牢獄の中に生えたレモン

 『釣りバカ日誌(作 やまさき十三、画 北見けんいち、小学館)』で、ある脇役が会社で出世して支社長かなにかに昇進したときのこと。経営上の問題で部下達の身の振りようを考えねばならなくなり、誠実に実行して感謝もされるのだが、一つの事実に突き当たった。誰もその脇役を心配しようとはしない。
 翻って、本作は更に深刻である。なにしろ主人公は『全てを』奪われたのだから。題名から連想される暖かくて甘酸っぱい印象が皮肉としか思えなくなる。思うに主人公はレモンの皮のごとき存在だと、自分で自分を解釈しているのだろう。果肉を守っているのに邪魔扱い。少し通な人間ならまとめてジャムかなにかにするのだろうが、そんな手間暇を払ってくれる人間はなかなかいない。
 それでも最初から皮のないレモンは存在しない。ああ、遺伝子操作とかなんとか、そういう類はここでは置いておく。主人公が自分自身の心に蓄えている豊かな果肉に早く気づくよう祈ってやまない。