第4話明日

 夜、私は自室で眠れずにいた。夜の帷はすっかりと降り切って、何もかもが寝静まり、物音一つ聴こえなかった。

 目を開けたままいつまでも横になっていると、次第にのどの渇きを感じてきたので、飲み物を求めてリビングに向かった。家の明かりは全部消えて、私は転ばぬよう慎重に歩いた。と、玄関の近くに違和感を覚えて、その一点に目を凝らしてみた。するとそこには、黒を何度も重ね塗りをしたような靄が、ぼうっと浮かんで揺らめいていた。

 私は驚いて、しばらくのあいだ、息を吸ったまま吐くのを忘れていた。影は何食わぬ顔でしばらく玄関に居座っていたが、突然扉のほうにすっと消えてしまった。

 私は驚きが収まると、怒りが込み上げてきた。そして、あの影と対峙して、打ち果たさねばならないような、焦りにも似た衝動にかられた。

 いてもたってもいられず、焦燥にまかせて家を飛び出した。外は肌寒かった。煌々と照らす月明かりを頼りに、影を探して夜道を走った。肺が空気を求めて悲鳴を上げる。私はかまわず走った。

 道路の真ん中、ぼんやりとした街灯に照らされて、私を待ち構えているかのようにじっととどまっていた。

 私は影に近づいて行った。距離が縮まるにつれて鼓動が高鳴った。さらに近づいていった。どくどくと血の巡る音が頭に響いた。

 いよいよ影に手を触れようとしたその時、真っ白な光が目の前を覆って、クラクションが鳴り響いた。私は叫び声をあげて、後ろにはじかれるように転んでしまった。

 硬いアスファルトに転んだままの姿勢で、動揺が収まるのをまった。先ほどいた影は跡形もなく消え失せてしまっていた。

 気が付けば、東の空が赤みを帯びてきて、朝の風が秋のにおいをはらんでいた。

 

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寄り添う影 @GANDYBOY

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