第2話 いぬ

この学校の屋上が私の最後の舞台になるのに、ここに楽しい思い出は1つもない。


この屋上では歯を削られた。

飛んできた拳が唇に当たって、気づいたら上の前歯が欠けて、血がダラダラ溢れてきた。


悲しいのに痛いのに、涙も出なくて、生き霊のように上から自分を見下ろしているような感覚に襲われていた。

私をいじめているのは数人の女生徒。

屈強な大人の男でも、凶暴な動物でもない。

同い年の女の子なのだ。

その気になれば私だってやり返せたのに。

今悔しがっても同じことだが。


空を見上げると、一面灰色の世界にベタベタした雪が舞っている。

きれいなふわふわした雪じゃなくて、雨が混じった中途半端な雪。

血と混ざったら、いっそう汚くなるんだろうな。

真っ白く積もった雪の上で死ねたなら、最後くらいは主人公になれたかもしれない。

あすなろ物語のお姉さんのように。


いまさら熱い涙が溢れてきた。

さいごまで、私はどうしようもないやつだ。

中途半端だの、気持ち悪いだの、嫌なやつだの、

悲しい言葉ばかりが頭の中をぐるぐると回る。

こんなことを思いながら、気づかないうちに死ねたなら。

もう疲れた。


せめて、いじめっ子でもいいから、誰かが私のことを覚えてくれていますように。

死んでも思い出して。

あんなことがあったって、同窓会の酒の肴にでも、どうぞ。

それだけが最後の願い。

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かさぶた @kkkkko

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