火山
雄々しく聳え立つそいつは、数分前に爆発したばかりだった。
物凄い音とともに吹き上げた煙はいまや見上げるほどに高く、その頂でもくもくと広がり続けている。まるでオーブンの中のシュークリームを早回しで見ているようだ。少し目線を落とすと、黒い煙が風下に向かって伸び、墨汁を水に垂らすようにして空を灰色に染め上げている。そのさらに下、煙の根元近くでは煮えたぎるマグマが火の柱となって噴き出し続けていたが、やがて自らの重みに耐えかねるようにして崩れ落ち、四方八方に火砕流をまき散らしはじめた。
「きっと、逃げられないね」 彼女は言った。「溶岩に飲まれちゃうんだ」
知らず、手が握られている。思わず向き直りかけて、危うくとどめた。視線を山に縫い付ける。溶岩はとめどなく溢れ、やがて山裾に到達した。木々をなぎ倒しながら、黒い津波となってこちらに向かってくる。
よりによってこんな形で最期を迎えることになるなんて。溶岩に飲まれるにしても、せめて、最期に彼女の顔くらいは拝みたかった。
「いいよ」彼女は言った。「こっちを見て」
溶岩が温泉のすぐ手前まで迫ったその瞬間、彼女に向き直った。顔だけなんて無理な話だった。張りのある乳房、きれいに浮き上がった鎖骨、細長い首が自然と目に飛び込んでくる。そしてあどけない顔。ああ、俺はこいつと逝くのか。そう独りごちた瞬間、波が押し寄せ俺の意識を真っ黒に染め上げた。
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