさんが食べてる最中にはるおがお乳もらいに来ただけやで」

壁さんが教えてくれる。

お乳くらい好きに飲ませてあげてもいいのにね。

「そこがしつけってことかも知れんのやで。ワイらがどうこう言うことやないやで」

そうだけどなあ……。

「はるおが助けを求めてるやで。ちょいと助け舟が必要らしいやで」

壁さん、そう言うとはるおくんになにか話しかけてる。

茂吉の面倒も見てくれてるのに、大丈夫かなぁ。


ご飯が終わって電気も消えた。

茂吉は壁さんとお話してるうちに寝てしまう。

わたしもお腹いっぱいでウトウトしてた。


「はるお何してんダヨー!!」

またダヨーさんの声だ。

壁さんはと見れば、クスクス笑ってる。

「いやな、はるおに男ならもうちょっと堂々としとき言うたんやで。そしたらな……」

そしたら、どうしたの?

「寝てるダヨーさんにまたがって、ボクもやるんだー!って叫んでたやで」

……あらあら。

「せやから子供はようわからんのやで」

こう言いながら、壁さんはダヨーさんにしばらく動かないよう話しかけてた。


茂吉やはるおくんがもう少し大きくなったら、またダヨーさんと大きなお庭に出られる。

そうしたら子供たちだけで遊ぶだろうし、きっとこんな楽しい光景も見られるんだろうな。

もうじきなんだろうけど、早くその日が来てほしい。

そしたら、茂吉ももうちょっと自分から動くかなあ……。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

男の子ってまだよくわかんない。

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今日のシュシュ @nozeki

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