眠りの森の美女?

 形式や出典が特殊なので触れておきます。


 元は、湊波さんの創作エッセイ「カクヨム枕草子」内の「眠りの森のシリアス沼」の応援コメントに勢いで書いてしまったSSです。


原文↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892953897/episodes/1177354054894150114/comments


 エッセイの内容が、「同じシリアス好きでも好きなシチュエーションって違うよね」みたいな趣旨だったので、自分の趣味を元に「眠りの森の美女(茨姫)」をアレンジしたストーリーを書いたのです。しかし、応援コメントに書く内容じゃねえ!



   *** ***




王子「君とは一生を誓いあった仲。どうして俺を避けるんだ」


姫「どうして? 一緒になれるわけがないじゃない。知ってしまったのよ。わたしはじき百年の眠りにつくの」


王子「おお、なんと残酷な運命。しかし、諦めるにはまだ早い。呪いが発動する前なら、地の果てに住むという伝説の賢者を訪えば解呪の方法がわかるかもしれない」


   *** ***


魔女「けっけっけ、確かに望みはあるじゃろう。しかし、絶対ではない。そもそも王子が生きて帰る保証もなかろう。どうする。お主はあの王子を魑魅魍魎が跋扈する地の果てに送り出すか。呪いを受け入れよ。さすればあの王子が死ぬことはない。それに、一度、眠りにつけばそれまでじゃ。呪いを解く方法はない。王子も諦めがつくというものよ」


   *** ***



王子「ああ、愛しの君。君はさだめよりも早く眠りについてしまった。なぜだ! 一緒に呪いに抗うと決めたのに」


姫の侍従「ああ、王子様、どうか姫をお責めにならないでください。これには深い事情が以下略」


   *** ***


王子「この因業クソババア! 我が愛しの姫の呪いを解け!」


魔女「くくく。けーけっけ」


王子「何がおかしい」


魔女「これが嗤わずにいられるものか。教えてやろう。呪いなど最初からなかったんじゃよ」


王子「なん……だと……!?」


魔女「くくく。わしは魔女の中でも落ちこぼれでな。本人の同意なくして呪いはかけられんのじゃよ。つまり、姫はわしの口車に乗って自ら呪いにかかったのじゃ。わずかな希望にすがって絶望するよりは自ら望みを捨てて最悪よりは少しましな選択をすることにしたんじゃよ。つまり、お主が危険にさらされることがない選択を」


王子「おお、姫。なんと愚かな。俺はたとえどれだけ絶望的でも君との未来を望んだものを」


魔女「けっけっけ。すべては後の祭り。もはや姫を救う手だては存在しなぐぅおへぼ(斬)」


   *** ***


王子「くそっ、どうすれば(蹴)ん? なんだこれは。中に手紙が入っている。姫からだと!?」


姫(手紙)「一人で勝手に決めてごめんなさい。しかしこれもすべてあなたを思えばこそ(中略)しかし、どうしても諦め切れない自分もいるのです。その気持ちがこうして手紙を書かせるのでしょう。もしも、あなたがこの手紙を見つければそのときはまた望みが繋がる。あなたがあくまでわたしとの未来を望むというなら地の果てに向かってください」


王子「しかし、すでに後の祭りと……ん、? 二枚目があるではないか」


姫(手紙)「あの老婆は魔女の落ちこぼれ。本当に恐ろしいのはその話術です。自分の力を実際以上に大きく見せ、わたしたちを翻弄し、嘲笑っているのです。そうわかっていながら望みを信じられなかったのはわたしの弱さ。しかし、もしかしたら呪いがかかってからでも遅くないのかもしれません。通常なら絶対に解けない呪いでも術者が未熟ならどこかに綻びがあるかもしれません。伝説の賢者なら何か方法が見いだせるかも――わかっています。これはあまりに頼りない望み。ああ、それでもあなたはきっと行くのでしょうね」


王子「無論だ……! 家臣、馬を出せ!」


家臣「しかし王子。こんな夜更けに」


王子「夜はいずれ明ける!」


家臣「……! はっ、ただちに」


王子「待っていてくれ、姫。必ず君と夜明けを迎え以下略」


   *** ***


姫「………………まぶしい……これは夜明けの光? 目を閉じているのに瞼の裏まで……!? 意識がある!? 百年が経ったのかしら。それとも……ああ、怖い。目を開けるのが怖いわ……もしも百年の時が過ぎてしまっていたら……いいえ、それだけならまだいいわ。もしも彼が地の果てでむごたらしく殺されてしまっていたら。あるいはその冒険が徒労だったら……目を開けるのはそれからでも遅くはないわ……ねえ、王子。わたしは目覚めたわよ。そこにいらして」


――了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戸松秋茄子 @Tomatsu_A_Tick

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説