3 VS 3遊園地デートの始まり(2)


「フー、スッキリしたー!ほんと、どんだけトイレ待たせんだよ、全く。危うく漏らしかけたよーって、おっ!裕翔来てたのかー」

「潤哉先輩!こんちはっす」


 裕翔に話しかけてきた相手、水無月 潤哉みなづき じゅんや。 

 身長は、185センチの高身長に、目じりの上がったキリリとした目に加え、眉は上がっていて鼻が高く、唇は薄い、クールな顔立ち。

 成績優秀、スポーツ万能で、裕翔達が通う学校の生徒会長で、サッカー部のキャプテンもしている強者だ。

 もちろん裕翔達の学校の中では女子人気ナンバー1である。

 そして、何よりも葵の隣の家に住む幼馴染ということだ。

 裕翔や朋也も、潤哉と同じ中学で、葵と仲良くしているので、自然と直哉とも仲良くなっていた。


「はあー」


 葵が大きくため息をつくと、潤哉は心配そうな顔をしてすぐさま葵の元へと駆け寄った。


「葵!どうした?具合でも悪いのか?頭痛か?風邪か?よし、じゃあ今すぐあのコンビニで薬買ってくるからな!」

「ちょっと待って、潤君。具合悪かったら、遊園地なんて来てないでしょ。ほんとめんどくさいなー、潤君は」

「こんなかわいい幼馴染がため息ついたら心配になるだろう。んで、何でため息なんかついたんだよ」

「別に何でもないよ」

「何でもないって何だよ。はっきり言わねーとますます心配になるじゃねーか」

「そういうめんどくさい所が疲れるの」

「何?葵、疲れてんのか?そしたら、あのコンビニで、葵の大好きなスイーツ買わないとな!」

「いらないわよ!はあー、もう、ほんっとにめんどくさい!」


 葵と潤哉のやり取りを苦笑いを浮かべながら見つめる裕翔達。

 中学の時に潤哉と知り合っている裕翔や朋也にとっては、見慣れた光景だが、毎度見る度に葵が気の毒に思える。


 潤哉は、小さい時から、本当の兄のように(実際の兄でもこんなに過保護にはならないが)葵を可愛がっていたらしい。

 見ての通りだが、それは今でも変わっていない。

 葵が体育の授業で擦り傷をして、保健室で消毒してもらうだけなのに、潤哉はどこからかその情報を聞きつけてすぐに葵の元へ駆けつけるほどだ。

 強烈な幼馴染である。


「潤哉先輩は、今日の事、葵に誘われて来たんですか?」


 裕翔が何の気なしに質問すると、もちろんだと言わんばかりのはちきれんばかりの笑顔を向け、大きく縦に頷いた。

 すると、葵は再び大きくため息をつくと、事の経緯について話し始めた。


「潤君なんて、あたしが誘うわけないでしょ。たまたま家の前で財布落としたの気づいてなくて、潤君が拾ってくれたの。そしたら、財布の中身、勝手に見られてて、財布に入れてたチケット見て、一緒に行くってしつこくて……それで仕方なく連れて来たってわけよ」


 裕翔と朋也は、なるほどと小さく頷くと、潤哉が少し不貞腐れた表情をして裕翔達を見ていた。


「仕方なくはひどいぞ、葵。俺は、葵が心配なんだよ。それに遊園地は、チャラチャラとした男もたくさんいるから、そんな男共からかわいい葵を守る責任が俺にはある。なんせ、俺は葵の騎士ナイトだからな!」

「あー……そうなんですね」


 裕翔と朋也は、潤哉のテンプレなイケメンセリフにうまい返事が思い浮かばず、とりあえず苦笑いをして何とかその場を乗り切った。

 すると、潤哉は、なぜか朋也の方を不思議そうに見つめている。


「ところで、朋也。さっきから気になってたんだが、お前に抱き着いている女の子はいったい何者なんだ?」


 朋也は、ハッとなって視線を落とす。

 そこには、ニヤニヤしながら朋也を見つめる日向がいた。


 潤哉と葵に気を取られるあまり、すっかり日向の存在を忘れていた朋也。

 裕翔も日向を潤哉に紹介するのをすっかり忘れていたので、慌てて紹介した。


「潤哉先輩、こいつがうちの妹の白坂日向です」

「あー、この子が裕翔の妹の日向ちゃんか。はじめまして、日向ちゃん。葵の幼馴染兼騎士ナイトの水無月 潤哉です。」


 潤哉が、日向に優しく微笑むと、日向は朋也から離れ、潤哉にニコリと笑顔を向ける。


「初めまして、白坂 日向です。兄がいつもお世話になってます」


 そう言うと、礼儀正しくお辞儀をして再び微笑むと、すぐさま朋也に抱きついていった。

 思わずため息を漏らす朋也。


「葵からも聞いてたけど、日向ちゃんは本当に朋也の事が好きなんだね。礼儀正しくて、一途で、言うこと無しじゃねーか、朋也」

「いや、まあ、そう……ですね」


 朋也は、ぎこちなく笑いながら潤哉に答えた。

 一方の日向は、その言葉が嬉しかったのか、朋也の服に顔をうずくめ、喜びをかみしめていた。


 そんな個性の強いメンバーで遊園地を楽しむ事になる。

 裕翔は一人一人を見ながら、これからが不安であり、また楽しみでもあった。


 だが、一人一人を見て、まだ一人足りない事に裕翔は気づく。

 それは、朋也が誘った相手だ。


「朋也、一人来てねーぞ。もしかして、誘い忘れたとか言うなよ」

「そんなヘマ俺がする訳ねーだろ。もうじき来るよ」


 そう言うと、なぜか朋也はニヤニヤしていた。

 その意味が分からず、首を傾げる。


「あっ、裕翔。ちょうど来たぞ」


 朋也は、裕翔の肩を軽く叩き、改札前の階段の方を指差した。

 裕翔は、朋也が指し示した先に視線を向けた瞬間、視界に入って来た人物に絶句する。


 遠目からでも分かる黒髪と透き通った肌。

 そして、大人っぽい清楚な顔立ちの女の子。


 それは紛れもなく、綾瀬栞であった。


 栞は、改札を抜けると裕翔達の方まで小走り気味で駆け寄って来る。


「遅れてすいません。乗る電車を間違えてしまいました」


 栞は、軽く頭を下げて謝ると、"あの優しい微笑み"を裕翔達に向けたのであった。


 栞を見つめる裕翔。


 会う度に感じていた胸をキュッと締め付ける感覚は今は感じない。


 おそらく二人きりでは無いからだろう。


 今日は巡ってこないと思っていたチャンスが、いきなり順番を抜かして巡って来たのである。


 そう、裕翔にとって、栞はどんな存在なのかを。

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シロとアオ 坂昇 @sakanoboru

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