ソルフィスの黒い人々

伊崎ヒロツグ

序章 機械技師は歩き出す

 その国、「ソルフィス」はイギリスの植民地だった。ソルフィスはオセアニアに位置する島で、当時のイギリスに必要不可欠である石炭の天国だった。

 それ故、ソルフィスには移民が多くやってきた。そして、当時の活気的なシステムをその島に持ってきた。

 それは『スチーム』であった。

 スチーム、つまりは蒸気機関。当時のイギリスでは空前のスチームブームが網羅し、それが当時植民地となったソルフィスにも飛び火したのだ。そのため、ソルフィスではスチームは生活の最重要物となり、こんな言葉まで出来た。

『ソルフィスに必要なのは朝食と紅茶とスチームだ。』

 その後、スチームはソルフィス人達の手によって改良されていった。蒸気機関車を改良して蒸気高速鉄道を作ってしまったり、蒸気馬車なんてものもあれば、蒸気義手なんてものも出来てしまったのだ。こうなってしまえば、もうソルフィス人達からスチームは奪えない存在になってしまったのだ。

 そんな時、ある運動が始まった。それは『自分達はイギリスから独立できるのではないか』と。そんなものは愚の骨頂であるという者もあれば、そうだそうだと声を挙げるものもいた。

 結果、後者の方が圧倒的となり、イギリスからの独立を選んだ。そして起きてしまったのが、『ソルフィス独立戦争』である。この戦いはイギリスには負けたくない戦いであった。何故なら、これで負けてしまえば、石炭は獲れなくなるからだ。そこでイギリスは海軍を多く呼び寄せ、ソルフィスの軍隊に戦いを挑んだ。

 が、ソルフィスのスチーム文化はとんでもない方向にあったのだ。何故なら、ソルフィス側はスチームで作りあげた蒸気装甲兵器や多くの蒸気大砲、そして強化された蒸気船の軍団がイギリス海軍を待っていたのだ。これには海軍も歯が立たず、結果として独立を認める形となった。だが、ソルフィス側も多くの死者を出した。さらには、石炭の不足も発生した事実があった。そこで現れたのは、石炭の取れ高を管理する集団だった。彼等はソルフィス軍に石炭を与え、莫大な利益を得た。これが後のスチームマフィアの始まりである。

 そして、戦争の終わりから五年が経ったソルフィスの朝の事である。


 コガイ・ボルン。彼はいつも早朝の誰もいない住宅密集地を歩くのが好きだ。早朝は、住宅から聞こえる蒸気と歯車の音がこだまする。機械技師の身を引き締めらせる音だ。仕事の時間外の今は朝日を浴びて、一日の始まりを楽しむ。ポジティブな少年だ。だが、彼は五年前の独立戦争で両親を亡くしている身なのだ。それこそ誰だって、悲しみは同情するだろう。だが、彼はそれを越えようとしていた。

 朝日が完全に登り切り、人が増え始めた所でコガイは職場へ急いだ。その今回の仕事は、あるマフィアのスチームタイプライターの修理だった。コガイは報酬ははずむぞと思いながら、全力疾走した。だが、この仕事により、コガイ・ボルンは裏社会に足を踏み込むこととなるのだった。

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