第13話 つるおか

 外観は嘘をつかない。もしどこの角度から見ても古びた夏場に肝試しにでも使われてそうなアパートが実は内装に全振りしてるみたいなことがあったら見てみたいものだ。別に廃墟マニアというわけでもないが、バラック街にあったと言っても疑われなさそうなある意味で模範的なボロアパートは、もちろん風呂トイレ無しのワンルームだった。元いた家は風呂つきだったが、さすがはある程度栄えた街の外れだ。おおよそ金を持っているとは思えない懐かしい男に払える金額ギリギリがこの家なのだろう。


 全く恐れることもなく寺原と小枝が足を踏み入れていく。鶴岡は恐らく寺原はいいとして小枝のその態度に驚いたことだろう。まだ彼はこの少女の境遇を知らない。


「じゃあ、まずその美味し――よくわからない女の子について話を聞かせてもらおうか」


「性欲がはみ出てるぞ。自重しろ」


「すまんな、何年も昔のことを思いだしちまうんだよ」


 寺原の読み通りだった。逮捕されたり拘束されたところで、深くねじ曲がった性癖を変えることはできない。むしろ規制されればされるほどその欲は爆発してしまう。それは数日前の寺原であったり、あるいは鶴岡の下半身の起伏を見れば明らかである。


「小枝です。吉村小枝。小六の十二歳です」


「完璧じゃねえか寺原、どうしたんだ?」


「こいつから俺に誘拐してくれって頼まれたんだよ。家出少女」


「家出少女じゃないです」


「おいおいそれ以上属性付け加えられるとさすがに耐えられなくなる。そろそろ出したいぜ」


「それ以上はねえよ」


 さすがの寺原も少しこの男に対して新たな感情を抱いてきた。


「一週間くらい前に拾ったんだが、時期的に場所を変えた。ギリギリお前の残してくれたメモを持っていたんだよ」


「メモ……? そんなもの書いたのか俺。後にこんな役に立つとはな。いやはや、あっぱれ、昔の俺」


 一人テンションをあげる鶴岡に対し、寺原は感謝と嫌悪の感情を同時に抱いた。一度小枝を見ると、彼女も彼女で悟りきった表情になっていた。小枝が自身で踏み込んだ茨の道は、思ったよりも険しかったらしい。仕方ない、これが認められない異常性癖の成れの果てだ。


「しばらくの間、俺を泊めてほしい。ある程度次の行き先の目処が着いたら出ていくことも考えてる」


「ヤって捕まるなら本望じゃないのか? 変に逃げて満たされない欲に悶々とするより、いっそ全部出しきって清々しく捕まろうや。な? ちょうどロリ風俗に満足できなくなってきた頃なんだよ」


「悪いが性的対象としか見てない訳じゃない。あまりそういうことを考えすぎるのも不憫なくらい小枝の境遇は激しいんだ」


「ほーん……で、この子は使用済みなの?」


「言い方に気を付けろ。本人の前だぞ」


「いいじゃねえか、自分からふらふら前科持ちに近づいたのが運の尽きだろ。どうなんだよ」


「少し、な」


「やっぱお前も変わってねえな」


 鶴岡は性欲にまみれたひどい目をしていた。寺原に向けた目にさらに欲を足して小枝に向ける。


「小枝ちゃんって言ったね。同年代の男の子と仲良くしたことある?」


「ないです」


「生理来てる?」


「まだです」


「そうかそうか。じゃあ部屋代ってことだな。お前は家賃を払わずにここを借りようなんて思っちゃいないよな寺原」


 寺原はため息を吐いた。まあ仕方ない、これがこの世界だ。


「夕飯を買ってくる」


「物わかりがいいじゃねえか」


 鶴岡はそう言うと、寺原に千円札を一枚渡した。

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