この作品を紹介するにあたって真っ先にお伝えすべきなのは、物語の世界観を描き出す筆致の見事さです。
舞台となる「ケダモノシティ」の社会や文化、そこに暮らすケダモノたちの生態や生活が、正確で美しい文章によって綴られています。
読むほどに情報が整理され、この世界の仕組みが余すところなく脳内に構築されていく感覚は圧巻。隅々まで神経の行き届いた端正な文章は、お手本にしたいほどです。
また、主人公であるドライアド(植物精霊)の単眼シスター・エコのキャラクターも素晴らしい。
注目すべきは、彼女が死者を『喰らう』ことによって弔うシーンです。
グロテスクでありながらもどこか美しさすら感じるのは、彼女がきちんと生を尊んで死を悼み、自らも自然の理の一部として生きようとしているからのように思います。そうした姿勢が、とても好きです。
更には理不尽に暴力を受けた際の無慈悲さが凄まじい。普段は理知的で慈悲深い分、そのギャップが恐ろしいです。
たぶん、間違いなくエコちゃんが最強なんじゃないですかね……逆らったらヤバイことになりますよ。
単に優しいだけではなく、社会の善悪の理を正しく行動原理としている点も、魅力的です。
ますます深みを増していく物語。この先も要注目です!
主人公は植物精霊(ドライアド)の娘、エコ・ランチェスター。
物語冒頭、彼女が堆肥を手づかみで畑に撒くシーンが描かれている。
これが本作のファーストインパクトとして、強く心に残る描写となりました。
人間であれば手袋を用意して作業を行うが、「ケダモノ」である彼女にはそうした概念はなく、栄養として大地に交われば、それは例外なく「土」であるという感覚。
こうしたメタファーは物語が進むと、さらに明確となっていきます。
勢力を衰退させた人間世界から隔絶し、多くのケダモノたちによって日々、運営されている疑似人間的な社会構造。
その中で主人公は、死体処理を主な役割とした神官としての使命を担っている。彼女の能力によって、この街で死せる者は『誰であろうと等しく土に還る』……。
その様子は作者の静謐な筆致によって、とても残酷にとても美しく描写されています。
原初の社会。ヒトでない者たちが人のように息づく世界で繰り広げられる、死と還元のサイクル。それを描いた物語であると感じられました。