弱き者へのメッセージ 三十と一夜の短篇22回
白川津 中々
第1話
時給960円。
学生のバイト代と見間違うような金額が、今の俺の価値だ。なりたくてなったわけではない。普通に生きてきたつもりだったのに、いつの間にか、こうなっていた。
同級生は時計を買った。車を買った。家を買った。俺は、100円程度のパンとジュースを買うのも躊躇っていた。
寒い部屋で、飢えを凌ぐ。暖房はない。あるのは、使い古した布団だけ……俺に与えられたものは、何もない。生きていても苦しいだけだ……
そんな毎日。おさらばしませんか?
我が社なら月給20万円保証!
定時上がり90%!
有給消費率100%!
成果を出せばすぐさま還元!
昇給昇進当たり前!
賞与はなんと半年分!
可能性。捨ててませんか?
あなたの価値は、思ったよりも高いです。
契約社員入社からすぐに社員へステップアップ。
まずはサイトへアクセス!
株式会社 コネクタルコネクト
「……いかがでしょうか」
「素晴らしい。早速来月から地上波とウェブ放送で流せるよう手配してくれ」
「ありがとうございます。では、そのように……」
東京の離れにあるビル。株式会社コネクタルコネクトは、その一区画を借り入れている。
社は二十年前に創業され情報産業を取り扱っている。ITバブルの波に乗って急成長した企業なのだが、その内情は酷いもので、派遣や契約社員を使い潰し、社員ですら法に触れる労働を強いているのだった。いわゆるブラック企業である。
月給20万円保証!
ただし謎の排除額が発生する。
定時上がり90%!
記録上。皆17時には退勤している。
有給消費率100%!
記録上。有給は完全消化されている。
成果を出せばすぐさま還元!
成果のハードルは高く、かつて超えた人間はいない。
昇給昇進当たり前!
皆、何かしらの役職に就かされ、雀の涙程度を得る代わりに残業代は支払われない。
賞与はなんと半年分!
一部役員(ほぼ社長の親族)に一年分支払われており、平均が丁度半年分である。
「こんなCMを見て、ウチに入りたいと思う馬鹿がいると思うと、笑いが止まらんな」
人の耳には届かぬ場所で、下衆の高笑いが木霊する。そこは、弱者の骸でできた山の上……
愚者は耳障りのいい言葉しか信じない。価値もないのに、自己を認めてもらいたくて仕方ながない。
何もできないくせに、何かできる気になって、何者にもなれず、何も得られず、利用されるだけ利用され、ゴミのように朽ちていく。
あなたの価値は、そんなもの。
どうせ無駄な人生だから。
潔く、死んだらどうですか?
弱き者へのメッセージ 三十と一夜の短篇22回 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます