この中に作者がいます!!!

ちびまるフォイ

真実はいつもふたつ!!!

絶海の孤島にある洋館に閉じ込められた人たち。


そこには、オペラ座の変人の劇になぞらえて

宿泊客たちと殺していく恐ろしい殺人事件が起きていた。


名探偵:コナ田一は全員を食堂に集めた。


「みなさんに集まってもらったのはほかでもありません」


「まさか……殺人事件の犯人を!?」


「そう、この中に作者がいます!!!」


全員の顔のカットインが入る。

そのすべてがあっけにとられていた。


「……え、作者?」


「ええ、この物語を紡いでいる作者が我々の中に紛れているんですよ。

 そいつは狡猾で天才でイケメンで困ったやつです」


「殺人事件は?」


「なんの思い入れもないあなたたちが殺されて、

 その殺人事件の犯人を当てていったい何になるというんですか」


「扱いひどっ!!」


「というわけで、この中にいる作者を殺人事件とは関係なく見つけます!!」


全員が名探偵の言葉に息をのんだ。

見つけたところでどうにもならないというのに。


「それで、どうやって作者を見つけるんですか?

 呼びかけたりするんですか?」


「大事なのは地の文です。我々は自分の意思で話していますが

 作者は地の文でぼろを出しますから、そこを見抜くんです」


「あの地の文ってどれですか……?」


宿泊客のひとり、殺人犯はおどおどと聞いた。


「↑これです。誰が殺人犯かなんて断定できるのは作者だけです」


「なるほど」


「ではみなさん、ここから先はしゃべらないでください。

 我々がしゃべればしゃべるほど、物語は進行してしまい地の文が出なくなる。

 作者の地の文をあぶりだしてぼろを出させるのです」


全員が口を閉ざした。



館は静寂につつまれる。



時計の針が時を刻む音だけが響く。



書くことがない。



じわじわと緊張感が体を走り、手汗がにじんでいく。


「よし!! いまだ!!」


名探偵はぷはっと口を開いた。


「なにかわかったんですか!?」


「作者のやつ、さっそくぼろを出しましたよ!

 時計の音が聞こえるのも、時計の近くにいる人間。

 そして今、手汗が出ている人間こそ、この物語の作者です!!」


「みんな! 手を改めさせて! 必要以上に拒否する人は作者よ!!」


その瞬間、突如なんかものすごい光的なアレで全員の記憶が消し飛んだ。

先ほどの地の文とかもろもろを跡形もなく忘れた。


「あれ……いったい何を……?!」


「しまった!! 作者のせいで、記憶が消されている!!」


「これじゃ、どんなに追い詰めても作者の地の文で逃げられちゃうわ」


作者はその気になればタイムリープも地球滅亡もできてしまう。

それだけの力がある人間の尻尾をつかむことなど不可能。


「……わかった」


名探偵は何かを悟ったようにつぶやいた。



「今から、お前らをなぐる!!!」



「「「 なんで!? 」」」


名探偵はご乱心。

意味のない暴力ほど怖いものはない。


「歯ァくいしばれーー!!」


「ひぃぃぃ!!!!!」


まずは執事がビンタされた。


「痛い!!」


次に殺人犯。


「ひゃあ!!」


そして、影から見ていた家政婦。


「うぼぁ!」


世紀末覇者。


「ぐはぁ!」


私も殴られた。




「いまだ!!! 取り押さえろ――!!」


その瞬間、名探偵はそいつを取り押さえた。


「くそっ……離せ!」


「ふふふ、地の文でいくら改変しても

 ビンタみたいな急なアクションには対応できないし

 すぐにボロを出したな、このマヌケが」


「貴様、こんなことして許されると思うな!」


「はっはっは。これにて一件落着!!」


かくして作者は絶海の孤島から1分おきに出て入る定期便で

本土へと帰り、長い事件の幕がそっと降ろされた。






「――ちょっと待って」


「どうしたんだ小雪」


ウイスキーが好きなアシスタント小雪は気付いてしまった。


「作者が捕まったのに、どうしてこの物語は続いているの!?」


「そうよ! おかしいわ!」

「作者が捕まったときでさえ、地の文があったわ!」


「まさか……! この小説は共同執筆だったっていうの!?」


小雪は真理にたどり着いた。

しかし、あんな原作者のようにボロを出す俺ではない。


「見て! 地の文が一人称になっているわ!!」


「やっぱり作者はふたりいたのよ!!」


名前も付けられていないモブどもが吠えたところで意味はなかった。

イケメンの作者は口をもうごかさず淡々と描写を続ける。


「小雪、今度の作者は一筋縄ではいかなそうだ。そうとうに賢くてイケメンだ」


「いいえ、作者はとんでもないへまをやらかしているわ」


笑わせる。

これまでの物語の中で痕跡を残したことはない。

仮に残していたとしても、地の文を書き換えてしまえばそれまでだ。


愚かしく、知能の低い登場人物に乾いた笑いがこみ上げてくる。


見つけられるものなら見つけてみろ!!!!






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