第20話 クルフは頭を悩ませる
報告会が終了し、執務室に戻った俺は様々なことに悩まされていた。
【約束の日】に、不確定因子のエヴォル、エヴォルにさらわれたと思われる姫の所在…様々だ。
そんな悩める俺に気づいたのか、追従してくれていたメイドのメイが声をかけてきた。
「お疲れ様でした、陛下」
「…メイ、二人きりのときぐらい名前で呼んでくれ」
少しだけ口角を上げたメイが堅苦しく労ってきた。
「それでは失礼いたします、クルフ様」
「あぁ」
…こいつわかってて言ってるな?
お前が面白がってわざと陛下呼びしてるのはバレバレだぞ?
だが、俺はそんなことに触れられるほど余裕はなかった。
「ふぅ…一気に考えることが増えたな…」
「心中お察しします。お茶入れますね」
「頼む」
さて、自分の椅子に腰を落ち着けたところで少し状況を整理しよう。
今の状況は少しだけ向かい風になっている。まず、我々の最終目標は約束の日を完遂することで、そのためにはまず姫が必要不可欠なのだが、今はエヴォルの構成員と思しき二人組にさらわれてしまったから、まずは姫を奪還しなければならないが、そのためには…。
「…クルフ様」
「ん?…ああすまん。考え込んでいた」
少しボーッと考え込んでしまっていたようで、メイの声に意識を戻された。
どうやら何度か呼ばせてしまったようだ。
少し申し訳なく思っていると、メイが感づいたのか、淹れてくれたお茶を机に置きつつ声をかけてきた。
「…私でよろしければお聞きしますよ」
メイは俺のことをよく見てくれている。
いつも甘えてしまっているが、どうしたものか…。
「私では力不足かもしれませんが言葉にすれば見えてくるものもございます」
まっすぐと俺を見つめてくれる瞳は俺の意思を解かしていく。
この目に見つめられるとどうしても甘えたくなる気分になってしまう。
これが惚れた弱みか。
「…メイには敵わんな。ならば聞いてもらおうか」
だがメイは先程俺をイジってきた。
少しだけ意趣返しするべく両手を広げ、受け入れる体勢を整えた。
それを見たメイは何をさせようとしてるのか気づいたようで、キョロキョロと動揺し始めた。
「安心しろ、呼ばなければ誰も来ない」
「…では失礼させていただきます」
俺の一声が最後のひと押しになったのか、軽く会釈するとスススッと俺の座る椅子の近くまで近づいてきた。
それでもメイは近づくだけ近づいて、また立ち止まって逡巡していた。
ただ目線はじーっと俺の太ももを見続けているから、何かしら葛藤しているのだろう。
とここで俺は悪いことを思いついてしまった。
今ここでメイの腕を急に引いたらどうなるんだろうか?
「…」
「キャ!…もうクルフ様…!」
想像以上に可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。
急に手を引かれたメイはそのまま体勢を崩し、俺の膝の上にぽふりと座り込んだ。
最初はアワアワと慌てていたが、落ち着くと非難するような怒っているような目を向けてきた。
そんな俺の嫁はやはり可愛かった。
そう、何を隠そうメイは二人いる奥さんのうちの一人なのだ。
「そ、それでどういったことで悩まれているのでしょうか!」
メイはニマニマとしている俺の目に耐えられなくなったのか語気を強めて話を変えてきた。
もう少し堪能しようと思ったが仕方ない。
俺は少し真面目な顔をしながら話し始めた。
「さっき出てきた話の内容を整理していてな。無事に『姫』の召喚が行なえたというのに、『姫』さらいに始まり、コアを使用せずに超常の力を操ると思われる【エヴォル】の出現、それに『約束の日』のことだってある」
「今はどのような対処をお考えで?」
メイは俺の考えを言葉にできるように促してくれた。
順序立てて話していこう。
「まず『約束の日』に関しては予定通り行なうつもりだ。そこに変更はない」
少しだけメイの表情に陰りを感じた。
これは仕方ないこととはいえ、心に来るものがある。
「だがそうなるとなんとしてでも姫を手中に収めなければならない…例えあちらに正義があろうともだ」
「…」
メイはコクリと無言の肯定をくれた。
俺はそのまま言葉を続けた。
「そしてそれを成すためには【エヴォル】を知らなくてはならない。現状メンバーで顔が割れているのは騎士杯に出場していた三人だけだからな。相手の総数も思想もわからんでは対処どころか姫奪還もままならん」
「ということは?」
「まずは彼らの早期調査だ。最低でもメンバーの人数と顔は知っておきたい。思想や狙いは最悪わからんでもいいと考えている」
「では衝突することもあり得ると?」
メイの瞳から心配する色がするのをありありと見て取れた。
…いつも心配をかけさせているのは直さねばならんか。
「可能な限り避けたいとは思うがな。いたずらに疲弊するのも馬鹿らしいし、対話で済むならそれが一番だ」
こうは言ってみたものの、メイの顔には心配の色が残っていた。
だからこそもうひと押し。
「安心しろ。メイたちを残して俺は死なんよ。たとえ誰が相手でもな」
「…はい」
俺は安心させるようにメイの目を見てまっすぐとそう言った。
それで少しは気が楽になったのか、メイの表情が柔らかくなったように感じた。
少しだけ気恥ずかしさを感じてしまった俺はごまかすように続けた。
「それと姫の奪還だが、これについてはガイやネクス、シノを使おうと考えている」
「あの者たちをそこまでの存在とお思いですか」
ガイやネクスは言わずもがなこの国の中でもトップクラスの実力者。
シノはガイやネクスに次ぐ実力者で、今でこそ別の任務を任せているが明後日には戻る予定になっている。
彼らに国のトップを当てるのにも理由はあるのだ。
「いや、たしかにそれも多少はあるが、どちらかといえば電撃作戦、速さ重視の作戦にしたい。そのためには少数精鋭で事に当たらせるほうがいいと思っている」
「ですがそれではクルフ様の警護が薄くなってしまいます」
「なにも俺の兵はあいつらだけじゃない。兵士たちもいるから安心しろ。それに【アレ】もまだ動かんだろうしな」
メイはまだ納得はしきれていない様子だが、こればかりは仕方ないから納得してもらわないといけない。
「だがそうするためにはやはりタイミングを見計らわなければならない。そしてそのためにはやはり調査が必要になる…何をするにも彼らの調査に行き着くと。はぁ…」
「元気を出してくださいませ」
眉間にシワを寄せうなだれるとメイは頭を撫でて、元気づけてくれた。
なんという優しさ…これはもう手を握って離れられないようにしなければならない。
そんな風にメイの優しさに蕩かされていると、部屋の扉が叩かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます