第87話 こりゃまたびっくり液体型ターミネーター

※長きにわたる休載、本当に申し訳ありませんでした。今回からまたコツコツと更新していきます、よろしくお願いします。




前回までの真面目なあらすじ


 タイリクオオカミと共に、アリツカゲラを探してけもベガスという森の中に作られたカジノに踏み込んだアミメキリンとヒトのフレンズ、つなぎ。そこで目にしたのは、最上級のコイン交換の景品にされたアリツカゲラの姿であった。


 誰かに交換される前に取り戻さなくてはならない。そこで、手分けしてコインを集めようとする三人。けもベガスのトップに君臨するギャンブラーのクイーン(ダチョウ)とそのお付きのジャック(ディンゴ)、キング(キングチーター)を打ち負かすと、その三人も本当はこの謎の施設で不当に行われているフレンズ監禁や強制労働を止める為に潜入したフレンズによる自衛組織『フレンジャーズ』の一員であると知る。


 キング、クイーン、ジャックと共にけもベガスを統括しているゲランプ大統領と名乗る謎のフレンズを追い詰めるアミメキリン達。しかし、そこで明らかになったのは本当は真面目にカジノを運営しようとしていた大統領の姿であった。ならば、黒幕はどこに……?

 そんなとき、ボロボロになったジャックが発見される。さっきまで一緒にいたジャックは偽物だというのだ!


 そして、舞台はステージ裏、たまたまそこに先回りしていたフレンジャーズの一員であるジョーカー(パフィン)が、ディンゴに化けた何者かと対峙しようとしていた……



前回までの牛すじ


 焦げてこびりついた汚れは、重曹を入れて煮たたせると良く落ちるのだ。





「貴方はディンゴさんじゃありません!! 混乱に乗じて重要なフレンズを拐おうとする……怪しいでーす! 貴方、何者でーす!?」


 ステージ裏、背中に大統領を庇いながら、いーっと歯を剥き出しにして睨み付けるパフィン。精一杯体を大きく見せようとするその姿は、パフィン愛好家の間ではパフィマックスの姿と呼ばれている。


「…………何者か、ですか。それならば逆に問いましょう、何者だと思いますか?」


 パフィンの目の前に立つ、ディンゴの姿をした何者か。静かに、しかし冷酷にこちらを見つめる姿は何とも言えない不気味さを醸し出していた。


「何者かって……」


 例えばディンゴに変装している他のフレンズということならば、まだ話は分かる。しかし、目の前にいるのは完全にディンゴの姿そのままで、普通なら同種別個体ということしか考えられない。


 しかし、パフィンは知らないが、彼女はフリシアンの姿も完璧に真似ていたのだ。であれば別個体の可能性も消える。


 パフィンが返答に困っていると、更に偽ディンゴから声がかかった。


「ひどいなー、パフィンちゃん。私のこと忘れちゃったの?」


「!? その声は……!」


 パフィンが気をそらした一瞬の隙に、偽ディンゴはその場から消えていた。否、別の存在がそこには立っていた。


「エトピリカちゃん!?」

「どうしたの? そんな怖い顔して」


 パフィンの一番の親友、エトピリカが笑顔をたたえてそこに立っていたのだ。


「う……」


 エトピリカはパフィンにそっくりな姿をしたフレンズである。似た姿のフレンズ同士は仲が良いことが多いが、彼女とエトピリカもそれに漏れず仲が良かった。

 今目の前にいる存在。見た目、仕草、雰囲気……その全てがパフィンの知るエトピリカに酷似していた。


「いや、騙されないです! ディンゴさんに化けていたくらいです、エトピリカちゃんになれても何もおかしくありません!」


 その程度の揺さぶりは効かないと、パフィンは断言した。

 騙すつもりなら目の前でやっては意味がないのだ。


「そうかもしれないけど、もしそうだとしてもパフィンちゃんに私を攻撃出来るかな……? いつもみたいに仲良くしようよパフィンちゃん」


 しかし、目の前のエトピリカはあくまで優しく、両手を広げてパフィンの元にゆっくりと歩いてくる。


「いつもみたいに……? 仲良く……?」


 そう、何度も言うがパフィンにとってエトピリカは大親友だ。

 パフィンには政治がわからぬ。パフィンは、ニシツノメドリのフレンズである。お菓子を食べ、エトピリカと遊んで暮らしてきた。けれど、邪悪と季節の変わり目のお肌のカサつきに関しては人一倍敏感であった。そして、無防備に歩いてくる彼女にパフィンは……





「怒りのパフィンちゃんギガドリルキィーーック!!!!」


 空中に飛び上がりきりもみ回転しながら鋭い蹴りを打ち放った。


「えっ! いやちょぐぼほっ!!」


 Beatの攻撃補正にぷらずむがのって

828828ダメージ!! Beatの攻撃補正にぷらずむがのって828828ダメージ!! 2回言ったぞやずやだって二回だから!! 情けのなの字も無い一撃であったがお届け手数料と送料は無料である。


「す、少しは攻撃の手が鈍るはず……」


 一撃をもろにくらった偽エトピリカはくの字の状態で壁にめり込んでいた。


「エトピリカちゃんは、パフィンちゃんが大事な任務に行くから景気付けに飲もうと思ってたアニマルラムネ全部飲んじゃったんでーす! 虹色の!! 虹色のやつですよ!? 絶対許せないでーす!!!! 絶賛喧嘩中だから攻撃もやむ無しでーす!!!!」


 あまりにもしょーもない理由だったが、しかし虹ラムネならば仕方ない。リタマラは人やフレンズを鬼に変えるのだ。汗を流して戦ってくれたフレンズ達が勝利をおさめる直前でてったい!を宣言できるくらいには。


「あとエトピリカちゃんもフレンジャーズで戦ってるからこれくらいの攻撃屁でもないはずでーす!」


 なおエトピリカのコードネームはサイクロン。おさらいするとパフィンのコードネームはジョーカー。サイクロン……ジョーカー!!


「さあ! お菓子の包みを数えろ!!」


 決めゼリフもバッチリである。


 防御体制をとらずにまともにパフィンのキックを受けた偽エトピリカ。パフィンは立ち上がれるとか言っていたが通常ならば、再起不能のダメージである。


 しかし、それでもなお偽エトピリカは意識を失ったりしてはいなかった。


「ふ、ふふふ……これは私のミスですね……お互いが信頼しあっているからこそ全力の攻撃をしても大丈夫……そう……それが君達にとっての……友情……」


 もうもうと立ち上る砂煙の中から唐突に聞こえてくる偽エトピリカの声。煙が晴れ、めり込んだ状態から徐々に立ち上がろうとする姿が現れる。そして……


「えぇぇぇぇくせれぇぇぇんと!!!! 積み上げた友情が、道を切り開く力となっている!! まさに黒く積み上げられる時代が求めた16ビット……!!」


「ぱ!?」


「とぉーう!!」


 突然叫んだかと思うと、めり込みから勢いよく抜け出し高速で縦回転。


「あの体制からそこまで勢い良く飛び出せるなんて……!?」


 驚愕に目を見開くパフィンの前で、体操鉄棒金メダルもかくやという見事な動きで両手をびしりと掲げYの字に直立した。



 バキャズボッ!


「…………」


 否、勢いが良すぎてそのまま床板を踏み抜いて突き刺さった。手だけはビシリとYの字を描いていたため、はたから見たらグリコの人が落とし穴にはまったような感じになってしまっている。


 だいぶみっともないが、それを全く気にせず彼女は語り始めた。

 その声はエトピリカのままであったが、もう口調は似ても似つかないものになっていた。


「やはりフレンズは素晴らしい!! このかがやきが見られただけで、ここに来たかいがあったと言うもの……!!」


「ちょ、大丈夫……ですか?」


「今のやり取りは『いつか友情の一線を越えかねないもの』フォルダに保存させていただいたよ。さあ、このカラダにもっと見せておくれ!! 君の持つかがやきを!!」


 なんと偽エトピリカは、床にはまったままパフィンの方へと向き直り、そのまま床をバリバリと砕いて進み始めたのだ。


「な、なんか気味悪いでーす! あっちいけー!」


 パフィンはげしげしと蹴りで威嚇するが、偽エトピリカはそれを全て防ぎそのまま一瞬で床から脱出、するりと懐に潜り込むと耳元で囁いた。


「怯えてる顔は良くないなぁ…… せっかくの可愛い顔が台無しだ……」


「ひやぁぁぁぁ!?」


 生理的嫌悪感。パフィンがもし難しい言葉を知っていたならその文字が頭に思い浮かんだだろう。フレンズに分かりやすく言い直すなら、そう、気持ち悪い。頭の中でなんかこいつやべぇという警鐘が鳴り響く。


 そして、その危機感はある意味正解であった。


「味も見ておこう……ぺろりんちょ」

「ぎやぁぁぁぁぁぁ!?」


 耳たぶをなめられそのおぞましさに思わず飛んで距離を取るパフィン。ちゃんと大統領を抱えていくあたり立派である。


「フレンズとは言え汗はやっぱりしょっぱいんだね…… この事実は『フレンズ生体まるわかり』フォルダに保存しておこう……」


「なんなんですか!? なんなんですかお前!? へんたい! この人へんたいでーす!!」


 叫ぶパフィンのこともにこやかな目で見つめながら、偽エトピリカは口元を軽く拭った。


「おっと、このカラダの事を変態と呼ばれるのは心外だな。私は私自身の知的好奇心に基づいて、最も君の事を手っ取り早く知るための手段をとっただけだよ?」


「そそそそういう訳の分からないことを聞いているわけでは……!」


「ふーむ。失礼、言葉が足りなかったかな」


 偽エトピリカは顔の前で両手を合わせた。


「ご馳走様でした」

「○ねーーー!!」


 自分は任務を遂行しようとしただけなのに、なんでこんな謎の変態に絡まれているんだろう。ちょっと泣きそうな気分のところにご馳走様と言われ、怒りでちょっとびっくりするくらいストレートな罵倒が出てしまったパフィンであった。


「ちょっと良いものが見れて興奮してしまった……本来のオーダーを果たさないとね」


 興奮というレベルかは置いておいて、冷静になった偽エトピリカはパフィンに向けて手を差し出す。


「さあ、大統領を渡してもらおうか。出なければ……君をもっと調べちゃおうかな……!

ちなみにパフィンって美味しいらしいが……!」


「それは嫌でーす! でも言いなりになるのはもっと嫌でーす!!」


 パフィンにも譲れないものがある。プライドとかジャパリチップスとかジャパリコロネとかジャパリソーダとか。心はドン引きでも体まで引き下がってはいられないのだ。


「それじゃあ……しょうがない。サディストのつもりはないけれど……ちょっと痛い目を見てもらうしかないか」


 偽エトピリカが手を宙にかざすと、そこに長い持ち手と湾曲した刃を持つ武器が現れた。現実世界では武器としての扱いやすさに疑問が残るがファンタジーではお馴染みのこの武器。人はこれを鎌と呼ぶ。


 大きな鎌を目の前に構え、刃の鋭さを確認する偽エトピリカ。通常フレンズの武器は体の一部を模したものになるが、その鎌は、人が作った人工物さながらに冷たい光をたたえていた。


「な、なんですか……それ……そんな武器、見たことないです……」


 こんなもので切られたら怪我ではすまない。そう感じて、パフィンの体に緊張が走る。


「どうだい? この刃……」


「お米を刈り取る……形をしているだろ?」


「そう、収穫期に入ったお米をザクザク刈るのに適して……って違う! ほら命を刈り奪る形!! 何お米を刈り取る形って!?」


 突如入った合いの手に思わずノリツッコミを入れてしまった偽エトピリカだが、後ろから聞こえてきたその声に振り返る。


「あまり強い武器を振り回すなよ……恐 く 見 え る ぞ」

「ねぇつなぎ、どや顔で言っているけどそれビビっているだけなんじゃ……いやそんなこと言ってる場合じゃなかった、なんでディンゴから別の姿に変わっているか分からないけれど、もう逃げられないわよ!!」


 そこには、後を追ってきたアミメキリン、つなぎ、ダチョウ、キングチーターが立っていたのだ。


 ツチノコとディンゴは置いてきた。修行はしたがはっきり言って作者がこの数を捌ききれそうにない。


「あなたこそがこのけもベガスを動かしていた元凶!! 私の占いからはン逃れられませんンッ↑!!」


「ダチョウさん、声変わりました……?」


「つなぎさんっ!! 私はン元々こういう声ですよッッ!! 今日のつなぎさんのラッキーアイテムはオクラですッッ! ドウゾッッ!↑↑」


 思いの外ダチョウさんが人気キャラになってしまったのでけも3基準に調整しております。が、違和感が出そうなのでやっぱり元に戻します。


 キングチーターも、とうとう黒幕を追い詰めたことで昂っていた。自分がイカサマでコイン巻き上げまくっていたことは、スーパーの棚の一番上の在庫が置いてあるところくらいの棚上げである。


「色々手こずらされてきたけど、とうとう追い詰めたわ!! 厳しい鍛練を積んできたこの私、キングから逃げられるとは思わないことね!!」


「厳しい訓練って……ミミーズバードキャンプ……?」


「それは古いわねアミメキリン、今はこの私が考案したキングフィットアドベンチャーで楽しくしかし激しく鍛えているのよ!!」


 どこからともなく取り出したでかい王冠のようなものを両手で持つ。


「これがキングコントローラーよ。ソシテボクハキング、ヨロシクネ!!」


 このコントローラーと、それに宿る精霊『キング』に導かれ冒険しながら鍛えるのである。バン○イプッシュ!! ちなみに精霊のcvはキングチーターがやっているが、腹話術っぽくやろうとして上手くいっていない。

 ちなみに筆者もこのアドベンチャーをやってみたが現在進行形で腹筋と太ももの筋肉痛に苛まれている。


「もう少し気が付くのに時間がかかると思っていたが、意外と勘が良いのか偶然か…… とにかく、貴方達は邪魔なので排除する……ん?」


 偽エトピリカは、やってきた一同を見渡して、やがてつなぎのところで目を止める。


「…………あなた、良く良く見ると……もう一度確認します、何のフレンズですか?」


「……? 僕はヒトのフレンズです! ナンではありません!!」


「いやナンのフレンズなんているわけないでしょ……というか敵の質問に律儀に答えてやる必要はないわよ」


「…………本当に? ヒト? それだけとは思えないほど情報が詰まってるが……」


 偽エトピリカはつなぎの事をじっと見つめ、やがて諦めたかのように首を振った。


「解析がすぐに出来ない、こんな事は初めてです。まさか、まさかあなたこそ、このカラダが探し求めた"キョーシューで唯一データがとれていない"フレンズ……?」


 偽エトピリカは、何かぶつぶつ言いながら考え込んでいる。やがて、何か決めたように顔をあげた。


「予定追加です、そこのあなたもお持ち帰りさせていただこう。あとでじっくり調べてあげよう、あんなとこやこんなとこを」


「アミメキリンさん助けて!! お持ち帰りを宣言する変人です!!」

「ちょうど良いじゃない、お持ち帰りされて敵がどこを拠点にしてるか探ってくれば?」

「ひどい!?」


 そんな二人のやり取りを、キングチーターが言葉で制す。


「まー、うだうだ言ってるみたいだけど、お持ち帰りとかそんなこと心配する必要は無いわね、だって……」


 次の瞬間、キングチーターはその身体能力を持って、全力で偽エトピリカに飛びかかっていた。


「私が一瞬で終わらせるから!!」


 神速、まさにそう表現するにふさわしい速度だった。


 そもそも、彼女のコードネームがキングなのは、キングチーターであると同時に純粋な戦いにおいてフレンジャーズの中で最も優れていたからだ。

 その全力でかかれば、どんなフレンズもその攻撃に気が付く間もなく打ち倒される…………筈だった。


「……お忘れですか? 私が、圧倒的な高速で飲み物にミルクを入れていたことを。その程度の速度、余裕で見えるんですよ」


 一瞬で懐に踏み込んできたキングが振り下ろした爪を、大鎌の柄で受け止める。

 フリシアンに成りすましていた頃、オーダーしたドリンクに一瞬でミルクを注いでいた彼女。見えないところで入れていた訳ではない、純粋な超高速で入れていた。


「まずっ!?」


 攻撃を防がれ体制が崩れたキングチーターは、それでも全身のばねを使い全力で敵から離れようとした。



 そこに、容赦なく大鎌が振り下ろされる。



 その場にいた他のフレンズはその一瞬の攻防を目で追うことも出来なかった。



 彼女達が戦いが始まっていたと気がついたときに見たのは、服を切り裂かれ、そこから、赤い飛沫を飛び散らせるキングチーターの姿であった。




[次回予告]


やめて! 悪玉細菌の特殊能力で腸内の日和見菌まで悪性に変えられたら、体内環境でつながってるつなぎの体調まで燃え尽きちゃう! お願い、しなないでゼンダマキン! あんたがここで倒れたらおやつやおゆはんはどうなっちゃうの!? ライフはまだ残ってる、ここを耐えれば腹痛に勝てるんだから!


次回 腸内環境、死す


※内容は予告なく変更になることがございます。

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アミメキリンと謎のヒト @bentmen

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