僕らは見つめあうことができない

作者 九十九 那月

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★★★ Excellent!!!

自堕落に立ち止まった日々を過ごす主人公。
そんなある日、「視覚を貸して欲しい」という少女が夢に現れ、それから、見つめあうことができない2人のちょっとした不思議な日々の始まり……という流れですが。
重ねていく日々の中で、少しずつ前に進んで、少しずつ変化していく過程が良いですね。
最後はとても美しいものが見れた気がします。
その後の2人を考えてみると、いろんな可能性が溢れてて、思わず良いなと呟けてしまう、そんな逸品です。

★★ Very Good!!

時間をかけて季節はめぐります。
春に咲いた花はやがて散り、夏には青々と葉を茂らせ、秋には色づいた葉を落として、冬の寒さを乗り越える。そうしてまた春が来れば蕾をつける。老いた草木は種を飛ばして、その種は遠いべつの場所で芽吹きます。二度と来ない季節はないし、二度と咲かない花はありません。

人間もおなじなのかもしれません。たとえ失意の底でもだえようとも、かならず再生の時は来る。
大事なのは、「向き合おうとしているか」です。「見つめようとしているか」なのです。未来と向き合う、未来を見つめることをためらっていた主人公・トオルのもとに、視覚的に視ることのできない彼女が現れたのは、ある意味必然だったのかもしれません。

限られた時間のなかで「見たいものを探す」という、彼女のひたむきな生き方があったからこそ、トオルも自分の生き方を見つめることができた。そしてトオル自身が、ともすれば後ろめたい思いを抱かせられるような彼女の姿勢から目をそらさず、ちゃんと見つめていたからこそ、この結末を掴みとることができたのでしょう。視覚的に見つめあうことは叶わない、けれども——たいへん陳腐な言葉でお恥ずかしいですが——心で見つめあっていたからこそ、「彼ら」は本当の意味での「美しさ」を理解することができたのでしょう。

これは生きる人間の物語です。
めぐる季節に芽吹く花のような、美しい葛藤と再生の物語です。
執筆お疲れさまでした。

★★ Very Good!!

「『やりたいこと』を聞かれたときに答えられない」。


1話から刺ささるんですよね。主人公のトオルさんは留年してしまった自堕落な大学生。「大抵の人は、上手く折り合いをつけて、単位だけを取」ることができた、だけど僕はできなかった――。
そんなトオルさんが、夢の中で出会ったのは、目が見えない少女。彼女にはどうしても見たいものがあるらしいけれど……。


さて、この物語は、大きく分けて、夢の中での彼女との会話パートと、交渉の結果視力を一時的に失ったトオルさんの日常生活パートに分けられます。
彼女との会話パートでは、どこか聡明な雰囲気のする毒舌な彼女と完全に尻に敷かれている情けなくもそれだけではないトオルさんの会話が見どころです。不器用な二人が、皮肉や揶揄をまじえて互いに少しずつ近づいていく様子は、「がんばれー!」とついつい応援したくなります。甘いボーイミーツガールって感じではなくて、まず同じ人間として向き合っている感じが、会話に独特の雰囲気をもたせています。
日常生活パートでは――みなさんは、カップラーメンや折り紙(折り鶴)を、目を開けることなく作ったことはありますか? ちなみに私はありません。視力のない生活とはどのようなものか、どうやって生活するのか。普段考えることのない部分を描写されていて、とても興味深いんです。トオルさんが一生懸命視覚の心もとない生活を送ってみるのは、その日をどうにか乗り切る・充実させる、というのもあるでしょうし、無意識に、彼女に対する理解を追いつかせようとしていたというのもあるのかなあ。
ぜひ、「やりたいこと」がないトオルさんと、「やりたいこと」がある彼女の数週間をお楽しみください。


以下ネタバレを含みます。(レビューというかただの感想になります)


まずは九十九さん、執筆お疲れ様でした。毎回更新を楽しみに読ませていただきました。
トオルさんはねえ… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

それならば、何ができるのか、何ができたのか。

これはそういう物語なのかとおもいます。

大学をドロップアウトしかけている青年と、なぜか夢のなかに現れた目の見えない高校生の女の子を描いた作品。

ごく普通に見える青年「僕」にはどうやら、「向き合う」才能があるようです。それが花開くのか、また別の側面が描かれるのか、じっくり見守って行こうではありませんか、と、呼びかけたく思います。

(2018.3.27 第7話まで読了時のレビュー)


あぁ……いい……。

(2018.8.23 最終話まで読了時のため息)