【短編】SEED~可能性の子供達~

MrR

デュアルスキラーとパワードスーツ


 この世界は地球外生命体ルーラー(支配者)の降臨で地獄と化した。


 人に近い形状を持ち、無機物と有機物が混ざり合った外観のこの生命体は現代兵器に対して高い抵抗力を持っていた。


 いや、抵抗力があると言うよりただ単純に頑丈なのだ。

 後に兵士種と呼ばれる個体は数は多い物の、現代兵器で対処出来るレベルだった。


 その事実にルーラーの地球外起源のテクノロジーを得ようと世界が考え、動き始めた直後だった。

 今にして思えばこの期間こそが人類の最初にして最大のチャンスだったのだろう。 


 地球の生命体を解析し、その特性を取り込んだ様な外観を持つ進化種が現れてから戦況は激変した。

 弾丸の直撃を受けてもビクともせず、戦車の対装甲目標用の砲弾を受けてようやくダメージを与えられる程の強靱な生命力。

 数十トン単位の打撃を与えてくるパワー。数十トン以上の物体を持ち上げる程の怪力。50m以上の跳躍力に時速100kmを超える脚力。


 進化したルーラーに人類はあっという間に追い詰められ、更に追い打ちを掛けるように通常兵器が文字通り通用しない大型種までも登場した。


 そうして人類はありとあらゆる手段を講じてルーラーと戦った。

 その過程で核兵器も使用した。

  

 しかしそれでもルーラーの侵攻を遅らせる程度にしか出来なかった。


 人類は絶望を感じた。


 このまま滅びるしかないのか? と。



 だが希望は残されていた。

 

 ルーラーと同じくやって来たSEEDと呼ばれる地球外鉱物の存在である。

 SEEDは人々に様々な能力を覚醒させる特殊なエネルギー波を放ち、また研究の過程でルーラーはそのエネルギー波が弱点である事が分かった。


 こうして産み出された覚醒者と呼ばれる能力者達はルーラーの侵攻を食い止める事に成功した。


 更に研究の結果、SEEDによる能力が発現する可能性が高いのは歳が低ければ低い程に発現し易い事が分かり、国を挙げて子供達に覚醒作業を行わせた。


 そして前線に投入する為に養成校を作り上げ、前線基地へと投入して行った。


 こうした体制を作っていく事でどうにか戦線の膠着状態を作り出す事が出来たがそれでも何時崩壊するか分からない緊迫した状態であった――




 

 ある一定の年齢に達すると、強制的にSEEDによる覚醒が行われる。


 日本の場合は中学生からだが、当然異論はある。

 そんな年齢の頃から強力な力に目覚めたらどうなるのか? と言う当然過ぎる正論で。


 だが日本はルーラーとの戦いで力を使い過ぎた。

 嘗ての生活水準を保つ事すら困難な状況なのである。

 他の国々も似たような物だ。

 今後の戦況次第では食料が配給制になるのも笑い話ではない。 

 

 だからその意見は無視され、現場にしわ寄せをする形で解決となった。

   

 ポッドに入れられて、SEEDの光(粒子?)で満たされる。

 能力の詳細や使い方は頭の中に感覚的に分かる物らしい。

 それで判明した能力をデーターベースに登録して覚醒作業は終了する。

 人数が多いため、殆ど流れ作業だ。


 だが強力な能力だと判別されると親元から引き離されて特別な施設に入れられ、能力の使い方などを専門的に学ぶ。

 これが先程述べた「幼いウチに強力な力に目覚めたら~」の解答である。

 与えられた力で自爆したり、暴走したりされたらたまった物では無いからだ。


 それに人類は戦力を遊ばせておくほどの余裕はない。

 

 強い能力を持つ者は中学の頃に実戦に放り込まれる。


(ここがそうか・・・・・・)

   

 俺は幸か不幸か十五歳で前線都市と呼ばれている場所へ放り込まれた。 

 移動は電車でだ。

 他にも同じような境遇らしき黒い制服を着た生徒達が駅に降りる。

    

 この街に割り当てられた覚醒者達だろう。

 顔は皆不安と緊張に満ちている。

 

 そりゃそうだ。

 今日から死と隣り合わせの生活を強いられるのだから。

 

「おーいたいた。君だね。例の覚醒者は」


「どうも――」


 駅のホームに降りると待ちかねていたかの様に、白衣を着た女性が立っていた。

 背も高く、スタイル抜群だが目に隈が出来ていて目も何処か生気を感じられない、残念な美人と言ったところか。


「私が美影 恵美だ。エミ博士と呼んでくれたまえ。君が氷川 蓮司君だね?」


「そうですけど――」


 美影博士については知っている。

 有名な科学者で能力を覚醒させるSEEDから発せられるエネルギーを応用した兵器、SEEDーWEAPONを開発し、通常兵器の復権を成し遂げた天才である。


SEEDーWEPONと言うのは覚醒者を産み出す特殊な粒子を放つ鉱物、SEEDのエネルギーを武器に転用した兵器群の事である。

 通常兵器よりも強力で、ルーラーにも効果は抜群であるが、エネルギーを産み出すSEEDの数に限りがある為に数は少ない。

 どちらかと言うと覚醒者のエネルギーを弾丸などに変換して射出するタイプなどがメジャーであり、どうしても覚醒者便りになってしまうのが現状だ。


 それを実用化した天才と言っていい彼女が自分に何の様なのだろうかと未だに俺は首を捻っている。  


「写真で見るより中々いい男だね。彼女はいるのかい?」


「いや、いなかったが・・・・・・」


「ふーん・・・・・・ともかく車を待たせてある。今からラボに行こう」


「ちょっと待て。今から入学式なんだけど――」


「私の権限でどうとでもなる」


「はあ――」


 何だか前途多難の様に感じた。





(ここが前線都市・アイギスね・・・・・・)


 関東と中部地方の境界線上に新たに建築された要塞都市であり、正式名称は中部地方方面絶対防衛戦前線都市・アイギスと名前が付けられている。

 軍事施設も沢山あるが、娯楽施設も相応にあるらしい。

 一応防衛線上に沿って防護壁があるが、ルーラーに対しては軽い足止め程度ぐらいの効果しかないだろう。個体によっては壁を粉砕して進入して来るかも知れない。飛行型も確認され始めた現在なら飛び越えてくる。あくまで気休め程度だ。

 その壁のずっと遠くに奴達の拠点「プラント」が存在するのだろう・・・・・・


「どうだい? アイギスの眺めは?」


「昔漫画でこう言う外観の街を見た事がある。何か巨人が襲ってくる奴の漫画」


 と、流線的なフォルムの電気自動車に乗りながら景色を眺めた。

 とても乗り心地が良くて空調も効いている。

 学校の情操教育の一環としてよく特撮物を見せられたがそれに出て来るマシンみたいに思えた。

 流石天才科学者だけあって金回りは良さそうだ。


「その意見はよく聞くね。それに習ってか知らないけど50m以上の壁を作るべきだって考えたらしいけどね」


「だけどルーラーの驚異的な身体能力だとそれぐらいは普通に飛び越えて来そうですよね」


「そう、だから今の高さぐらいに落ち着いたんだ。ルーラーは確かに忌々しい生命体だけどその能力は認めざる終えない」

 

 そうして会話をしていくウチに街全体に警報が鳴り響いた。

 車の中のモニターからも警報が鳴っている。


「ルーラーが進入して来たようだね。入学式のこの日に運が良いのか悪いのやら・・・・・・」


「ここにいて大丈夫なんでしょうか?」


 平静を装ってはいるが内心ではこのまま居ても良いのだろうかと思う・


「君の能力は知ってるけど、ルーラー相手だと些か問題だね」


「確かに――」


 自分は特別な覚醒者だ。

 希に二つの能力を持つ物が現れるらしい。


「第六感と体の再生能力――私が開発したSEEDーWEPONを使って戦うなら話は別だけど、素人が武器を持って倒せる程、ルーラーは甘くないよ」

 

 まるで自分の考えなどお見通しと行った感じだ。

 第六感と体の再生能力。

 それが自分の能力である。


 確かにデュアルスキルは珍しいが得た二つの能力が直接戦闘向きでは無いと判断されたのか中学時代に里親から引き剥がされる事は無かった。

 良くて後方支援かSEEDーWEPONを使ってのサポート役がお似合いだろう。


「映像で何度か見ました――複数の覚醒者がたった一体の進化種を討伐する姿を」


「そう。それが普通の討伐風景だ。下級の兵士種ならある程度の数でも撃退できるが進化種は別格だ。同じ生物とはとても思えない程の強さだよ」


 覚醒者が現れた今でも進化種の討伐は複数で当たるのが基本だ。 

 上位に位置する覚醒者でようやく単独討伐が出来て、一人で三体以上の進化種の相手は危険とされている。

 それ程までに奴達は強力なのだ。 


「さて、付いたよ。状況次第では君に出番が回るかも知れない」


「出番?」


「覚えとくといい。人類は君の様な少年に頼るぐらい追い詰められてるんだから」

  

 そうして小高い丘に建築された白い建物に通された。

 


 警報や状況はしつこいぐらいに耳に届く。


 数は兵士級が五百体、進化種が五体。

 兵士級は半分近くを討伐し、進化種は二体程討伐したようだが、今頃街は大パニックになっているだろう。

 街の各所で戦闘が行われ、三体の進化種の居所は不明。

 

 そして自分はエミ博士の案内で白い研究施設の奥に進む。

 そこで案内されたは大きな輸送機だった。

 

「垂直離着陸可能な乗り物「シードアームズ・ウイング」だよ」


「シードアームズウイング?」


「まあ中に入って」


 そこで後ろのハッチから中に入る。

 そこでは整備工が着る様なツナギを着た短髪ショートカットの爆乳の女の子がいた。

 

「お、そいつが新入りかい?」


「ああ、そうだ。彼女は山崎 胡桃(やまさき くるみ)、まだ若いが整備の腕は確かだ」

 

 話の流れから察するに整備能力に関係した覚醒者なのだろう。

 だが一番目に付いたのは――


「これは?」


「パワードスーツの一種だよ。SEEDーARMS(シード・アームズ)と呼んでるがね。正式名称はSAユニット、我々SAチームの唯一の戦力さ」


 SAユニット。

 黒くてごついマッシブな外観をしている。

 クワガタの様な額のアンテナユニットや赤いバイザー、口元を覆うマウスガード。

 太ももには近接兵器らしき物や重たそうな拳銃が装着されている。

 周りには剣やら銃やら色々と建てかけられている。たぶんSEEDーWEPONだろう。



 新手のルーラーみたいに見えなくもない。


 いや、そうじゃなくて――


「ちょっと待ってください。まさかこれに着て戦えって言うんじゃ?」


「嘆くなら産まれた世界を嘆いてくれたまえ」


「・・・・・・はあ」


「お、意外な反応だね。正論並び立てて喚き散らすぐらいの事は覚悟してたんだが・・・・・・」


「・・・・・・本当は自分も人の為に戦いたかったんだと思いますから。その気持ちが今ハッキリとしましたから。それと色々と謎が解けましたから」


「謎?」


「自分の能力が無いと動かせない様なヤバイ代物なんでしょ? これ?」





 私――鈴瀬 理緒(すずせ りお)は小学生卒業時に覚醒した。


 雷を操り、日本刀を呼び出して戦うタイプの能力。

 身体能力も信じられないぐらい向上した。


 デュアルスキルなのかどうかは専門家でも分からないらしい。

 覚醒するとある程度身体能力が向上するし、武器を呼び出す能力者は同時にある程度の魔法の様な力を持っているからだ。


 政府の役人から強力な力と判断され、育ての親から引き離された。


 私は喜んで受け容れた。 


 両親はルーラーのせいで死んだ。

 でも今の時代、そう言う子達は少なくない。

 どちらかと言うと施設で一緒に育った子達が私の家族だ。 

 

 その施設の子達や親代わりの先生を守り抜けるならそれもアリかなと思った。


 覚醒者の施設には色んな奴がいた。性格に問題を抱えている奴も当然居た。

 けど気の合う子もいた。


 そうして訓練を積んで、実戦に放り込まれた事もあった

 ルーラーの、それも進化種との初めての戦いは恐かった。

 何も出来なかった。

 相手はたった一体、こっちは教官同伴の複数なのにも関わらず。


 相手のパンチやキックの一発で死に繋がると言うのに此方は何発か攻撃を当てなければならないと言う恐怖。

 距離と言う概念を、離れていれば安心だと言う考えを粉砕してくる身体能力。

 それが恐かった。


 でもその時の恐怖や無力な自分への悔しさを乗り越えて今私はここにいる――


「ダアアアアアアアアアアア!!」


 防衛都市アイギスの学園内の敷地。

 私は今無謀にもクモ型の進化種と一体一で戦っていた。

  

 入学式と言うだけあって生徒は大勢居るが、呆気なく死んだ警備隊の死に様を見て恐慌状態に陥っている。

 ああなったら今の戦いでは役に立たないだろう。

 正直言うとありがたかった。

 中途半端な覚悟や力で挑んで無駄に命を散らされるのを見るよりかはマシだから。

 

(進化種――複眼の頭部にあの牙、背中から生えた複数の四肢や後ろの丸っこい突起物のシルエットからしてスパイダーなのは間違いない。たぶん口から糸を吐いてくるわね)


 進化種は大体地球上の生物を模しており、攻撃方法はその特徴を受け継いでいる。

 圧倒的な身体能力の驚異は進化種の基礎であり、進化種の特徴となっている生物の種類に応じて戦い方も異なる。

 進化種との戦いの対策パターンは相手に応じて臨機応変に構築しなければならないのだ。

 

 力押しや勘で押し通せるのはそれこそテレビの中のヒーローの様な存在ぐらいだろう。


(雷撃を飛ばしてダメージを蓄積させて、弱った所をトドメを刺すしかないわね)


 刀を振る度に電撃の塊が飛ぶ。

 それが直撃し、火花が飛び散り、進化種は奇声を挙げる。

 動きが鈍っ様子は見せない。

 相手の手足の動きや周辺の状況を視野に入れながら付かず離れずの距離を保つ。

 

(勝負を焦っちゃダメ――)


 剣を構え直す。


 そして――白い糸を吐き出した。

 回避する。街灯に直撃した。

 ここまでは想定通りだった。

 街灯を思いっきり引っ張り、引き千切った。それを振り回して叩き付けてくる。


「本当にルーラーってデタラメね!!」


 叩き付けようとした街灯を一刀両断。

 土煙をバックに一気に迫る。

 雷光が迸る雷の刀剣を振り被った。


 ルーラーの背中から生える複数の手で防御するが火花が飛び散り、ガードがこじ開けられる。


(刀身に雷を集中させて!!)


 そして縦一閃に切り裂いた。

 バチバチと火花が飛び散り、そのまま倒れ込む。

 慌てて飛び引いた。

 

 クモ形の進化種は爆発を起こす。


「これでようやく一体目――他の個体は?」


 数分にも満たない攻防だがとても神経がすり減る程の戦いだった。

 認めたくないが私は小柄な女の子である。

 覚醒しているとはいえ、身体能力の面では同じ覚醒者の男子には叶わない。

 それに進化種との戦いで、独断で一体一の戦いを行ってしまった。功績を讃える人間はいるだろうが自分が教官なら説教して厳しい罰則を与えてるレベルの行いだ。

 今回は運が良かった。


 「はあ」と一息ついたその時だった。


「嘘でしょ――二体来たの!?」 


 今度は銀色のマネキンの様な無機質な外観の兵士級数十体と共にメカニカルな外観のクモの様な生物、進化種昆虫タイプ、モデルスパイダー。さっき倒したタイプの同型種が更に二体も来た。

 不気味な赤い複眼と全身の返り血がより恐怖を高めてくる。パンチ一発で人を殺せるのが進化種だ。それに二体連携で格闘戦を挑まれたら死ぬしかない。

 他にも兵士級がいるし、このまま戦ったらタダでは死なないが結局兵士級と戦ってる隙に進化種に殺されるしかない。

 助けが来る気配がない。

 絶望的だ。 


(私――ここで死ぬの?)


 逃げたいが、自分の強化された身体能力でも下手に背を向ければ容易に追い掛けられて殺される。  

 

 こんな事ならもっと素直に生きて、恋愛とかしたかったな――


(うん?)


 頭上を飛行機が横切る。

 そして何かが落下して来た。



 SAユニットを装着して俺は輸送機から飛び降りさせられた。

 背中には格闘専用の剣やキャノン砲を搭載している。

 体各所のブースターを噴かして着地した。初めてなのである程度サポートしてくれたらしい。正直コントロールを乗っ取られて無理矢理飛び降りさせられた時は殺意が沸いたが・・・・・・

 今はそれを考えている状況ではない。

 想像以上にヤバイ状況だ。

 第六感の能力を使わなくて危険だと分かる光景――クモの進化種二体に兵士級数十体。

 

 要塞都市を名乗る割には学園がある中部のラインまで侵攻されるとは警備がザルだ。もしくはこいつらの身体能力が凄いのか・・・・・・

 

「なななななに! アンタ!?」


 小柄な可愛らしい茶髪のツーテールの少女がいた。

 学生服姿で電流の火花が散っている日本刀を持っている。

 先程まで戦っていたのだろうか?


『俺は氷川 蓮司――君も入学者か?』


「そ、そうよ! 役に立たない連中に変わって戦ってたのよ! アンタもそのナリで入学者なの?」 

 

『ああそうだ――と、ノンビリ会話している暇は無いみたいだな――』


 俺は近づいて来た兵士級を殴り飛ばす。

 胸を穿つ感覚――想像以上に柔らかく感じた。

 吹き飛び、爆発を起こした。だが体に痛みが感じる。


 ちょっと動かしただけでこれだ。

 本格的に動けばこれ以上の痛みがあるのだろう。

 自分の様な覚醒者以外にしか扱えない欠陥パワードスーツ。

 それがSAユニットの正体だ。


(敵を倒してくたばるか・・・・・・それとも生き残るか――時間との勝負だなこいつは――)


 覚醒者の能力は限界があり、無限に使用など出来ない。

 自分の第六感や自己再生能力もそうだ。もしも自己再生能力が尽きたまま戦闘続行せざる終えない状況になった時が自分の死ぬ時だ。

 全くとんでもないスーツを着せられた物だと思う。同時にこれぐらいのリスクが付き纏う強力なスーツでないと奴達に対抗できないのだろう。


(ともかく今はこいつらを倒さないと!) 


 次々と敵の攻撃にカウンターを入れて一撃で吹き飛ばし、爆散させていく。第六感能力は本当に便利だ。

 未来予知染みた反射神経で敵の動きを予測して攻撃を当てる事が出来る。だが敵を粉砕していく度に体に痛みが伝わり、まるで自分に自制を促している様にも感じられる。


『お次はお前達か!!』


 俺は背中左側にぶら下げていた剣を取り出し、左右に分かれて攻めてくるスパイダーの相手をする。

 進化種の打撃を咄嗟に腕でガードする。多少の痛みは来るが耐えられない程ではない。もしこれが生身の体だったら良くて骨折、最悪腕が吹き飛んでいただろう。

 反撃で剣を抜く。刀身が光ったこの剣で、相手の胴体を火花と共に両方カウンターの要領で斬り倒す。


(まだ立ち上がるのか・・・・・・)


 恐らく特別製であろう剣の一撃で倒れる程ヤワでは無いのは知っていたが実際に体感すると恐ろしく感じる。

 これが超生命体と言われたルーラーなのかと。


(クモの糸を――)


 一体の進化種の口が開き、クモの糸を吐き出した。

 咄嗟に避けようとしたがこのスーツにまだ馴れておらず、片方の腕で体への着弾を防いだ形になった。 

 想像以上の力で引っ張ってくる。どうにか体制を崩されないように体を動かすが――その隙にもう一体が飛び掛かってのし掛かってきた。


『うぉおおおお!?』


 両腕や背中の腕を使っての連撃を浴びせてくる。

 スーツの各所に火花が散り、痛みと共にダメージの報告が眼前のモニターに流れ込んでくる。

 速く何とかしないと――


『太股の武器を使いたまえ』


『!?』


 恵美博士の声が聞こえた。

 同時に切り裂かれた。あの長髪の雷光の刀を持った女の子の一撃だ、押し返すと同時に太股の武器を使う。

 ナイフとごつい拳銃だ。

 拳銃を叩き込みながら近寄ってナイフで切り倒す。怯んだ所を少女が最後の一撃を決めた。


「――残り一体!!」


 そうして最後の一体との戦いになる。

 拳銃で牽制して、少女が斬る。単純だがこのパターンが意外とはまった。

 

『せっかくだ。背中のキャノン砲を使いたまえ』


『はい――』


 使い方が表示される。

 チャージ式の武器らしい。


『三十%ぐらいで発射しろ。フルパワーで発射したらどうなるか分からん。いいな? 三十%だぞ? フリじゃないぞ?』


『りょ、了解――』


 どうやら相当危ない代物らしい。

 キャノン砲を肩に担ぎ、狙いを定める。ロックオンマーカーが定まり、出力三十%で固定。

 相手が怯んだ。自分の第六感が必中を告げる。


『トドメを刺す!! 離れろ!!』


「分かったわ!!」


 そしてキャノン砲を発射。

 反動で後退りした。

 そして放たれた光弾が直撃し、大爆発。軽くクレーターが出来上がった。

 進化種は一欠片も残さず消滅した。


『こ、これで三十パーセント?』


『十分だったろ?』


 エネルギー兵器か何かの類いだと思うがそれでも破壊力がありすぎる。もしも百%でぶっ放したらどうなるのだろう。想像が付かなかった。


『コンバットシステム停止――』


 機体のAIだろう。女の声と共にズシッと体が重たくなった。コンバットシステムとやらを解除したせいだろう。


(体が痛むな・・・・・・一晩経てば直ると思うが・・・・・・俺じゃなかったら冗談抜きで生死に関わるぞこれ・・・・・・)


 そう評してそのまま仰向けに倒れ込んだ。全身筋肉痛状態だが、自分の能力を常時使っていたからこの程度で済んだのだろう。でなければ態々あの博士も遠方から自分を呼び出したりはしないだろう。


(うん?)


 ちょこちょこと少女が寄ってくる。 

 小柄で可愛らしい女の子だ。能力を解除したのか刀が消えている。


「煙出てるけど大丈夫?」


『正直大丈夫じゃ無い――それと助けてくれてありがとう』


「そう。私は鈴瀬 理緒(すずせ りお)、アンタは?」


『アンタ呼ばわりかよ・・・・・・氷川 蓮司。ここの入学生だ』


「奇遇ね。私もなの。とんだ入学式になったわね」


『そうだな――』


『警報解除――全てのルーラー撃破確認!! 警備班は警戒レベルAの状態で探索を続行! 救護班は――』

  

 これが俺と、そして長い付き合いとなる鈴背 理緒との出会いだった。


 



 あの後、俺は研究所の医務室に運ばれた。

 能力の都合上、明日には退院出来るだろうと思っていたが念の為もう一日検査の上で休む事になった。

 今回の戦闘データーをスーツに入力して出来る限り負担を減らすと言ってるがどうなるのやら。


(病院での生活って本当に暇だな――入学式も終わってるし、クラスとか寮とかの部屋割りとかどうなってるんだろう?)


 などとフカフカのベッドの上で色々と考え込んでいた。

 そんな時にドアがノックされる。


「誰だ?」


「ふーん、本当にここにいたんだ」


 無愛想な顔をした小柄の制服を着た少女が現れた。

 茶髪のツーテール、何処か大人びていて整った顔立ちで勝ち気な雰囲気。

 見間違えようがない。初めての戦闘で一緒に戦った子だ。

 手には見舞いの品らしき食料品を持っていた。


「私は鈴瀬 理緒――貴方があのパワードスーツの装着者ってわけ?」


 そう言って見舞いの品を押しつけてきた。


「ああ、まあな」


「そうか。初戦闘で進化種倒すなんてやるじゃない」


「でもあれは」


「パワードスーツのオカゲって言いたいんでしょ? でもどんな手段を使っても進化種を倒したって言う実績は覆らないわ。私達が戦ってる相手はそう言う相手なのよ」


「それは――」 


 彼女の言い分も一理ある。

 例えどんな手段を使っても倒せば成果として認められる。

 それ程までにルーラーとは恐ろしい相手なのだ。


「それにしても災難だったわね。いや、新入生にとっては運が良かったかも知れないわ。ルーラーの驚異を肌で感じられて――例えどんなに強力な覚醒者でも死ぬ時は死ぬからね」


「おい、そう言う言い方は――」


「言ったでしょ。甘い相手じゃ無いのよ。今回の襲撃だってルーラーの身体能力を甘く見積もっていたのが原因なんだから」


 忌々しげに少女は言う。

 そしてふと疑問を感じた。


「そう言えばどうやって進入してきたんだ?」

  

 理緒は両目を瞑ってため息をついた。


「ルーラーの身体能力習わなかったの? その気になれば幾らでも方法はあるわ」


(確かにそうだ・・・・・・) 

 

 何度も言うがルーラーの身体能力は圧倒的だ。

 戦車砲で多少はダメージは負う程度の防御力。

 戦車の装甲板をぶち抜くパワー。

 新幹線並の速さと並のビルなら一っ飛びで飛び越せる程の跳躍力。

 覚醒者が現れるまで人類を圧倒し続け、そして覚醒者が現れた今尚も防戦を強いられ続けているのはそんな驚異的な力を持つ進化種が沢山いるからだ。

 その上位個体である大型種など現れた日には一気に戦線が崩壊する。

 ルーラー(支配者)の名は伊達ではない。


「ともかくお疲れ様・・・・・・それだけ言いに来たの」


「はあ・・・・・・」 


 これが理緒との出会い。

 そしてルーラーとの長い長い戦いの始まりだった。

  

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