第3話対峙

 学校へは地区と地区を分断する小さな川にかかる橋を渡らなければならなかった。小さな川といっても、水かさが見かけより深く、流れも急なので、よく水難事故がおこることで知られていた。それが原因か、このあたりに住む子供たちは、川で遊ばぬようにときつく言われて育つらしい。今日、私は橋を渡らず、川沿いの公園のベンチに座っていた。なぜ、私がこのような行動をしたのか自身でも判然としなったが、いつもの気怠さはどこかに失せて、憑き物が取れたように体が軽かった。

 心なしか日差しも柔和で、涼しげな風に運ばれた切れ切れの白雲が、日の光を戯れに遮っていた。私は自省などというくだらないことをする人間ではない。しかし、少しだけ考えてみた。私という人間に、私が関与できることは驚くほど少ないのだ。そう思うと、どうしてか自分がおかしなもののように思えてくるのである。

 流れてきた大き目な雲が、公園にぽっかりと大きな影を落とした。すると、私の目の前、少し離れた場所にあの影がすっと現れたのである。

 私はその影を見つめた。どうやら、以前と違い黒い体の頭部のあたりに、顔のない仮面をつけているようであった。

 私は背筋が凍るようなおぞ気を感じ、体から冷や汗が噴き出した。恐怖を拭い去ることはできなかったが、私は目をそらさず、じっとその影を睨みつめて精いっぱいの抵抗をしてみた。影はただそこにいるだけで、微動だにせず危害を加えるような気配はなかった。

「あなたは一体何が目的なの?」

私は尋ねてみた。影は一瞬よどめいたように見えたが、依然と押し黙ったままだった。

「あの男の子が死んだのはあなたのせい?」

私の声は震えていた。

 突然、学校のチャイムのなる音が聴こえてきた。私は反射的に音のする方に意識を向けてしまい、影から一瞬目を離してしまった。あわてて影のいたほうをみると、それは跡形もなく消えていた。

 私は安堵したような、拍子抜けしたような心持で、さっきまで影のいた場所を見つめていた。

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