3 VS 3 遊園地デートの始まり

 遊園地方面の電車に乗り込むと、車内は既に満員であった。

 恐らくこの車内にいる人のほとんどが、遊園地”リリアンパーク”に行くのだろう。


 日向は、裕翔とはぐれないよう、裕翔のパーカーの袖口をギュッと握りしめていた。

 そんな妹の可愛らしい行動に、兄として裕翔の頬は軽く緩んだ。


「次は、リリアンパーク前、リリアンパーク前」


 次の到着駅を知らせるアナウンスが車内に流れる。

 アナウンスと共に、車内にいる人のほとんどが、乗降口の方に体を向け始めた。

 裕翔達も同様に乗降口に体を向ける。


 電車は、徐々にスピードを落としていくと、リリアンパーク前駅のホームにゆっくりと滑り込んいく。

 そして、完全に停車したタイミングで乗降口の扉が開くと、車内の大勢の人が次々と降りていく。


 裕翔と日向も降りる人々の流れに乗りながら電車から降りると、裕翔は、日向の腕を引っ張り、猛スピードで改札口へと続く階段を駆け上がっていった。

 すると、改札前には朋也や葵の姿を確認することができ、裕翔と日向は、息を切らしながら改札を通り抜けていき、すぐさま朋也達の元へと向かった。


「んはっ。朋也、葵……遅れて……ごめっ」


 裕翔は、息切れ混じりで二人に謝ろうとした時、葵が裕翔の右耳を強く引っ張る。


「痛い痛い!何だよ、葵!」

「何だよって、あんた30分も遅れてきたのに謝罪の言葉一つも無いなんてどんな神経してんのよ!」

「いや、今言おうとしたけど……」

「何、言い訳する気なの!」

「えー……」


 葵は、完全にご立腹な様子で、裕翔の耳を引っ張り続ける。

 裕翔も、そこまで怒る事でもないのにと不服に思い、イラっとした表情を浮かべて葵を見ていた。

 すると、二人の様子を見かねた朋也が、やれやれといった様子で裕翔と葵の間に仲介に入ってきた。


「はいはい、二人ともそこまで。これからリリアンパークで楽しく遊ぶって時に雰囲気悪くしてどうすんだよ。それに葵、裕翔は真っ先に謝ろうとしてたぞ」

「そんなん聞こえなかったし!」

「いーや、俺には聞こえてたぞ、葵」

「でも……」


 裕翔の耳を引っ張る葵の指の力がどんどんと弱まっていくと、そっと裕翔の耳から葵の指が離れていった。


「裕翔、疑ってごめん」


 葵は、照れくさいのか、両手の指をくっつけてモジモジとさせると、少し俯いたまま、小さな声で謝った。


「こっちこそ、遅れてごめん」


 裕翔も、後ろ髪をポリポリと搔きながら、照れくさそうに謝る。

 すると、朋也は裕翔と葵の肩に手を置き、ニッコリと微笑んだ。

 しかし、朋也は何かを閃いたのか、まるで今から悪戯をするかのような、不敵な笑みを浮かべ、裕翔の方に顔を向けた。


「なあ、裕翔。なんで葵が遅刻ぐらいであんなに怒ってたのか知りたくないかー?」

「確かに……言われてみればそうかも」

「それはな、葵は、グフッ!」


 朋也が、葵が怒っていた理由を言おうとした瞬間、葵が朋也のお腹に一発パンチをくらわした。

 そんな葵は、茹で上がったタコのように顔が真っ赤に染まっていた。


「葵、何すんだよ!」

「うっさい、バカ朋也!バカバカバカバカバカー!」

「なになに?そんなに裕翔に聞かれたくなかったのかー?」

「もーほんとうざい!」


 そして、いつものように朋也と葵の痴話喧嘩が始まり、いつもの三人に戻った安心感と二人のやり取りに沸々と笑いが込み上げてきた。


「とーもやさーん!」


 すると、背後から可愛らしい女の子の声が聞こえ、裕翔達は振り向くと天使のような愛らしい笑顔を向けた日向の姿が視界に映った。

 しかも、いつの間にかメイクがバッチリ直っている事に裕翔は気づく。

 どうやら、葵とのやり取りの間に、急いでメイク直しをしたのだろう。


「うっ!ひなた……ちゃん……」


 朋也は、ぎこちない笑顔を作り、日向にそう返すと、裕翔の耳元にこっそりと話しかけてきた。


「おい、裕翔。何で、日向ちゃん連れてきたんだよ」

「仕方ねーだろ。朋也がいるなら、絶対行くって言い張るから……」

「裕翔、ほんと妹に甘いよな。さすが、シスコン」

「ちげーよ、バカ!日向の心は、朋也1色なんだから止められるわけねーだろ」

「そうだけどよー。俺、日向ちゃんの事……」


 朋也が裕翔に言いかけた時、二人の目の前に何やら気配を感じて視線を向ける。

 そこには、愛らしい笑顔で裕翔と朋也を見る日向の姿であった。


「二人とも何を話してるんですか?」


 愛らしい笑顔のまま質問してくる日向に、裏があるのではないかと内心ビクビクする裕翔と朋也。

 二人とも思わず顔が引きつるが、朋也はすぐさま笑顔を作ると、苦し紛れの言い訳を日向に言った。


「いやー、あれだよ、あれ。日向ちゃんの今日の服装、めちゃめちゃかわいいなーって思ってさ!日向ちゃんに直接言うのも恥ずかしいし、こっそり裕翔に伝えてたってわけ。あはははは」


 適当な笑い声をさせて何とかごまかそうとする朋也の姿に、裕翔は思わず吹き出しそうになり、そっと両手で口元を覆った。

 それに理由の内容も、女慣れしている朋也と矛盾していて、裕翔のツボに入った。


 日向は、大好きな朋也に褒められ、嬉しさのあまり朋也にギュッと抱き着いた。


「朋也さん、嬉しいです!日向、改めて朋也さんの事大好きです!」

「あーありがとう、日向ちゃん。嬉しいよ」


 朋也は、葵ちゃんの肩にそっと手を置くと、助けてと言わんばかりの悲壮な表情で裕翔を見つめていた。

 裕翔も助けたいという気持ちもあった反面、あんなに堂々と妹が自分の親友に告白したことに、兄として少し動揺していた。


「いやー、相変わらず朋也の事、好きだね。日向ちゃん」


 すると、朋也の横にいた葵がニコリとして、日向に呼び掛けた。


「うわー、葵さん!会いたかったです!」

「ほんとに?私も会いたかったよ、日向ちゃん!でも、朋也に抱き着いたまま言われるとあんまり説得力無いというか……」

「葵さんは、日向の中では、女の人の中で一番会いたい人なんです。日向が、全世界、いや、宇宙一会いたい人は、今も昔も朋也さんだけですから!」

「ぶれないねー、日向ちゃん。ま、女の人の中で一番なら良かったわ」


 そう言うと、葵は、日向の頭を優しく撫でた。

 日向も嬉しそうな表情を浮かべている。


「そういや葵は、今日、誰を誘ったの?」


 裕翔は、何気なく葵に尋ねると、葵は何やら嫌そうな顔をしていた。

 その瞬間、裕翔には、葵が誰を誘ったのかが一瞬で見当がついた。

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