第21話 クルフの幸せな時間

「…誰だ」

「ガイ・エルファスでございます。至急、ご報告したいことがあり、参りました」


ガイだった。

何かしら進展があったか?

うーん…すぐ確認しておくべきか。


「ガイか。入れ」

「えっ!?クルフ様!手をお離し、クルフ様!?」


そこでジタバタと膝の上でもがき始めた可愛い嫁に気がついた。

どうやら恥ずかしいやら不敬やらで降りたいらしい。

俺はついつい嗜虐心にかられて意地の悪い笑みを浮かべてしまった。

俺が離してくれないと気づくとメイはガイが入ろうとしている扉と俺の顔を慌ただしく見るとうめき出した。


「ん〜〜〜〜〜!?」

「失礼しま…は?」


ガイは入ってくるなり、開口一番で口が閉じなくなっていた。

まぁメイド服姿の誰かが俺の膝に座り、顔を隠すように俺の胸に額を押し付けていたらそんな顔にもなろうというもの。

まぁ髪の色とかで正体はバレバレなんだが、必死に隠そうとしてる嫁可愛い。


「クルフ…何をやってるんだ?」

「見てわからないか?エネルギー補給だ」


見せつけるようにするとなんだか呆れられたように感じた。


「いや、まぁそうか…やりすぎて愛想つかされないようにな」

「そのときには今以上に求めるようにしよう」


そう言いながら握っていた手に口づけをした。

遠目からでもわかるぐらいに体をビクリとさせたメイの反応に満足したので、話題を戻した。


「それで至急の報告というのは?」

「あ、あぁそれなんだが、エヴォルの人数についてだ」

「なんだと?わかったのか」


正直驚いた。

あと一日はかかるだろうと思っていたが、エヴォルは隙きを見せたらしい。


「ネクス付きのカゲロウ部隊が騎士杯に参加していた三人を張っていたところでエヴォルの会合らしき現場を確認したそうだ。これがその報告書だ」


メイの手を名残惜しいが離し、その手でそのまま報告書を受け取った。

どれどれ。


「…騎士杯に参加したビー等三名が『春風亭』に現れ、建物二階のとある二人組の宿泊者の部屋に向かい合流。その後部屋から気配の一つが消失。数分後同室内の気配は突如四人増え、計八人に…そのとき新たに二階へ向かう客は誰もいなかった、か…これはほぼ確定だな」

「一人は姫だとしてエヴォルの面子は七人…カチ込むか?」


焦っているわけでもないのにガイは手を出したがる癖がある。

先手必勝は大事な考えではあるが、今出すわけにはいかないのだ。


「逸るな。おそらくタイミングが重要になる案件だ。その上総数まではっきりしたわけじゃない。少なくとも動くのは騎士杯終了後以降だ」

「了解した。それとついでの報告なんだが、明日の出立準備は整った。時間はどうする?」


そういえばまだ明日の時間を伝えていなかったか。

俺は報告書を机に置き、伝えた。


「それなら八の刻だ。そのタイミングならネクスとの打ち合わせにも余裕だろう」

「わかった。んじゃ報告も済んだしここらで撤収する…ほどほどにな」


ん?今のは俺に対して言ったのか?

俺はそんな違和感を感じながら、ガイが出ていった扉が閉まるのを見届けた。

ガチャンと音を立てて扉が閉まると不意に目下から声をかけられた。


「…クルフ様」

「どうし…あ」


俺の膝の上にてゴゴゴゴゴゴ…という音が見えるぐらいにブチギレてる恐かわいい奥さんの目から稲光のようなものを感じた。

まずい。これはまずい。


「もしかしなくても怒ってるか…?」

「はい。ものすごく」

「…どうすればいい?」


原因はもはや明白。調子に乗りすぎたか。

よし!ここで一番重要なのは確実に怒りを鎮めてもらうための一手だ!

メイは一瞬だけ考え、何かを思いついたのか、声を張った。


「ジーナちゃん!」

「は、はい!」


突拍子もなく呼ばれたジーナは先程の報告会のときに来ていた黒装束から口元のマスクを外した状態で転げ落ちるようにワタワタと現れた。

ちなみに俺のもう一人の奥さんでもあるが、身内びいきなしでも可愛い。


「今までのことは見ていましたね?」

「…!…はい」


さっきまでの俺の凶行を思い出したのか、ジーナは少し俺から目を逸らし、もじもじと小さな返事をした。


「それと最近は任務ばかりに精を出し、クルフ様との二人の時間も取れていませんね?」

「…?」


突然訊かれた内容にキョトンとした顔を上げたジーナ。

メイは何が訊きたいんだ?


「…決めました。今あなたがクルフ様にしてもらいたいことを言ってください。それで私はクルフ様を許します」

「ぅうぇ!?」


ジーナはそのあまりの唐突さに素っ頓狂な声を上げた。

たしかに言われてみればジーナとの時間は仕事の話ばかりだったかもしれない。

メイはそれを気にしてくれていたのか。

ジーナにもメイにも悪いことをしたな。

…かと言って目をうるうるさせながら俺を見るんじゃない。

今回の件は俺に非があるので、助け舟は出せないと後ろ髪を引かれつつ目を逸らすと、目の端でジーナが絶望に打ちひしがれた表情をしていた。スマン。


「………あの……」


どれくらい経ったのか、ジーナは言葉を発した。

チラリと視線をジーナに向けると顔が見えないぐらいにうつむき、ボソリボソリと。


「あの…あのですね…クルフ様とメイちゃんとさ、三人で一緒に…あの…ゴニョゴニョ…」

「そうですか…そうですか」


…なぜだろうか。

メイから不穏な気配を感じる。

ジーナがボソボソ喋っているせいで聞き取れないから余計に不安だ。


「お話はわかりました。ではクルフ様参りましょう」

「えっ…どこに?」

「もちろん…寝所へです」


メイは満面の笑みでそう返してきた。

抜け出ようにもジーナは耳まで真っ赤になっているし、他に頼れるものもない。

これは…詰んだか?


「明日は早いんだが…」

「わかっております」

「あっはい」


わかっていたがダメ元で進言するも眉の一つも動かない。

ガイよ…寝坊したらすまん。

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