第86話 幕の裏のパフィ
※大変長らくお待たせしました! 連載再開します! 待っていてくださった読者の皆様、本当にありがとうございました!!
本編の内容としては、けもベガス編クライマックスになります!!
前回までのあらすじ
キングを倒し、仲間にしたアミメキリン達一行。その前に、とうとう大統領と呼ばれるけもベガスを統べるフレンズが姿を現す。
前回までのくらずし
お会計の為に皿を10枚ずつにして置いておいたら、流す用の穴があるのでそこに流してくださいって店員さんに言われてしまってめっちゃ恥ずかしかったしびっくらポンは外れた。
生きる権利って何だろうか。
自分に価値がないと生きていてはいけないのだろうか。
私は生まれてからすぐ、自分の価値を示さなければいけなくなった。
だからこそ、他のフレンズが楽しめるように出来る限りの事をした。
私だって遊びたい。自由に走り回りたい。
しかし、それはまず目の前の生存競争に勝ってからの話だ。
だからこそ、私は情報を教えてもらい他のフレンズが楽しめるようにヒトの世界で最も大きい国の娯楽を模倣した。
これならば、きっと皆私の必要性を認めてくれる。
いや、どこまでいっても安心できる確証はないのだ。
だからこそ、もっともっと楽しい事を、もっともっと私の価値を、もっともっと皆に支持される私に……
もっと、もっと、だからこそ、もっと、もっと……
「……いけないな、また考え込んでしまった。これから表彰式だというのに」
疲れた思考を振り払い、私はまた前に進む。だれにも私を奪わせない。
私こそがこのけもベガスを統べる、大統領なのだから。
_______________
「待たせてしまったようだな」
唐突に、ステージの奥から声が上がった。
「……! 始まるようね、表彰式が」
アミメキリン達はステージの奥を見つめる。
待たせてしまったとかこのフレンズ達が集結している様子を見て言うセリフでは無さそうにも感じるが、まぁそこはお決まりのようなものだろう。
……今か今かと皆そわそわしていたが、一向に始まらない。ステージの奥のカーテンの向こうから現れるのだろうが、沈黙したままである。
「大統領……恐ろしいフレンズだろうとダチョウさんが話していましたが……」
つなぎは緊張を和らげようと隣にいるアミメキリンのマフラーをもふろうとしたが、間違えてタイリクオオカミの首のほわほわの部分をもふってしまった。新境地だった。
そして式の方は全然始まらない。
ここで待っててとか言っておきながら、言いつけを無視して先に進まないと物語が進まない、RPGのフラグなのではないかと、もふりながらつなぎが思い始めた時、やっと進展が生まれた。
「…………はい、皆さんが静かになるまで4分36秒かかりました」
ゆっくりとステージ奥のカーテンから出てきたフードを被った謎のフレンズ。
恐らくは大統領と呼ばれるそのフレンズが話をしなかった理由は、まさかの校長先生のお話しスタイルであった。
「……恐ろしいフレンズなのよね?」
「……多分」
大統領が極悪人でけもベガス全体の黒幕だという前提条件がだいぶ怪しくなってきた。そもそもガチガチの悪人が、フレンズの中にいるのだろうか。
今まで悪事を働いてきたフレンズはほとんどがサンドスター・ロウの影響で思考が悪い方に偏ったフレンズだったはず。ならば、大統領もサンドスター・ロウに侵され、そのせいでこんな施設を作ったのではないか。
……だとしたら、本当の悪はサンドスター・ロウをばらまいている者ではないのか。
アミメキリンの頭をそんな考えがよぎった。
「これより、表彰式及び授与式を執り行う。が、その前に、いくつか“制約“をかけさせてもらう」
大統領が、集まっているフレンズ達に向けて話す。
制約、という厳しい単語にダチョウは敏感に反応した。
「やはり、自由な行動を許す甘いやつでは無かったようですね。一体、どんな縛りをつけさせられるのか……」
フレンジャーズは元々厳しい環境を乗り越えて集ったフレンズ達。縛りつけてくる圧政者には刃を持って汝を打ち砕くのだ。つまり禁止されたり制限されたりすることが嫌だってこと。リミットレギュレーションやプレミアム殿堂なんてもってのほかである。ボルバル。
「制約とは……」
「ごくり……」
「1.授与式中は、スマホをOFFに」
「「「「「……?」」」」」」
アミメキリン達は意味が分からず首を傾げたが、その言葉を聞いてもぞもぞ動き始めたフレンズが数人いた。え?スマホあるの?
「そして……」
指をパチンとならすと、大統領の横にけもベガスの係員をしていたフレンズ達がならんだ。
否、その格好は先程までとは違っている。皆、頭に被り物をしているのだ。丸いレンズに四角い箱がついたもの。
「あの被り物、前みずべちほーでマーゲイを撮影したときに使った機械そっくりね」
アミメキリンが記憶の中からその正体に触れる発言をした瞬間、軽快なリズムと共に被り物をつけたフレンズ達が全く同じ動きでダンスを始めた。
「2.劇場内での、ステージの様子の録音・撮影は犯罪です。けも律により10年以下の懲役、または1000万回のぺろぺろ、またはその両方が科せられます。不審な行動を見かけた場合、スタッフにお知らせください。直ちに、ラッキービーストへ通報します」
「No more、映画泥棒」
「え、どうしたのつなぎいきなり」
「いやなんか言わなきゃいけない気がして……というかがっつりやりましたね一連の流れ。スマホOFF発言の辺りから嫌な予感してたんですが」
ついでに言うと飲食物もけもベガス備え付けのお店で買ってください。持ち込みはNGです。ポップコーンはキャラメル派だけどコーラの甘味が分からなくなるのがたまに傷。
「くっ、やられました……これではラッキービーストにお願いして悪事の証拠を撮影してもらうことが出来ません……こちらの動きを予測しているとは、やはり大統領恐ろしいフレンズです……!」
「ダチョウさん、落ち着いてくださいこれそんな意図でやった行為じゃなくてお約束のやつです」
「あの一糸乱れぬキレキレのダンス……素晴らしい。しかし執事道を極めようとする私、ダンスの心得もありますれば……!」
「ディンゴは何の対抗心燃やしてるの!?」
「ほら君たち、そんなこんなしてる間に式は進んでいるよ。キングチーターがステージ上に呼ばれて行っちゃったよ」
タイリクオオカミが指差す方を見ると、キングチーターが壇上に上がったところだった。
「私が、キングよ! 100万JPを集めてこのけもベガスの頂点に立ったフレンズ……皆、私を崇めなさい!! え?なぜ私が頂点に立てたかって? それは……私がキングだからよ!!」
ビシィッと天を指差し決めポーズ。そしてどや顔。なまじ作戦決行まで一晩あったものだから壇上での立ち振舞い方を夜の間に考えていたキングチーター。セリフを言い終わった後に口元がまだ動いていたので、恐らく「決まったわ……」とか小声で言っていたに違いない。
しかし、つなぎに盤外戦術で負けているので実際は元キングである。
「あの……私が隠れちゃってるのでもう少し横に退いてください……」
大統領がよいしょよいしょとキングチーターを横にずらし、式が再開する。
「えー……おほん! 私が、このけもベガスを取り仕切っている代表、ゲランプ大統領である!」
皆の空気が緩くなってきているので、仕切り直しを兼ねて名乗る大統領。
「知ってるけど。ほら、早く例のもの渡しなさいよ」
キングチーターは待ちきれなさそうであった。
「ああ……順序があるから待って……えー、景品の前に、証書を贈呈するから……」
ごそごそと取り出されたのは、何かをしまえそうな木製の筒であった。きゅぽんと蓋を開け、そこから一枚の紙が取り出される。紛れもなく、賞状であった。
「えー、キング殿。貴方はこのけもベガスにおいて大変優秀な成績を修めたのでそれを賞すると共に景品を贈呈します。けも和20年6月25日 けもベガス代表 ゲランプ大統領」
勘の良い方ならお気づきだろうが、平成の次の新元号はけも和である。カンザシフウ長官によって発表されたのだ。令和?知らない子ですね……
「そして次が皆さんお待ちかね……」
大統領が手で合図すると、奥から布を被せられた円筒型の物体が運ばれてくる。
皆がざわつき始める。タイリクオオカミとアミメキリンも落ち着かない様子だ。やっと、アリツカゲラの安否を確認できるのだ、無理もないことである。
ゲランプ大統領がその前に立った。
「さあ、刮目せよ!! これが強者の証……」
つかんだ布を思い切り引き、その中身が白昼に晒される。
無論、ここにあるのは100万JPで交換出来る商品、アリツカゲラである。
そして、それはここに集ったほとんどのフレンズが知っている。
布の中から現れたそれは、やはりアリツカゲラであった。謎の液体の入った筒に、プカプカ浮かんでいる。その様子は、さながら標本や実験施設を思い起こさせる。
その姿を見た者は皆口々にその美しさに感嘆の声を漏らした。
だからこそ、その声は良く響いた。
「……何故だ? 何故こいつがここに……」
それがそこにあることを否定する言葉。観衆の誰かが発した言葉ならば有象無象の声の中に消えるが、しかしそれはステージ上から放たれたのだった。
「これは……いや、そもそもここにあったのか……?」
言葉も、体も、全てが混乱しているそのフレンズ。大統領は、景品の中身を見て呆然としていた。
「私が用意した黄金のジャパリトロフィーは……? 100万JPを集めたフレンズを讃えるために用意した、景品は……?」
「ちょ、ちょっとどうしたのアンタ。景品が違うってそんな訳……」
「キング!!」
「! そうだったわ」
混乱している大統領を前にして驚いていたキングチーターだったが、ダチョウから呼び掛けられ気を取り戻す。アリツカゲラが入ったそれを両手で持ち上げ、急いで観客たちの元へと戻った。
「なぜ……誰が……すり替え……一体……」
心ここにあらずの大統領。
「大統領……貴方は、やり過ぎました。ここにいるフレンズのほぼ全てが、貴方のやり方に不満を抱いています」
そこに声をかけたのは、キングチーターと入れ替わるようにステージに立ったダチョウであった。
「……………………私が、皆から反感を抱かれている……?」
大統領は、信じられないといった声色でそう答えた。
「ええ、搾取や不当な地下労働、思い当たる節はあるはずです」
「私は皆が平和に遊べるように色々と指示していた、地下? なんのことだ? 搾取? そんな訳はない!!」
強い言葉で否定する大統領だったが、しかしその様子はもうどうしようもなく困惑していた。
「ならば、はっきりと言ってあげましょう」
ダチョウは大統領の正面に改めて立ち、そして言った。
「あなたを詐欺罪とけもの労働罪で訴えます!
理由はもちろんお分かりですね?
あなたが皆をこんなカジノで騙し、地下で不当に働かせたからです!
覚悟の準備をしておいて下さい。
ちかいうちに訴えます。
裁判も起こします。
裁判所にも問答無用できてもらいます。
慰謝料の準備もしておいて下さい!
貴方は犯罪者です!
刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!
いいですね!」
「覚悟だっ! ダチョウさんは覚悟に満ちている!」
「つなぎ口調おかしいわよ?」
「二人とも! そんな事言っている場合じゃないぞ!!」
タイリクオオカミが二人のやりとりを止めた理由、それはやはりステージ上の様子に進展があったからである。
「私が……犯罪者……?」
言われた言葉のショックからか、ふらり、と大統領の体から力が抜ける。倒れ混むように、後ろ向きに尻餅をついてしまう。
ばさりっ
そして、その拍子に大統領の顔を覆っていたフードが脱げた。
「……っ!?」
そこにあったのは、紛れもなく、今まで景品の円筒の中で何度も見た顔、アリツカゲラそのものであった。
「えっ……!? アリツさんが、二人……?」
動揺していたのはアミメキリンだけではなかった。その場にいるフレンズ皆が、景品の中で眠る顔と、大統領の素顔を見比べ同じフレンズであることに気がついたからである。
「み、見るなぁっっ!! 私を……そんな目で見るなぁっっ!!!!」
大統領はフードを再び被り直し、外界の全てを遮断するかのように耳を塞ぎ体を丸めた。
「こ、これは一体どういう……」
「ダチョウ、ストップです。これ以上は、直接話を聞かないといけなさそうだ。ひとまず、彼女、大統領を他のフレンズに見られない場所へ……」
ディンゴ急いでステージ上に上がり、大統領の背中を支えながら立たせた。
「ダチョウ、ひとまずこの場の混乱を抑えておいてください、私は一足早く彼女に事情を聞いていますので」
「え、ええ……お願い出来ますか? 正直私も何がなんだか……」
「任せてください、こういうのは私の得意分野ですので」
そのままディンゴは、ステージ奥のカーテンで遮られた向こう側へ、大統領を連れていった。
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一方その頃、地下から抜け出したパフィンはちょうどステージ裏へと抜け出した為、そこで待機していた。
「裏方で逃げ道を塞いでおく、パフィンちゃんとっても縁の下の力持ちでーす!!」
本音は作戦の本筋に参加すると忙しいので、裏で地下で入手したお菓子を食べていようというのが狙いなのだが。
そしてジャパリチップスをつまみながら待っていると、誰かを支えこちらに歩いてくるフレンズが見えた。
「あ! ディンゴさん! ……じゃなかったジャックさん! もしかして、そこに抱えているのは大統領さんですかー!?」
ちょうど、先ほど場面転換した直後の出来事にあたる訳である。
「え、ええそうです……」
ディンゴは人気のないところに大統領を連れてきたのにパフィンが居たので驚いていたようだった。
「流石に仕事が早いでーす! パフィンちゃん感心ー」
「少し事情があって、大統領をゆっくりさせてあげた後に話を聞きたいのです。パフィンさん、ちょっと外してもらっても良いでしょうか?」
ディンゴはそう促したが、パフィンは割りと話を聞いていないことがある。
「おっとと、パフィンちゃんとしたことが大事なことを確認してませんでしたー!!」
今も、ディンゴの言葉を聞いておらず一人で手をぽん、と叩いて何かに気がついたようにディンゴに話しかける。
「せっかく決めたのに合言葉を確認してなかったでーす!」
「合言葉……?」
「またまたー! ジャックさんノリノリだったのパフィンちゃん覚えてまーす! だってジャックさんにまつわることを合言葉にしたんじゃないですかー!」
うんうんと頷いたと思ったら急に右手をびしぃっとあげた。挙手は勢いよく、大事なことである。
「じゃあ一応確認しまーす!」
パフィンは特に意味もなくその場で回転、ぴたっと止まってからディンゴに尋ねた。
「串に刺さって?」
「…………」
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「な、なんか急展開なんだけど……」
「アミメキリンさん! 取り敢えず私たちも後を追いましょう!!」
登場キャラが増えてくると空気になりがちなのは作者の力量不足で申し訳ないとして、取り残されそうだったアミメキリン、つなぎ、タイリクオオカミはカーテンの向こうに消えたディンゴ達を追いかけようとした。
「お~い!! お前らちょっと待てぇ!!」
しかし、それを遮る言葉がかかる。
「ツチノコさんとスナネコさん! どこに行ってたんですか?」
他の仕事がある、と聞いてはいたがその詳細は知らなかったのだ。つなぎは少し土に汚れている二人が何をしていたか、ある程度のアタリはつけつつも聞いた。
「俺達は、ダチョウに頼まれてパフィン達を地下へ迎えに行き、その後地下で取り残されてたりするフレンズがいないか探してたんだよ!!」
「やっぱり、そうでしたか」
表彰式が行われている間は大統領も地下に意識を払っていない。脱出の好機であるはず。ピット器官でフレンズを探せるツチノコと穴堀り能力を持ったスナネコ、地下からフレンズを脱出させるのであればこの二人は適任である。
「そしたらですねぇ、ボクたち、縄で縛られて隠されていたフレンズを見つけたんです」
「隠されていたフレンズ……?」
妙だ。労働させるなら隠す必要も縛る必要もない。
「地下じゃなくて、フリシアンのバーの奥の方に隠されていたんだがよ……ていうかなんでバーの奥なんかに居たんだ?」
ツチノコはそう言って首を傾げた後、助け出したフレンズを見せる為に脇へ退いた。
_________________
「え! まさか答えられないんですか?」
パフィンは、困った顔のディンゴを見て、戸惑う。
「ええ。パフィン……少し慌ただしくて、忘れてしまいました。というかそんなことを確認する前に今は……」
「うーん、そうですか。あんな面白い合言葉を忘れるなんて、パフィンちゃん考えづらいでーす……」
合言葉の内容は、キングとディンゴが確認していたものと同一。
うーんうーんと唸るパフィンは、はっと何かに気がついたように顔を上げた。
「あ! じゃあ一つだけ質問しまーす!」
バギィッと金属が強く打ち付けられるような音がした。
パフィンが、ディンゴに向けて思い切りパンチしたのだ。
_________________
ツチノコの後ろから現れたのは、少し服がよろよろになった、ディンゴであった。
ディンゴは、焦燥しながらもアミメキリン達に尋ねる。
「大統領は、どうなった……? 私の、私の偽物は……どこへ行った……!? 私を騙して閉じ込めた……フリシアンはどこへ行った!?」
_________________
パフィンのパンチを防いだディンゴ……否、偽ディンゴは支えていた大統領を離してしまう。
その大統領を捕まえ、背中側に庇うパフィン。
「質問は、皆で考えたイカしたコードネームで何で読んでくれないかってことでーす! この作戦が始まってから、ディンゴさんは私をずっと“パフィン“じゃなく“ジョーカー“って呼んでくれました!!」
「……君みたいな、勘の良いガキは嫌いですね」
偽ディンゴの目が、今までの優しい目から、こちらを見下すような冷たい目に変わる。
背中に抱えた大統領はぐったりとしていて、力がない。元はこの大統領をとっちめるための作戦、しかし、明確な敵は今は目の前に居た。
「貴方はディンゴさんじゃありません!! 混乱に乗じて重要なフレンズを拐おうとする……怪しいでーす! 貴方、何者でーす!?」
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