どのシーンも細やかに構築されているので、想像を描くほど映像が浮かび上がってくるような言葉運びが魅力的な物語。この世の惨劇にはすべて発端があることを伝えようとする強靭な意志と世界観に心動かされます。SFとして物語を構築していく上での作者のテクニックには映像的な趣向だけでなく、生物学、物理工学、薬学、天文学等の知識と論理的観点を駆使して、物語の中に取り入れ、登場人物一人一人に物語を構築していく上での役割を与えていると思いました。人工知能AIの進化で拡大しているロボットの話題も連想させ、AIと人類が共存していくためにはどうしていくべきか省察していくことの大切さも訴えかけているように思いました。
それから、SFの命題として未知なる脅威との闘いが大前提にあると改めて思ったのですが、大いなる意志に向かってストーリー全体が繋がっていることが読めた時にそれまで、詳細に描かれていた各章の内容に意味が生じて、悲しみに包まれた惨憺たる場面をも描き上げた作者の並ならぬ筆力の強さと努力の過程を思いました。
終焉をむかえる文明世界のなかに生きる人と、それを脅かす機械生命体「ドローン」、そしてエンフォーサーと呼ばれるドローンから人を守るためのヒューマノイド。
エンフォーサーから見たこの世界を、自身のアイデンティティ(存在意義)を意識しながら断片的場面を切り取っていきます。なぜ世界が終焉へとたどり着いたのか。物語が抱える謎は、終焉世界のエンフォーサーの視点から、その先の未来の人々へと移り、そして、その発端となった過去へと舞い戻ります。
それぞれの時代のそれぞれのヒューマニティ(人間性)。そこから、人類という枠を越えた「生命」の意味を明らかにしていきます。生物学的に見た生きるということ。おのおのが胸に秘め、つき動かしていく情動という名の生命のほとばしりの果て。
知的好奇心を刺激されながら、地球という星の上に生きるということへの壮大な問いかけとその答えを、是非目撃してみてください。