第3話 友達は量より質だと思う

「んで、南さん?なぜここに……」


「決まってるじゃないですか〜。

朝ごはんを作りに来たんですよ!」


「そうよ、感謝しなさい、天命のぼっち」


なぜ最中と花音がここにいるのか、

それを説明しようと思えば1行で終わる話だ。


目を覚ましたら部屋にいた、以上だ。


どうやら『友達所望会』で朝会議をしようと花音が提案したらしく、最中は珍しくそれを承諾したらしい。


それで朝会議のついでにみんなで朝食というわけだ。


「ほら、出来ましたよ〜」


そう言って花音が運んできた朝食の内容は食パンにハンバーグを挟んだもの。


「ハンバーグサンドです!

私これ大好きなんですよ!」


横から見てみると厚さが8センチくらいありそうで……、


「南さん……?朝からこれはちょっと重たいんじゃ……」


「そんなことはないです!

男の子はこれくらい食べないと!

あと、南じゃなくて花音でいいですよ」


「そうよ、これくらい食べないと横綱になれないわよ?」


「俺はどこを目指しているんだよ……」


溜息をつきながら俺は目の前にある肉厚を見つめる。


「では、いただきます!」


「いただきます」


花音の声に続き最中も手を合わせる。

花音はがぶりとかぶりつき、美味しそうに頬張る。

いい食べっぷりだ。


最中はと言うと、丁寧にナイフとフォークで切って食べている。

顔には似合っているが、行動が性格と比例していないな。

ていうか、よくその肉厚を綺麗に切れるなと感心してしまう。


「なによ、ぼっち。

あんまり見られると飯がまずくなるの。

見ないでもらえるかしら?」


「朝の毒舌はなかなかグサッとくるな……」


「水蓮さん、そんな言い方は酷いですよ〜」


「花音……」


フォローしてくれた花音に感謝の涙が流れそうになる。


「みんなで食べると美味しいので、

それとこれでプラマイゼロってとこですよ!

不味くはなってません!」


おいおい、俺のせいで不味くなることは否定しないんだな……。

やべぇ、朝から心バッキバキだ。


「ところで、朝会議はしないのか?」


そこで花音がはっ!という顔をする。


「忘れてました〜!」


「ちっ、私だけで作戦考えてぼっちにやらせようとしていたのに……」


「あのー、最中さん?聞こえてますよー?」


「聞こえるように言ってるのだから

あたりまえよ。

ぼっちに煽りは85年早いわよ」


「そ、そうでございますか……」


ていうか、85年年って俺100歳じゃねぇか。

なんかギリギリ煽れそうじゃねぇか!


「あっ!私、いいの思いつきました!」


「あら、じゃあ聞かせてもらおうかしら」


「ふふふ、いいですよ〜」


花音は得意げに笑って胸を張る。

なかなかの大きさのバストのせいで現実的に胸元が張っている。

むしろ張り裂けそうだ(制服が)。


「それはですね〜、ホームルームで友達を募集するんです!」


「「それはない」」


俺と最中の声がシンクロする。

それもそのはず。

ホームルームで友達を募集する。

それは例えれば、友達のいない小学生が終わりの会で担任に「〇〇君と友達になってあげてください」と言われるほど恥ずかしいことだ。


それを自ら進んでやるなど、恥ずかしさで右耳が抜け落ちてしまう(例えに意味は無い)。


「そうですか……」


花音は落ち込んだ表情を浮かべるが、「それなら」とまた笑顔に戻る。


「それなら、どこかのグループに自然と入り込んでそのまま仲良く……」


「「それもない!」」


またも声がシンクロする。


「そんな勇気があったらぼっちをやっていける精神力があるはずだ」


「それにそもそもそれが出来るならぼっちになんてなってないわね」


最中の言い分はもっともだ。


「それなら……」


「南さん、少しの間クーリングタイムを作りましょうか。

あなたは食事をしたあとでエネルギーが有り余っているみたいだし……」


最中の言うことは要するに、黙っていろということだ。

こいつ、毒舌の腕を上げてきてやがる……。


「そうですね!すこし外を走ってきます!」


そう言って彼女は外へ飛び出していった。

活発系ぼっち、珍しいんじゃないか。


「やっと静かになるわね」


「お前、やり方が酷いな」


「賢いと言ってもらいたいわね」


まぁ、確かに花音は言葉をそのまま受け止めて傷ついていなかったようだし、これを計算してやったなら賢いと言うしかないな。


「ところで、今日の作戦なのだけど……」


「どんなふうにして友達を作るんだ?」


「しばらくは南さんだけでいいと思うのよ」


「どういうことだ?」


友達は大いに越したことはないのではなかろうか。


「ぶっちゃけ南さんともあまり親しく慣れていないわよね?」


「まぁ、そうだな」


「南さん1人を相手に友達というものを理解するのもいいと思うのよね」


「ほぅ…」


こいつにしてはまともなことを言うな……。


「だから、今日はこの『友達所望会』を正式な同好会にしてもらえるように申請を出しに行くわよ!」


「正式な同好会……?」


「えぇ、同好会という形にすれば放課後、部屋も分けてもらえるし、自然と噂も広まって人もやってくるでしょう?

そうすれば、いずれ部活といえる人数も集まって部費も……」


「未来設計が素晴らしいな……」


「そうでしょう?

私はぼっちくんには思いつけないようなことまで考える脳を持っているのよ」


「ぐぬ……」


言い返そうと思ったが本当のことだったので思うように言葉が出なかった。


「ただいまです!」


そこで部屋に花音が飛び込んできた。

本気で走ってきたのだろう。

汗だくで少し……透けている。


「あら南さん、早かったわね」


「ちょうどグラウンド20周してきました!」


朝からすっごい元気だな……。


「いやぁ、陸上部の勧誘を断る方が大変でしたよ〜」


「そんなことより、今日の計画がちょうど決まったところよ。放課後に実行するから終礼が終わったら私たちの教室に来てもらえる?」


「りょーかいしました!」


花音は敬礼のようなポーズをしてニッコリと微笑む。

やはりかわいいな……。


「ぼっちくん、考えてること丸わかりできもいわよ」


「は、はぁ?きもいことなんて考えてねぇよ」


「そうかしら?

私のことやっぱりかわいいとか思ってたんじゃないの?」


「お前じゃねぇよ!」


「じゃあ南さんのこと、かわいいと思ってたのね?」


「そ、それは……」


くっ…ハメられた……。

最中はしてやったりと

意地悪な笑みを浮かべている。


「ん?どうかしましたか?」


話題の本人は話を聞いていなかったようでキョトンとしている。

彼女がマイペースで良かった。


「じゃあそろそろ行こうかしら」


「そうですね!」


そう言って最中と花音はカバンを持ち始めた。


「ちょ、待ってくれよ!」


俺もそれを追いかけて部屋を飛び出すのだった。

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