夏の思い出と鼓動音
鳩ノ木まぐれ
夏の思い出と鼓動音
うつる花火は水面を賑わせる。
彩りは輝きを放ち一瞬で星空に消える。
「え、あれ? 私なにしてたんだっけ・・・」
場所は辺りを見る限り、祭りの会場だと分かる。
ビニールの幕を張った台形の屋台が道端にずらりと並んでいた。
もしかしてこの光景は私がみんなと行こうと楽しみにしていた花火大会。でもどうして私だけこんなところに?
「カナデ! はぁ、やっと見つけた。勝手にどこかに行くなよ。心配したじゃねえか」
「マ、マサキ君」
私は少し焦る。彼に私の何も構えていない顔を見られない様に少しうつむく。
今、気が付いたが、私は青の水玉模様の浴衣を着ていた。マサキ君はこの浴衣どう思うかな。
呼吸を整えたマサキ君は私の手を引いて言った。
「みんな待ってる、合流しよ」
「っ~~」
声が出ない。
手を引かれる私は人の波の中を進む。
「待っ、待ってマサキ君」
体から発した言葉はマサキ君に伝わった。マサキ君は振り返って私の事を見る。
「一緒に屋台回らない?」
二人きりなんだし、とは言えなかったけどちゃんと誘えた。
きっと彼なら優しく「いいよ」と口にするはずだ。
屋台は温かい熱を持っていた。すっかり夜は深まり、祭りは佳境に入ってゆく。
リンゴ飴をねだる子供、綿あめにはしゃぐいい大人。
祭りの百八に染色された寺の暗闇。笑顔の二人。
近づく心には恥ずかしさが帯びている。
そして・・・。
こんな、景色を一緒に見たいな。
美しい夜の世界は白い天井に変わる。
「夢・・・」
「どんな夢を見てたんだ?」
マサキ君が起きた私の隣にいた。
「ん~~。二人で花火デートをしてる夢かな・・・」
「ふーん、どうだった?」
「今度の花火大会に一緒に行けば分かるよ」
「じゃあそれまでに夏風邪を治せよ」
「一緒に行ってくれる?」
「つ、付き合っているんだから当たり前だろ。言わせんな。バカ」
夏の思い出と鼓動音 鳩ノ木まぐれ @hatonogimagure
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