私たちは心の何かをかさねてしまいます。儚い思い出の水彩画のように。あるいは、何層にも塗りつぶされている油彩画のように。
21年の9月ですが『絹子』がカクヨム公式レビューで選ばれたことがあります。
独白形式で描かれている物語は、情景に関しては本当に必要最低限度の事しか書かれていないのですが、そこに私は引き込まれました。曇天の事、恋人の事を語る「私」が、どういった人なのかは分かりません。男性…続きを読む
空を覆う灰色の雨雲と、主人公の心の内を覆う灰色の想い。その対比が情景描写によって鮮明に浮かび上がってきます。雨は確かに嫌な気分になりますが、たまには濡れてもいいのではないでしょうか。拭い去れない想…続きを読む
雨を眺めて、煙草を吸う。それだけの実にシンプルな場景を、丁寧な表現でもって印象強く見せられるところがすごいと思いました。雨の音の描写や、最後に煙草を吸うシーンが好きですね。
雨が降った時のあの匂い、あの肌ざわり、あのけだるい感じ……。雨という現象に寄り添わないと書けない表現たちであるように思いました。主人公もまた、雨に寄り添う者の一人。その理由は読み進めればわかり…続きを読む
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