#3

 RFが太い右腕で、運転席にいくつもぶら下がった鎖の一つを景気良く引き絞る。がらがらと歯車の噛み合う音がして、車室中央に、赤と青、大きな二つの押釦スイッチが付いた操作盤が出現した。

「相変わらずハデな仕掛けだな」

「ロマンってやつだよ、ユアサ。しっかり捕まっててね!」

 RFが目を輝かせて笑い、それから二つの押釦スイッチの右側、青いほうをその淡桃の皮膚が透けて見えるふかふかの手のひらで押下した。

 ――刹那、ユアサとRF、二人の身体は“ブラッシュウッド号”の座席にめり込むように押し付けられた。高出力の燦炭コーラ動力に切り替えられた“ブラッシュウッド号”は、その速力を瞬間的に劇増させた。二人の座るシートがめいめい軋む音を立てる。その軽妙な姿からは想像もできない程の速力で、“ブラッシュウッド号”は斜め前方を疾走るヘリアンサス型へと一気に距離を詰めていく。

「うおぅ…相変わらずずすげぇパワーだだなお前の燦炭過導コーラ・ブースターは…」

「ふふふんん。駆動力直結だだからね」

 機関から伝わる痺れるような振動と、地面から受ける突き上げに踏ん張りながら、RFは先程より少しばかり真剣な表情で歯を食い縛り、しかし鼻歌は止めることなく、操縦輪ハンドルを握る腕と耳を揺らせて“ブラッシュウッド号”を巧みに操り目標まで導いていく。

 目標は砂埃を上げる後輪架装の間、艦船の真後ろである。時間にすればあっという間であった爆発的急加速が収まった前面窓から見たその背面は、遠目も見えた鉄の箱という印象と違わぬ、まさしく鉄の壁であった。上部やや右よりに、真鍮色そのままむき出しの円筒状の機関缶ボイラァが据えられており、直結した煙突からほど、見張り用の露台バルコニイが二列、筐体を横に走っているが―

「よぉし、バカが、見張りはいねェな。このまま行く」

 ユアサは慣れた手つきで胸衣嚢ポケットから革手袋を引き抜いて手を通し、円筒帽トップハットクラウンから保護眼鏡ゴオグルを外してその鼻先に引っ掛けると、ヘリアンサス型の高さを注意深く見定め、安全帯を外して後部座席を振り返った。鉄製の質素に見える台座に鎮座するは、無闇に豪奢な金と螺鈿に装飾された鞘に収まった、一振りのボントーである。振り返った右腕でその刀を掴み手元に引き寄せる。鞘に収まったままの刀を両膝の間に立て、目を閉じ、ふっと息を吐いた。

 見開いた眼は、先程までの気怠げな色を手放し、保護眼鏡ゴオグル越しに射抜くような視線を前方を疾走る陸上艦船に向けている。

「永い付き合いだったが、しばしの別れだ。じゃァな」

 運転席に向かってそう呟いて、ユアサは二つの釦の右側、青いほうを拳で押下した。

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Golden EXxxhaust!! 外伝 - さむらい☆らびっと 山田 有 @u_yamada

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