第14話 家出少女

 勿論、期待した通りの感触だった。いつぶりだろう、この、何とも言えない若々しさみずみずしさを惜しげもなく堪能したのは。ああ、紛れもない、一旦世の中を離れたあの時期から味わうことのなかった、はっきりとした、本当に言えば締め付けのよさを感じた。もはや成人からは感じられない、罪悪感と性的興奮の境目でうろうろするこの気分も含めた性の交わりの感覚。これだから少女の誘拐と強姦は止められないのだ。


 が、寺原のために一応使いすぎるのはやめておいた。この子からも、例えば援交を生業にしているとかそういうことも感じなかったし、不馴れな舌遣いと声が鶴岡の全身を包み込んでいる間から、あまり激しくしすぎるのはやめておこうと思ったのである。それに、


 それにしても、いやにおとなしく、従順な女の子だった。しろと言われた体勢と行為をするだけの二、三十分は、小学生にとって苦痛も交わってくるはずなのに、この子は人生を三周くらいしているのかと錯覚するくらい大人しかった。


 つまり、簡単に言えば、途中から恐怖に似た感情も鶴岡を支配していたのだ。


 煩雑に据え付けられた玄関のドアが開く音がして、鶴岡は完全に我に帰った。


「どうだった?」


「このオンボロな部屋代にしたらおつりが来ちまうよ。お前はいったい前世でどんな徳を積んだんだ?」


「悪いがもし徳が積み上がっていたならこの行為で全てを水に流したことになるな。もっとも、これにも人助けの意味を見いだしちまえばいい話だけどな」


「大層なご身分だな」


「悪いな。ほら、冷める前に食え」


 そういうと、寺原は半額弁当を部屋の真ん中に置いて、そのおつりとやらの様子を確認しに行った。


「あ、寺原さん……」


「何された?」


「大したことは」


「そうか」


 寺原は全ての感情を圧し殺して会話を続ける。幼い身体に濡れた瞳。汗でいくつかの束のようにまとまった前髪と、まだ熱い吐息が断続的に部屋にこだましている。この状態で、果たして理性を保てる男がいるだろうか。ましてや彼は異常性癖の持ち主である。


「……寺原さん」


 次の言葉を探していた寺原に、小枝が細く声をかけた。弱々しく立ち上がると、寺原の元へふらふら歩いていき、腰回りに細い両腕をかけた。


「私を……………………誘拐してください」


 全ての理性が飛んだ。理性の対義語は感情である。性欲を押さえている理性が取られれば、そこに残るのは性的感情である。寺原はすぐに小枝の両肩に手を掛け押し倒し、唇に吸い付き、右手を両足の付け根にあてがい、左手で顔を抱き抱えるように支え、全ての声、呼吸をその身で受け止め、そして――奪った。


 小枝の表情は見えない。嫌がってるかもしれない。戸惑ってるかもしれない。逆に喜んでるかもしれない。彼女の感情は脈拍と体温に現れているのだろうか。それともこれは鶴岡の残したものだろうか。鶴岡に残された感情、昂り、愛欲……その全てに、寺原の同じものが上書きされる。ただ、全くひとつ、鶴岡には残せないものがあった。


 彼女と過ごした数日間の日々の作った、この女の子を守りたい、支えてあげたい――自分のものにしたい。


 その全てを、寺原は全ての身体の動きに込めた。ある一定のところを過ぎて、小枝が声色を変えた。寺原はそこで体勢を変えた。その時には、寺原を異常に突き動かしている感情の名前がわかっていた。


「――小枝」


「なんっ、、れすか」




「――――――――好きだ」




「――――ッ!!」


 小枝の表情が変わった。寺原の表情が緩んだ。寺原はゆっくりと行動を納めて、密着させていた二つの身体を人一人分離した。しばらくして、自らの行きを落ち着かせると、小枝を胸元に置いた。


「そういうことだ」


 小枝は全裸体のままであったが、寺原の胸に顔を埋めたまま、微かに顔を上下に振って、そのまま嗚咽を漏らした。


「ずいぶんと激しくヤったな、どういう風の吹き回しだ?」


「そこの家出少女がエロすぎるのが悪い」


 乱暴にそう言い捨てると、寺原は立ち上がった。どこに服を放っておいたのだろうか。部屋を適当に見回している寺原の耳に、微かな声が飛び込んできた。




「もう――――『家出』少女じゃ、ないです」




 やれやれ、とんだおませさんを拾ってしまったもんだな、と他人事のように思っている寺原の目には、窓の外の二台のパトカーが映ることはなかった。


 持つべきものは友達だ、は、そののちに鶴岡の座右の銘になった。

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誘拐犯と家出少女 奥多摩 柚希 @2lcola

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