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短編企画終了!

103作もいただいてしまった……要項を満たしたものは全て読みました。どれも力のある作品で、選考には苦労しました。読んだときに「あ、これは決まったか?」と思っても次から次へすごいのが入ってくるといった感じです。レベル高い。
以下、優秀賞以上の作品の感想です。

最優秀賞
雪の日の待合所
雪国のボーイミーツガール。読んですぐのときからこれはいいとこに来ると思ってました。先行逃げ切りという感じでしたね。これと比べてどうかという判断基準でやってました。序盤中盤終盤に隙がなく、緻密な情景描写に心情が現れ、最後にはここから先どうなるんだろうというワクワク感を与える、「そうそう、こういうのが読みたかった」って感じでした。女の子のキャラ設定は作中でうまく機能しているし、主人公の「私」の考えの変化までじっくり自然に描かれている。文句のつけようがない作品です。

優秀賞
雪幻
正直、これを越える作品はでないかと思っていました。
『サクサクサク。表面が凍り始めた雪を踏む。サクサクサク。心地よい音と感触。こんなふうに雪の道を歩くのは、子どもの頃以来だ。足型が鋳型を押し付けたようにくっきり綺麗に残るのが面白い。いつしか正太は夢中になっていた。』など、とにかく描写が丁寧。そこかしこにちりばめられた細かい情景が完璧に心情とマッチしていて文章力の高さを感じる作品。
どこですこし劣ってしまったかと言えば、結末部分になります。掌編といいますが、このように短いエピソードは完結させて一つのストーリーを書くのが能力として大切であり、一つの話となっていればいいのです。しかし、「雪の日の待合所」では、一つの話としてしっかりオチがつけられているのに、まださらに読みたくさせる力がありました。


食べ盛りの2人
ハイテンション作品。僕自身が書くときにいつも心がける会話文の読みやすさを存分に見せつけていました。最後まですぐに読みきってしまう――読みきってしまいたくなる――そんな話でした。
ですが、少し言うとすれば、最後の締めの部分、タケナカの描写について、「嬉しくて、倒れそうです」というセリフで終わっていますが、これだと少し陳腐になっている気がします。「タケナカ、ニコッと笑う」の前に少し二人の間に走る空気を描写した上で、「嬉しくて」を書かずに「倒れそうです」だけで終わると、よりいっそう想像を働かせられて話が深く、味わい深くなるのではないでしょうか。


母に捧げるノクターン
ピアノを通して繰り広げられる感動ストーリー。ノクターンという選曲がまたいい。ショパンはピアノの詩人といわれましたが、英雄と違って静かな、幻想即興曲と違って落ち着いた曲も書けるのですから驚きです。ノクターンと言えばスケートってイメージもうまく使われています。序盤で音楽にあまり関心のなかった主人公も見事にピアニスト。展開は言うことなしでした。
少し言うなら、病気の宣告のシーン、もう少し絶望的な表現にしてもいいかと思います。脳梗塞は指で闘うピアニストにとってすべてを奪う病気なので、その残酷さを情景などを用いて表現するのもありかと思います。


ドラマチックなタクシードライバー
機転の利く人々の粋なお話。いいオチでした。カーチェイス期待しましたよ僕。ええやん、こういう話もええやんと思ってたらいやそういう感じかーいって。いい意味で裏切られました。人物もみんな味わい深さを醸し出していて読んでいて楽しかったです。
ですが、終わりの部分、一話で完結させる文としては百パーセントいいのですが、少しでも続きをほのめかすといいのではないでしょうか。かといって続刊前提の文にしてしまうのもいけません。式辞という体裁もありますので、ここはひとつ、式の終わりを書いてしまってもいいと思います。「私は一人、缶コーヒーを一気に飲み干して、空いた空間にタバコを放り込んだ。閉じたドアに書かれた730という数字をわけもなく眺める。またいつかこの後部座席に人を乗せてサスペンスもどきをやるかもしれない。こんどは切羽詰まったのが三人飛び込んでくるのかな。」みたいな。


駅の向こうの公園
ヤバい人が出てくるお話。どんなオチなんだろうと期待して色々考えながら読んだのに全て裏切ったオチでした。その発想はなかった。これが現代社会の闇ですね。
しかし、いいオチだっただけに、伏線や展開がもうすこしあればよかったかなと思います。オチが唐突すぎる気がするので、手前にそういう伏線をもう何本か張って、一行で回収するとスピード感が出ると思います(もしかしたら僕の見落としかもしれません)。



オルカの有意味論
しっかりとしたSF。これは迷いました。完璧な文章管理で展開された物語は最後まで読み手をハラハラさせるばかり。三題というのも関連性の無さそうな三題なのに、うまく繋ぎ合わせられていて脱帽でした。

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