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少女が一通り泣き止み、青年に再び礼を言って立ち去ると、今度は一羽の黒い烏が彼の前に現れた。その烏には見覚えがあった。以前魔法の針と糸をくれた魔法使いが肩に乗せていた烏であった。青年は一瞬にしてその意味を悟ると、今まで使ってきた魔法の針と糸をその烏のくちばしに差し出した。烏はそれをくわえると、さっと夜空へと舞い上がった。その時初めて、青年の目から涙が一粒こぼれ落ちた。


「ありがとう。これで本当に傷が癒えました。これからはさっき出会った少女のように、本当に心の傷が癒えるように、他の人達の力になれるよう、がんばろうと思います。ありがとうございました」


青年は最後の言葉に力を込めると、空高く舞い上がり、瞬く星の一つとなった烏に向かって深々とお辞儀をした。そうして、もう一粒大きな涙を青年は流した。

(完)

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魔法の針と糸 はやぶさ @markbeet

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