危うさと穏やかなあたたかさ、その絶妙なバランスで包んでくれる花瀬の意志

いつでもそこに広がっている深い蒼の海みたいに、やさしく包み込んでくれるような物語です。

花瀬をはじめとした新井(宵)先生の描かれる女性は、繊細で、敏感で、臆病で、危うくて、どこまでも儚い。
それでも、自分の信じるものはどこまでも信じ続けるしたたかさを持っています。
「あなたを、ちゃんと判ると思う」
こんな台詞、僕の物語の登場人物たちは言わない。

そういう彼女たちのしたたかさ、未来を見据え続けようとする意志が、まるで暗い海での航海の行き先を示すしるべとなってくれているようです。
新井先生の作品を拝読しているときに体験する、危なっかしさと穏やかなあたたかさの絶妙なバランスの正体は、こうした人物たちの描写の妙にあります。

恐縮ながら僕のとある作品を受けて執筆いただいた(本当に恐縮です)という本作ですが、絶望的なエンディングを迎えた僕の作品とは異なり、本作では花瀬も舜も最後まで笑ってくれています。
こういうところに、新井先生の物語に対する姿勢というものが現れているように思います。
あまねくすべての物語は、われわれ読者の心を広く受け容れ、やさしく包み込んであげるべきものである、と。

花瀬と舜が想いを捧げた海が、本作を通して読むものすべての人々の心を包み込んでくれますように。