エピローグ:アフロ大好き鳩宮さん

 東京オリンピック、そしてパラリンピックが終わって10年の時が経った。

 あれから俺と鳩宮さんのコンビは解消され、俺は再び自分ひとりの力で天候という大自然と戦っている。


「お、アフロの兄ちゃんじゃねぇか、珍しいな」


 入り口で鳩村と会った。

 アフロと呼ばれたが、今やもうあの頃のふぁんきーでげろっぱな髪形ではない。

 いや、それどころか部長という役職にはそういう呪いでもかかっているのか、早期退職した部長に代わって数年前に昇進してから俺の髪の頭は不毛の地へと変わりつつあった。


「鳩村、鳩宮さんはいるかい?」


「ああ、中にいるぞ」


 俺は不忍池弁天堂、その境内の片隅に新たに作られた通称・鳩塔へと入る。

 東京オリンピックでの活躍はもちろん、これまで人間に尽くしてくれた鳩宮さんたちへの感謝の気持ちと、未来永劫変わることのない友情の証として建てられたものだ。


「ぽっぽっぽ。久しぶりじゃな、アフロ


「ああ。変わってないな、その笑い方……っておい、鳩宮さん、そいつは……」


 俺は鳩宮さんの前に横たわる一羽の鳩を見て驚愕した。


「鳩山田! なんでこいつがここに!?」


「わしらが探し出し、看病しておるのじゃ」


「看病? ならまだ生きているのか?」


「ああ。意識はまだ戻らんが生きておる。なぁに、わしらみたいな長生きする鳩には長年眠り続けることなどよくあることじゃ」


 マジか? すごいな。


「なるほど。でも、どうして看病なんかするんだ? 鳩山田は敵だったじゃないか」


「敵ではない。確かにわしらと総帥は敵対したが、その背後ではわしと同じく、総帥もまた人間を信じただけのことじゃったのだ」


 ただ、信じた人間が悪かっただけのことじゃよと鳩宮さんは目を細める。


「目を覚ましてくれたら、世の中にはわしらの為にこんな建物を作ってくれる良い日本人もおるってことを教えてさしあげるつもりじゃ」


「そうか」


 改めて鳩宮さんの器の大きさを知らされる。

 そうか、敵であっても信じたものは同じ、ならばそこから和解する事も可能、か。

 ホント、鳩宮さんには教えられてばっかりだ。


「で、アフロ、今日訪ねて来た用件は何じゃな? ここ二週に渡って、雨が降る週末に関する事かの?」


 ぎくっ。


「先日も、お主の元上司だった男がわしに頼みに来てのぅ。なかなか老体には大変じゃったわい」


 なっ、部長め、先に来てやがったか。


「まぁ、カワイイ孫息子の運動会の為にほとんどない髪の毛をアフロにした根性に免じてひと飛びしたが、さてアフロ、お前はどうするのじゃ?」


「え? いや、ほら、俺たちはコンビだろ? その相棒の愛くるしい一人娘の運動会の為に無償でひと飛びぐらいしてくれても」


「アフロにしたら考えてやるぞい」


「それ、俺の大切な毛根への死亡宣告じゃねーか!」


「いや、むしろアフロにすることで毛根が活性化されるかもしれんぞい」


「マジですか!?」


「いや、知らんが」


「知らんのかいっ!」


 ツッコミながらも俺はお願いしますよー、今週も雨で流れちゃうと延期じゃなくて中止になるんですよー頑張って練習したお遊戯が全部無駄になるなんて娘が可哀想じゃないですかぁと縋りつく。


「アフロ」


「イヤだ」


「アフロ」


「勘弁してください」


 俺たちの不毛なやりとりが不忍池にいつまでも響き渡る。

 空は、週末には雨になるくせに、今は突き抜けるような青空だった。


 おわり。

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雨に困ったら鳩宮さん タカテン @takaten

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