ぼっち前線上昇中!

プル・メープル

第1話 ぼっち始動!

保野ぼの 千紗都ちさとは正直言ってぼっちだ。いや、誰がどう見てもぼっちだ。だが、これは自分から望んだ結末、俺には異能があるんだ。それは、


『人のラッキー度を下げる』


というもの。

この御時世、役に立つはずがない。いや、いつの時代でも有効性皆無だ。



そして今日は始業式。1年生から2年生に上がる記念すべき日……というわけにはいかない。ぼっちにとって学校はただただつまらない場所。なんせ友達がいないのだから休み時間にすることといえば宿題や……いや、それくらいだ。


話す人もいなければ近づく人もいない。だって危険物だから。危ないと言ってもテストの点が1点下がるとか、何も無いところでつまづくとか……その程度だ。だが、それでもなにも悪くない相手が不幸になるのは心苦しい。だがら千紗都はぼっちの道を選んだ。


始業式も終わり、ホームルームもすぐに終わる。騒がしく帰ってゆく生徒を横目に千紗都は自分の席に座る。


ホームルーム終了後すぐに帰るとリア充に見つかる可能性がある。別にどうってことは無いが……まぁ、恥ずかしいじゃん?って感じでいつも時間をずらしている。


帰りゆく制服姿達を窓から見下ろしながらため息をつく。だが、もうひとつ、背後からため息が聞こえてきた。


振り向くとそこには黒髪ロングの美少女がいた。


彼女は最中さいちゅう 水蓮りり。顔は美少女で人気はあるのだが、クールで無口。噂では毒舌で、言葉だけでヤンキー集団を根絶やしにしたらしい。そんな噂のせいか、彼女もまた、ぼっちだ。


(い、いたのか……気まずいな)


なんせ相手は脅威の噂の根源。本体なのだ。

何をされるかわからない恐怖心で指先が震える。だが、そんなこともお構い無しに最中は読書をしている。が、いきなり本を机に叩きつけて立ち上がる。


「!?」


「なんなのよ、この小説は!つまらないったりゃありゃしないわ!」


すごい形相だ。あんな顔、初めて見た……というかまず、普段顔を見ない。


「主人公は友達いないくせにガールフレンド多すぎよ!ちゃんと友達から始めなさいよ!そういうのは段階を踏んでやっていくものでしょ!何一日目からパンツ見てんだ!?」


(や、やばい……)


本をバンバン叩きつけながら叫び続ける姿に命の危機を感じた。そっと荷物をまとめ、教室のドアに向かう。なるべく音を立てないようにそっと……


あと少しでドアに手が届くというところで


「待ちなさい!」


(み、見つかった……)


「こっちを見なさい!」


言われたとおり、恐怖でガチガチな体を最中に向ける。だが、最中の顔は真っ赤に染まっていた。


「あ、あんた……いつから……」


「え、え……」


「答えなさい!」


「ず、ずっと……」


それを聞いて最中の顔はさらに赤くなる。


「な、な、な……」


動揺しすぎてろれつが回っていない。


「な、にゃに聞いとんにゃー!」


(噛んだ……)


完全に噛んでしまっている。少し涙で濡れた瞳を拭いた最中がドスドスと近づいてくる。


「ちょ、な、何!?」


最中は千紗都にグッと顔を近づけて睨む。


「い、今の……」


「今の?叫んでた「わー!わー!」」


最中は千紗都の声を消すように両腕を大きく振る。


「それ!誰かに言ったら殺す」


「!?初対面で殺す宣言!?」


「ぜ、絶対だから!!」


「いや……」


「ん?嫌なら今すぐ殺すか……」


最中はカバンからハサミを取り出す。

異様に光を放つそれを最中は千紗都に向ける。


「ち、ち、ちがうんだ!」


「浮気をしてるやつみんなそういうのよ!」


「浮気なんかしてねぇよ!」


急に話の飛んだ会話?をハサミ一振りでぶった斬ってくる。


「だから!ちがうんだよ!俺には友達がいないからいう相手なんていないって言おうとしたんだよ!」


すると最中はハサミを下ろしてため息をつく。


「よくそんなこと堂々と言えるわね、尊敬するわ」


そう言いながら最中は両手を上げてやれやれというふりをする。


「おい、言葉と行動が違いすぎるぞ……」


「まぁ、いいわ、で?」


「……で?」


「えぇ、秘密の代償に何が欲しい?私のカラダ?」


そう言いながら最中は胸のリボンを解く。


「そ、そんなもんいらねぇよ!」


いきなりのことに動揺して声が少し裏返ってしまった……


「そんなものとは失礼ね。私は一級品よ?」


そう言いながら解いたリボンをクルクルといじる。


「だからいらねぇよ!秘密は誰にも言わないし関わらない!」


「んー、信用出来ないわね」


最中は目を細めて千紗都を覗き込む。


「なんでだよ!」


「なんでって……初対面の相手を信用しろと言われて信用した方が怖いわよ……」


「じゃあ初対面の相手に死刑宣告したのはいいのかよ……」


「まぁ、めんどくさいけどしばらくあなたを監視しましょう」


「なんでそうなるんだ!?」


「近くで見てないといつ口から出るかわからないじゃない!」


それもそうだ。クラスメイトなんかに

『小説に向かって発狂していた美少女』なんて噂が流れたらスクールライフ終了だ。


「絶対に言ったら、……はぁ、殺す」


「なんで!?」


「よくよく考えたら一人殺せば済むのよね。後でクラスメイト全員殺すくらいならあなたを殺せば……」


ギラリと光るハサミをもう一度向けてくる。


「俺は言いふらすこと確定なの!?」


「当たり前よ、ぼっちなんて思うことはみんな一緒、これをネタにして友達に……なんて思っているのでしょう?」


そう言いながら最中はだんだんと近づいてくる。


「く、くるな!」


「お願いだから死んで?」


ジリジリと迫ってくる最中の迫力が千紗都を勝手に後退させる。


「嫌に決まってるだろ!」


ついに壁に追い詰められる。手に持っているのがハサミでなくてチョコなら嬉しかっただろうに……。


「観念しなさいフフフ」


不気味に笑う最中に向かって最後の願いを叫ぶ。


「こんなことして何になるんだ?」


「私が助かるわ」


「お母さんが悲しむぞ?」


すると最中の動きが止まった。


「……」


「……な?だからハサミを置いてくれ」


「……うん、そうね。あなたを殺したら……」


俯く最中を見つめながら少し安堵する。

彼女にも人間らしい感情はあるのだ。


「あなたを殺したら本が読めなくなっちゃうものね!」


前言撤回、彼女は人間じゃないかもしれない……。


「俺の命は本以下か……」


「そうよ、あなたと話すより本を読んだ方が有意義な時間を過ごせるわ」


「シンプルにくる毒舌やめてくれ……」


最中はハサミをカバンにしまう。


「というか最中、お前何ともないのか?」


「私にあなたに心配される義理はないし呼び捨てにされたのも心外だわ」


(そこまで言わなくても……)


「……最中、何ともないの?」


「何ともないわよ?ボチくん」


「変なあだ名つけないでくれよ……」


「いいじゃない?保野 千紗都だから保千でボチくん、何ならあいだにちっちゃい『つ』を挟んでもいいんだけど?」


「そのままでお願いします……」


「よろしい、あなたの能力は聞いていますから心配しないでください、気持ち悪い」


「最後に悪口やめて!傷つくから……」


でも何ともないはずがない……。千紗都に近づけば三秒で確実に不幸になる。時間が長ければ長いほどラッキー度は下がる。でも最中はずっとそばにいるのに変わらない……。


「私はただのぼっちじゃないのよ?」


最中の目が怪しく光る。


「というと?」


「あなたの能力、使えるのはあなただけじゃないのよ?」


「まさか!?」


「そう、私はあなたと同じ異能使いです!」


同じ……なぜそんなに胸を張れるのだろう……。だが、千紗都の能力が影響しないということは彼女の言葉は本物だ。つまり……


「いくら近づいても不幸にしない?」


「えぇ、ですが近づかないでください、

穢らわしい」


同じ能力を持つ仲間?に出会えたことで千紗都からは幸せオーラが出ていた。


「なんでそんな顔しているのかしら?発情した鹿みたいな顔してるわよ?」


「酷い……」


最中の毒舌に反論する気も出ない。

上手くやればぼっち脱出出来るかもしれない。だが、よりによって女子、しかも毒舌。

上手くいく気がしない。だが、今は希望が見えただけマシだと思える。


最後にまた最中に念を押されて帰宅する。



両親は転勤でアメリカにいて、しばらく帰ってこない。家には妹のみがいていつも料理やら洗濯やらをやってくれる。夕食を食べ、風呂に入り、ベットに入る前、帰り際に無理やり登録させられた、家族以外の友達欄に1つだけある最中のアカウント。そこに一通の着信がある。開いてみると……


『明日、放課後、ノコレ』


(な、なんだこれ……ノコレって絶対にヤバいやつだ……)


一方最中は……


(あ、打ち間違えた……でも間違えたって言ったら絶対にあいつは笑う、黙っておこう……)



わけのわからない文章を送られた千紗都は恐怖に震えながら布団に入った。だが、不思議と眠気が襲ってきて優しく眠りへと誘われていった……。

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