第2話 友達はどこから友達かわからない

………………朝だ。


いつも通りの朝、変わらない。


目が覚めたら異能なんてありませんでした!


なんてことになればどれだけ嬉しいか。そんなことを思いながら学校の支度をする。


この学校、大抵の人は寮生活をしている。そして千紗都もだ。だが、5人用の寮には1人だけ。余ったから一人で使ってよという口実を使ったハブりだ。


静かな朝、笑い声など聞こえない。支度を終えると冷蔵庫からパンを出して食べる。


毎日が同じサイクルだ。仕方ないことだ。わかってる。ずっと一緒にいるとラッキー度をどんどん吸い取っちゃうから。だから1度はぼっちを選んだ。


でも今は……


「ぼっちなんて恥ずかしいよ……」


「同感ね」


いきなり背後から声がしたのでパンを喉につまらせそうになり、慌てて水で流し込む。


「だ、だれだ?」


「私よ」


そこに居たのは最中だった。


「お前、なんでここに……」


「迎えに来てあげたのにその言い方はなに?」


鋭い視線が千紗都に刺さる。


「ごめん、てかなんで迎えになんか……」


「友達を作る作戦、放課後に話すより朝に話した方が今日実行出来るでしよま?」


「放課後?」


確か……『ノコレ』って書かれたやつか。

てっきり殺されるのかと……。


「何ぼーっとしてんのよ、ぼっち」


「間にちっちゃい『つ』、入れるなって言っただろ!」


「いいじゃない、可愛いわよ?ぼっちって響き……」


たしかにと思ってしまう自分がいたのが少し悲しかった。


「というかなんで友達を作る作戦を話し合う流れになってるんだよ!」


「友達、欲しくないの?」


その言葉に悔しいが「欲しい」と答えてしまう。


「なら、私と協力しなさい!私たちは今から『友達所望会』のメンバーよ!」


「なんだそのクソダサい集まりは!?」


「なによ、クソダサいぼっち君には言われたくないんですけど?」


「な、なんだと!」


「だってそうじゃない、ダサいわよ?いつも俯いてばっかで、自分から人を避けてるじゃない!」


「!?」


確かにそうだ、いつも自分から人を避けていた。別に誰かに嫌いと言われたわけじゃない。近寄るなと言われた訳でもない。


勝手に壁を作って、伸ばされた手さえも掴まなかったのは自分自身だ。


「その通りだ、俺はダサい、なんで気づかなかったんだろう……」


「ぼっち君が馬鹿だからよ」


「……そうだな」


なんだか最中の声は昨日よりも優しかった気がする。気がするだけだ。



それから二人は学校に向かった。


「それにしてもボロい寮だったわね」


「まぁな……」


「あんなボロいの、よく住めるわ」


「住んでる本人の前で言わないでくれ……」


まあ、確かに今すぐ崩れてもおかしくないほど傷んでいる。それに学校から最も遠い。


なかなかに敷地が広いため、知らない人も多いだろう。


「友達を作る作戦なんだけど……」


そう言えばそのために最中は来たんだったな。


「行けそうな作戦を思いついたわよ」


結構なドヤ顔で言うからには自信があるのだろう。いや、それとも元からこんな顔だったっけ?


「作戦名は『ぼっちにならぼっちとつるもう作戦』よ!」


「悪いが内容を聞かなくても分かる……」


「そう?でも内容は一応言っておくわ」


それから学校につくまで作戦を長々と説明された。


簡単に言うと……


『ぼっちを見つける』

『話しかけてぼっちを共有する』

『友達になる』


というものだ。


実に単純な流れ、単純な考えだ。


そんなことで出来るなら富士山の上でおにぎり食べちゃうわ。


教室にはもうほとんどの生徒がきていて、騒がしかった。


おはようを言う相手がいなければ言ってくれる人もいない。


「さて、ぼっちを探しに行きましょうか」


机にカバンを置いた最中がそう行ってくるがぼっちなんて他に聞いたことがないと考えをこぼす。


「ぼっちだから聞いたことがないのよ」


そう言われてなるほどと思ってしまう自分がただただ悲しかった。


ただ、このクラスにはいないのはわかっている。


「じゃあ隣のクラスを当たりましょう」


千紗都たちはC組で初めはDからあたることにした。


「んー、いないわね」


「不登校の可能性は?」


「ないわね、全員の机の横にカバンがかけられているわ」


なら仕方ないとその隣のE組に移動する。


「どうだ?」


「……いない、いや!あれよ!」


千紗都も覗いてみると教室の端の方に一人で座っている女の子が見えた。


「確かにあれはぼっちだ」


「しかしなぜあんな子がぼっちに?」


顔も可愛いしスタイルも良さそうだ。


ピンク色の髪が可愛らしいのになぜ?


確かに疑問だ。


「まぁ、私よりは劣るけど可愛いし、おかしいわね……」


「それ自分で言うか?」


「なによ、Fランク顔」


「新しいあだ名つけないでくれよ……」


しばらく観察しているうちになぜ彼女がぼっちなのかがわかった。


男子が彼女と話す時にニヤニヤするからだ。


彼女にはなんの問題もないのだがそれのせいで周りの女子は敵視している。


「よし、これさえ分かればゲット確実ね」


「人をモンスターみたいに言うなよ」


「じゃあ作戦は放課後に決行よ、ちゃんと残りなさいよ」


「あぁ、って作戦の内容聞いてねぇよ!」


1時間目の予鈴がなった。



放課後


「いよいよ決行よ!」


「……で?何をするんだ?」


「そんなのも分からないの?これだからぼっちは……」


「お前もだろ!」


「うるさいわよ、騒音製造機……」


「新しいあだ名(悪口)作んな!」


「シーっ!来るわ」


E組の教室には最中が目をつけた女の子が1人だけ。


「ぼっち君はあの女の子に近づいて『クソだっさい同好会』について話なさい」


「もう名前変わってんじゃねぇか」


「そしたら友達よ!」


「そう上手くいくのか?」


「つべこべ言わずに行きなさい!」


「誰かいるんですか?」


(バレた!?いや、バレてもいいのか?)


千紗都はゆっくりと教室に踏み込む。


「あ、あの……僕、保野 千紗都です」


「こんにちは、何か用ですか?」


「えっと……俺は今、友達所望会に入っていて……」


自分で言ってて恥ずかしくなる。


「それはどんな集まりですか?」


「えっと……友達を作る会です」


「うーん……」


「怪しいですよね、はは、すみません、帰ります……」


「いいですよ、入ります」


「え?」


「友達を作るなんていいじゃないですか!」


「本当ですか?」


「はい!」


「よくやったわね、ぼっち君にしては上出来よ」


影で見ていた最中が教室に入ってくる。


「そちらの方は?」


「あ、この人も会の一員で……」


「最中 水蓮よ、よろしく」


「あ、私はみなみ 花音かのんです!よろしくお願いします!」


互いに頭を下げる。


「ぼっち君、まだ能力については話してないわよね?」


「あぁ、そうだな」


千紗都は花音に能力について話した。


「うーん、ラッキー度を下げる力ですか……」


「信じられないかもしれないけど本当なんだ」


今も近づきすぎないように距離を置いている状態だ。


「能力のことを聞いて嫌になったならそれでいいわ、それが普通の反応よ」


「いいえ!私は二人と友達になります!」


花音はキラキラした目で二人を見つめる。


「私、ラッキーガールですから!

少しくらい下がっても大丈夫ですよ!

私たちは友達です!」


今まで誰も言ってくれなかった言葉……。


自然に涙が出てきた。


「なんで泣いてるのよ、気持ち悪い」


「ほっといてくれ……」


「ところでなんであなた、休み時間に大体一人でいるわよね?なぜかしら?」


花音は少し照れくさそうな顔をして頬を人差し指でかく。


「見てましたか……」


花音は一息置いて話し始める。


「何故かわからないけれど私嫌われてるんです。男の子は話しかけてくれますが女の子からは無視されちゃうんです」


(絶対かわいいからだ……)


さすがにあったばかりで可愛いなんて言うのはきもいので心の中で叫ぶ。


「あなたが可愛いからでしょ?」


「ちょ、お前!」


「か、可愛いだなんてそんな……」


「私には劣るけどね」


「やっぱり言うか……」


「あ、お二人、RAINやってますか?」


「やってるわよ?」


「やってるけど……」


(やっているけど友達欄、最中だけなんだよな……)


「じゃあID交換しましょ!」



というわけで、少し無理矢理な感じだが友達ができた。


女子だからうまく話せるかはわからないが大切にしたい。


千紗都が寮に帰って一人増えた友達欄を見てにやけているとメッセージが来た。


『友達(仮)は出来たけど1人じゃ足りないわよ、明日もまた探すから迎えにいくわね』


(仮)とは酷いな……。


千紗都は了解とだけ送った。

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