第50話 「世界観」を表現する知識と構成について(作品紹介)

 今回の項目は「世界観」についてになります。

 物語を表現する際、土台となる大地、キャラクターが生きる世界をどう作り、構成に組み込むか。

 その部分に関する説明というか、参考作品を解説と共に紹介させていただこうかと考えております!


 ともあれ、まずは挨拶をば。


 ……ご無沙汰しておりました!

 更新がすっかり遅くなってしまい、申し訳ありません。


 気が付けば、前話の更新はもう1年以上も前なんですね。


 当エッセイの最新話を書くネタを探してた期間だったのですが……。

 ようやく書きたいと思えるネタと、それに合う題材を見つけられた、という状態になったのであります。


 なんと――題材が3つ、あります!


 3作品の魅力を簡単な解説を交えて、紹介したいと思います。

 当エッセイには珍しく、3作品とも小説です。


 もう、どの作品も「世界観」の魅力たっぷりで、とても勉強になります。

 花咲は出会ってから、もう5回は読み直している作品たちなのですよ。

(内2作品は今年に出会っているので、読み返すペースが早いこと、早いこと)


 3作品ともジャンルや、魅力を伝える構成が違っているので、読んで楽しんでいるだけでも、とっても参考になります。


 閑話休題。


 という訳でさっそく、1作品目の紹介をさせていただきます!


■ くじびき勇者さま

著 清水文化 先生


 こちらはジャンルがハイファンタジーであり、剣と魔法が活躍する冒険譚です。

(ハイファンタジー=架空の世界を舞台にした幻想性の高い作品)


 ちなみに完結済みです。

 花咲が出会ったのは高校生の時くらいだったかも。


 架空の世界の中の、とある大陸にある王国でのお話なのですが……。

「宗教」が設定の根幹に大きく関わってきていて珍しいと感じましたね。


 その宗教(ソルティス教)は、なんと「くじびき」で運命の岐路を占い、出た結果に沿って生きる、と決められているのです。

(舞台である大陸にある国家、街はほとんどがソルティス教信者。もう1つドラゴン教という宗教も出てきて、その宗教観と常識の違いも面白い)


 国家の大事な物事を決める時、個人が就職先を選ぶ時(組織が個人を採用する時)、夕ご飯に何を食べるか迷った時など


 とにかく、何かを「決める」時には、くじを引いて占う、という文化が根付いている世界観で生きるキャラクターたちのお話なのです。


 しかし、そんな常識の中で、常識を疑う人物が主人公になります。


 主人公は魔法使いでもあるソルティス教の見習い修道女なのですが、しかし「くじびきが嫌い」で、物事を選ぶ時は科学や工学、数学に基づいた予測から、行動や判断を決めることを好むのです。

(くじびきでは過去、自分の望む方向性に決まったことが無かった経験もあり)


 そして相棒である勇者は、大陸に広がった謎の病気を解決せよ、という理由で候補者を集められ、くじびきで選ばれた凄腕の剣士なのですが、主人公とは正反対に宗教観が強く、敬虔なソルティス教信徒となっているのです。


 主人公は、くじで望んでいないにも関わらず勇者の従者になってしまい、2人は救世の旅に出ることになってしまいます。

 原因も分からない、広範囲にり患者を出している病気を解決する為に奔走するのですが、その中で、あくまで行き先も「くじで決めるべき」とこだわる勇者と、病気の発生場所や原因を「科学や医療知識に沿って調べていきたい」と主張する主人公で言い争ったり。


 そんな中で、剣と魔法が基となる世界観なのに、主人公の好奇心と知識から、どんどん科学が発達していき、飛行機からの爆撃や火炎放射機、ガトリング銃を開発してしまったり、果ては電話や鉄道を開発して世界を豊かにしてしまったりと、どんどんファンタジーの世界が現実の地球の歴史、発展に近づいてきたりして……。


 なんだか、とってもワクワクする! という作品でした。


 いわゆる「転生もの」と呼ばれるジャンルでは、現在科学の知識を使って無双したりするのですが、この作品はハイファンタジー、転生ものではありません。

 あくまで世界に元々ある技術から、発展させたり、組み合わせたりして、剣と魔法の世界を逸脱し始めるのです。


 その主人公の現代的な感覚は、修道女であるはずなのに宗教観を信じておらず、舞台の登場人物とのやり取りがドタバタしていて面白いと感じました。


 ハイファンタジー作品で、ここまで「科学」を一から構成しだすのは中々お目にかかったことがなく、読むたびに新鮮で、勉強になるなぁ~、そして面白い!

 という感想を抱いたのでした。メイベルかわいいよ、メイベル。




■ 魔王と勇者の戦いの裏で

著 涼樹悠樹 先生


 こちらは「小説家になろう」にて掲載されている作品ですが、小説として商業販売されてもいて、さらにはコミカライズも見事な出来栄えの素晴らしい作品です。


 ジャンルがローファンタジーであり、こちらも剣と魔法が活躍する冒険譚です。

(ローファンタジー=現実世界や現実世界と繋がりのある世界を舞台とするもの)


 舞台は架空の世界なのですが、主人公は現代日本からの転生者。

 RPGゲームの世界に転生してしまい、その中でどう生きるか、を描いている物語なのですが……。


 もう本当、お見事! の一言です。


 こちらはドラゴンクエストの世界をイメージしてもらえると、とっても想像しやすいです。

 魔王がいて、魔王に従う魔物が世界に溢れ、人間のそれぞれの国や街が被害にあっている。


 その中で「勇者」というスキルを持ってしまった平民の冒険者が、魔王を倒しに行く……、という世界観の中で


 主人公=勇者 ではありません。


 元のゲームストーリーで、魔物の大侵攻により(おそらく)死んでしまう、グラフィックもセリフも用意されていない、最初の街に生きる名もない貴族、の家に生まれた子ども、です。


 つまりモブです。魔王とは戦いません。

(勇者とは同じ年齢で学生時代に友達になるので、勇者の親友としての位置づけ)


 しかしゲームプレイ済の主人公は、なんとか魔物の大侵攻を生き延びようと準備と修行を重ねて、モブでありながら魔物を倒し、侵攻を退けるために研究や試行錯誤を繰り返すのです。


 この作品の魅力はこの「試行錯誤」と、それに基づく「考察」が大きいと感じました。

 そして、それを上手にお話の構成に盛り込んで主人公を活躍させる描写です。


 そもそも魔法とは何なのか。

 火の魔法を使った際、効果時間が続く限りは燃えるが、効果が消えたらパっと火が消える、なんでだろう(現実の火とは明らかに違う、原因を探って役立てよう)


 最初の街の周りには、なんで弱い魔物や、質の低い装備品しかないんだろう。

 逆に中盤や終盤の街にレア装備や、レアアイテムがあるのは何でだ。とりあえず貴族の権力とお金と根回しでゲットしておこう。


 そもそも魔王はなんで人間を滅ぼそうとしてくるんだ。

 魔物の大侵攻の裏事情、ゲームシナリオではこう描写されていたが、本当はこういう事情があって、こういった狙いの元に侵攻があったのか。


 RPGゲームの世界観を、現実に落とし込むための設定や補強要素。

 人間側のストーリーを補足する為の裏事情など、ゲームを基にしつつも、その世界で実際に生きるからこそ知れる情報など。


 そして主人公は貴族の子息として生まれた為に、貴族社会の中で生きなければならない。

 貴族社会の階級制度、駆け引き、根回し、交渉や権力の使い方など、とても丁寧に「世界観」を説明しており、読み進めるだけで、とても勉強になります。


 この作品は、ゲームプレイ済だからといって、誰にでも活躍できるわけではなく、この主人公だからこそ上手に根回しも出来て、準備を重ねて、周囲の人から信頼され、国王や王太子殿下に気に入られるんだろう、という「頭の良さ」を感じさせる、魅力たっぷりな物語です。


 ……実は花咲、小説家になろうの作品群を読んで、自分でも何か作品を書いてみようと考えた時、同じような発想を抱いたことがあるのです。


 ゲーム世界に転生し、その設定の裏をつくような検証や実験で主人公を活躍させたら面白いだろうか、というものですね。

 探してみると結構、同じような魅力で勝負している作品あると思います。


 しかし、この作品を読んで「こりゃあ敵わないぜ……!」と度肝を抜かれた経験があります(笑)


 ゲーム世界の設定やバグ要素を考察し、役に立ててやろう、というネタ勝負をしている作品の中で――


 この物語ほど丁寧に描写し、かつ現実から外れていない常識の範囲内で、主人公の頭の良さや慎重さ、誠実さや努力を魅力として伝えられているものは中々ないと感じました。


 オススメです!

 コミカライズ版も文字描写では伝えきれない迫力や現実感をたっぷりと補強しており、最高に面白かったです。




■ 淡海乃海 水面が揺れる時

著 イスラーフィール 先生


 こちらは現実の日本、しかし戦国時代(1550年代)の武士の子どもとして生まれた転生ものになります。


 しかし転生先が武将の代表格である織田信長や武田信玄、上杉謙信――

 ではなく、滋賀県の辺りに領地を持つ朽木(くつき)という家に生まれます。


 ちなみに淡海乃海は「あふみのうみ」と読み、琵琶湖の事を指すそうです。

(当時の公家がそう呼称していたらしい)


 花咲も歴史物が好きで、時代小説などを読んでいたのですが……。

 もうまったく、朽木の武将のことなんか知らなかったくらいで、そこを主人公に選ぶ時点で、ありきたりな歴史改変ものとは一線を画す物語になっていました。


 あの時代、どうしても目立つ織田信長を中心に、信長に関わる人物への造詣が深くなってしまうのかなと思うのですが

(花咲がそうだったので)


 主人公が転生し、現代知識を用いて活躍しだすことで、少しずつ史実とは変わっていき、物語の中で目立つ武将も変わっていきます

(多少のネタバレではありますが、信長の妹、お市の方が嫁ぐことになる浅井家なんかは、その歴史が起こる前に……げふん、げふん)


 しかし、この作品で凄いと感じたところは――

 転生することで知識チートはあるにしたって、決して無茶苦茶な発展や開発などはなく、あくまで現実の範囲内に収まっており、

 その中で「主人公の慎重さや決断力、他武将や領地への調略や気遣い、準備に準備を重ねて物事を進める」という、知識チートに頼らない描写にあるのです。


 戦(剣や槍を使った戦闘)は、実際に起こる戦争描写の一部でしかなく、

 勝利するために必要なことは、忍びを使った情報収集や、噂を流すことで相手の領地や部下を混乱させたり裏切りを誘発すること

 穀物の刈り入れ時期を計算した兵糧攻めや、商人と協力しての資金作り(公家や幕府に金を使った根回し)等で、そもそも「戦闘に至るまでに有利な状況を作ること」の描写が、あまりにも丁寧に物語の中に組み込まれている、という事です。


 これも1つ前に紹介した作品に似ているのですが……。

 この主人公じゃないと、転生しても上手くいってないだろう、というくらいに人物描写が上手です。


 転生前の主人公も歴史好きで、年齢も50代ほどのおっさんが生まれ変わるのですが、ただの歴史好きでは絶対にこうはなりません。

(少なくとも花咲が転生したとしても、こうは絶対にならない笑)


 主人公や、物語に登場するキャラクターそのものに魅力があるんですね。


 とても小さい領地に生まれたので、大きい領地を持つ相手にどう勝つか――

 勝ったとしても全てが上手くいくこともなく、兵力の差や圧力、相手の謀や交渉で苦しめられたり、主人公の万能チートではない展開には、ハラハラしつつも、もっと先を読み進めたいとページをめくる手が止まりません(笑)


 戦国時代に生きる武将の名前(有名なのもモブっぽいのも)、朝廷から頂く階級の知識、武家の作法、何を食べて、どうやって領地を治めて商売をしているか。

 相手武将との戦に勝ち、領土を攻め獲ったとしても、それに付随する問題が新たに起こる等。

 史実ではこうなっていたけれど、この物語では主人公の行動により早まってしまった、等。

 公家と武家の関係、史実の歴史からくる各人の感傷やこだわり、天皇や幕府の力関係や首都である京の地理やそれ以外の発展具合、地方に住む武将の想い等も。

 あらかじめ「知っておかなければ組み込めない知識」が大量に描写されており、それを違和感なく読者に説明してもくれています。

(もちろん作者の予想や、妄想なども含まれているとは思いますが)


 なんだか、まるで1つの長編大河ドラマを見たような気持ちになりました。


 これも小説家になろうで掲載されているのですが、

 小説は現在14巻あり読み応えたっぷり。

 さらにコミカライズ版もあり、そちらも漫画としての表現の上手さや画力が極まっており、キャラクターの感情表現が表情からも読み取りやすく、とっても楽しく読み進められます!




 ――今回、紹介させて頂いた3作品とも、

 それぞれが異なる「設定作り」そして「設定語り」という描写が秀逸で、

 その大元となる「世界観」という物語の舞台構築があります。


 そこに必要な知識量と、物語に組み込む構成力も脱帽ものでした。


 いつか、花咲もこんな物語を書きたいと思いつつも……

 まずはお仕事のゲームシナリオ作成と、以前ここでも紹介させて頂いた同人ゲームの続編作成も続けていますので、ぼちぼち頑張っていきたいと思います!


 それでは、今回は「世界観」を表現する知識と構成について、でした。

 物語の構成力や、どうお話を展開させるか、登場人物の描写の工夫は、世の中に出ている作品に触れることで効率的に勉強できます!


 花咲が触れてみて、大好きかつ、とても参考になった3作品です!

 ぜひぜひ、機会がありましたら一読してみることをオススメしますー!

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現シナリオライターが、物書きに必須な『考える』を掘り下げていきます。 花咲樹木 @Hanasaki_jumoku

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