第2話 アイドル・ガーディアン
私とみらの出会いは小学校にあがった時だった。
たまたま同じクラス、隣の席になったことが付き合いの始まり。その時は、まぁ、隣の席だし、よろしくねぐらいの挨拶だった。
みらはいつも本を読んでいて、大人しい子だった。声も小さかったし、みんなと一緒に遊ぶってことは少なかった。
でも、音楽の授業だけは違った。その時だけはいつもより元気がある。そんな感じだった。
そして、歌がとても上手だった。一方の私は音痴も音痴。酷いありさまったらありゃしない。
だから、私はみらに歌が上手になるコツを教えて欲しいとお願いしたんだ。
そしたらみらはちょっと困ったような顔で、だけど、笑顔で「いいよ」と言ってくれた。
それから、私たちは友達だった。
そして、半年前。私の初めてのアイドルオーディション。
「一生のお願い! みら、アイドルオーディションに出よ!」
怖気づいていた私は最後の頼みの綱でみらを誘った。
結果。私は落ちたけど、みらは合格。その後、あの子は華々しくデビューを飾ったのだ。
オーディションに落ちた時、私は悔しかったし悲しかったけど、みらが合格してアイドルになった時はとても嬉しかった。
自分のことみたいに嬉しかった。
だから、私は……
***
「な、なに!」
爆発は会場の外で起きたようだった。
それと同時に大きな揺れが会場を襲う。ぐらぐらと照明が揺れて、悲鳴が飛び交っていた。
「じ、事故? 地震?」
「し、知らないわよ。でも、なんかやばい感じ?」
私はゆうかにしがみつく。ゆうかも同じように私にしがみついていた。
当たり前だけど大混乱だった。会場にいる人たちはみんな我さきにって感じで逃げていくし、そのせいで出入り口も非常口も混雑している。
ステージにいたアイドルのみんなもその場に座り込んで、混乱していた。スタッフの人たちが何やら大声で叫んでは避難誘導をしているのも見えた。
「と、とにかく、私たちも避難しましょ」
ゆうかは私の手を握って引っ張る。
こういう時、ゆうかは頼もしい。でも、彼女の手は震えていた。怖いんだ。いつも、毒舌で、強がっているゆうかだけど、そんな彼女でもこんな目にあうのはやっぱり怖いんだ。
それは私も同じだ。私はゆうかの手を強く握る。
「セオリーなら、非常口だけど、みんなこんなに駆け出してたら抜け出せないよね……」
「ね、ねぇゆうか。なんか、揺れが強くなってない?」
震える声で何とか落ち着こうとしているゆうかとは変わって、私はだんだんと強くなる揺れが気になっていた。
この揺れはなんだか、地震見たいに不規則じゃない。なんだか、こう、何かが歩いてるようなリズムが……
私がそんなことを考えていると、会場の天井がバキバキと嫌な音を立た。
「く、崩れる!」
誰しもがそう思ったに違いない。
だけど、次の瞬間、誰も想像できないようなことが起こった。天井はいくつか照明や破片を落としながら崩れていく。そして、大きな爪のようなものが食い込んでいた。
それは、一気に天井を引き裂き、姿を現した。
「なに、あれ……」
私は唖然と見上げた。
「怪獣……じゃないの?」
ゆうかも唖然と答えた。
そう、私たちが見上げる先には、怪獣。そうとしか表現できない何かがいた。
その時だけ、会場の喧騒はシンと静まり返っていた。みんなが、その非常識な存在に唖然としていたのだ。
けど、その静寂は一瞬で破られる。
咆哮。怪獣がその口を大きく開けて、叫び声を上げた。ビリビリと空気を振動する衝撃に、私たちは思わずへたりこんでしまった。
怪獣は咆哮を続けながらその巨腕をぬっと伸ばし、ステージへと向ける。
まさか、あの怪獣は……!
「み、みら! みら、逃げて!」
私は思わず叫んだ。
理由はわからない。でも、あの怪獣の狙いはみらだ!
私の叫び声が届いたのか、みらと周りにいたアイドルたちが我に返って立ち上がり、逃げ出そうとする。
でも、一足遅かった。怪獣の巨大な腕が彼女たちの避難経路をふさぎ、そして、握りつぶそうとしていた。
「だ、だめ……」
このままじゃ、みらが!
「そんなことしたら、ダメぇぇぇ!」
誰か、みらを助けて!
私は強く、強く、願った。みらを助けないといけない。うぅん、みらだけじゃない。ここにいるみんなを守らないといけない。だって。アイドルは私たちの夢、私の憧れなんだもの!
そんな夢を、憧れを、わけのわからない怪獣に潰されちゃダメだ!
「やめてぇぇぇ!」
でも、私じゃどうすることもできない。
私じゃ、みらたちを助けられない!
(それじゃあ、力を貸そう)
「え……?」
***
ふと、男の人の声が聞こえた。
その瞬間、私は目の前が真っ白になるような気がした。何か眩しい光を感じた。思わず目を閉じる。
(君には選択肢がある。このまま、諦めるか、それとも抗うか)
目を開ける。
そこは真っ白な空間だった。
あれ? 私、会場にいたはずじゃ……
(どうする?)
って、さっきから男の人の声が聞こえるんだけど、一体何が起きたの?
まさか、私、死んじゃったの? ここは天国? そしてこの声は神様?
「だ、誰ですか!」
(今、私のことはどうでもいい。君が選択しなければ、みらは助からない)
「え?」
(私は優しいからね。そんな光景は見せないが、このままではみらは、そしてあそこにいるアイドルは死ぬ。そして、君たちもね)
「な、なんでですか!」
(詳しい話はあとだ。答えてくれ。君は、どうする? あの子たちを助けられないまま、そして自分も死ぬと諦めるか? それともみんなを助けるべく、抗うか?)
その声は余裕をもっているようで、どこか私を急かしているようだった。
えぇい、なんだかよくわかんないけど、そんなの決まってる!
「助けたいに決まってるじゃん! 諦めるわけないじゃん! みらは私の憧れ、アイドルは私の夢! それに、私はまだ死にたくない! だって私はまだ自分の夢を諦めてないんだから!」
(ならば、力を貸そう。これは、君の夢とは程遠いものだが、それでも、大いなる一歩だ)
満足したような声が響いた瞬間、また光があふれた。それはとっても暖かな光で、キラキラと輝いている。そんな光に乗って、歌声が聞こえた。それは、私がよく聞くみらの歌に似ていた。
みらの歌はとても不思議だった。力強い歌を歌えば、勇気が湧いて来る。楽しい歌を歌えば心がうきうきする。悲しい歌を歌えば、しんみりとする。それは当然の感想かもしれないけど、そうじゃない。みらの歌は本当に、そんな気持ちを起こさせてくれるそんな歌なんだ。
そんなみらの歌声を聞きながら、私は……
***
目が覚めた途端、私は自分の居場所が飛んでもない所だと気が付いた。
「え? なに、これ。ハンドル? レバー? く、車?」
そこには見たこともないようなもので埋め尽くされていた。
私は座席に座っていて、左右に設置されたレバーを握っていた。足元にはペダルみたいなのもあって、一瞬、これは車じゃないかと思った。
でも、これは違う。車の運転席は狭くないもの。私がいる場所は人が一人入るのが精いっぱいの狭い空間だった。
そんな周りをディスプレイがぐるりと囲んでいた。
「な、なに、ナニコレ!」
そして何より私の目の前。真正面を映す画面には、さっき私たちを襲っていた怪獣がいる! それだけじゃない。その怪獣の腕をつかむ、機械の手が伸びている!
その機械の手はがっちりと怪獣の腕をつかみ、その場から引きはがそうとしていた。
『今だ、レバーを引いて!』
「えぇ!?」
なんだか甲高い珍妙な声が聞こえたぞ!
それでも私はその声の言う通りにレバーを引いた。すると、怪獣の腕を掴んでいた手がぐいっと動き、ステージから遠ざける。
『そしてペダルを踏む! 蹴飛ばすイメージ! 僕がサポートする!』
「んなぁぁぁ!」
言われた通りに操縦する! あっちに行け!
私の操縦と考えに同調するように、私が乗り込んでいるそれも動いてくれていた。画面の向うで、機械の足が怪獣を蹴り飛ばし、会場から離していくのが見える。
「や、やった……やったよ! でも、なに、これ、どういうこと? 何が起きてるの?」
『やぱぱ、まもり。安心してくれたまえ。ここは、アイディアンのコクピットだ』
「え、誰? アイディアン? 何それ、何が起きてるの! わかるように説明しろー!」
『落ち着いて、落ち着いて。まずは目の前の敵をやっつけるんだ』
「落ち着けって、敵をやっつけるって……うわわ!」
さっき蹴飛ばした怪獣が立ち上がり、私たちに向かって口から炎を吐いて来る!
思わず腕をかざす。ガガーンとものすごい轟音が響く。だけど、衝撃は思ったほどは伝わってこない。
何事だと思い、目を開けると、機械の両腕が真っすぐ伸びていて、掌からぴかぴかと光る壁を作り出していた。
ま、魔法?
『残念ながら、違う。まぁ似たようなものだけどね』
でもってさっきからきやすく話しかけてくるこの声は一体何なんだ!
『さっきも言ったが、君はアイディアンのコクピットにいる』
「あ、アイディアン? な、なんか変な名前……って、コクピット?」
まさか、私、今……ロボットに乗ってるの!
『そう! 君は今、ディアナを守る騎士となった! 君の、みらを、アイドルたちを守りたいという願いにアイディアンは反応したのだ!』
「は?」
はてなマークを頭に浮かべる私の目の前にポンと煙と共に何かが現れた。
それはウサギのぬいぐるみのような姿をしていたけど、目つきが何だか鋭かった。糸目って言うんだろうか。
「ぬいぐるみが喋った!」
『ま、そういう反応になるよね。でも、君にしては、こっちの姿の方がわかりやすいかな?」
そうするとウサギのぬいぐるみはポンと姿を消した。そして周りの画面に男の人が写り込む。それは、私が二回もぶつかった人だった!
「え、えぇ!」
驚く私を見て、ニコリと笑みを浮かべた男の人はまたポンと、ウサギのぬいぐるみになった。
『フフ、僕の名前はレプス。見ての通り、こういう存在だ。君たちの言葉で言うなら妖精、ってところかな。そして君は、アイディアンのパイロット、ディアナの騎士となった』
「でぃ、ディアナ? 騎士?」
な、なんか一方的なこと言ってきたぞ。
『ディアナとは世界のバランスを司る巫女みたいなものだ。彼女たちの歌や踊りは荒ぶる心を静め、清らかなものとする。ま、そう難しく考えないでくれ。君だって、歌や踊りを見るとウキウキするだろう? つまりはそういうことだ。おっと、シールドが限界だ。そろそろこちらも反撃に出よう』
「何言ってんのかさっぱりわかんないけど、取り合えず今は怪獣を倒す!」
これが終わったらきっちり説明してもらうからね!
『あぁ、説明するとも。君はディアナの騎士。夢見る少女たちの守り人。憧れの盾。やっと見つけたんだよ。ディアナたちを守るナイトさん。君がいてくれれば、この世界は救われる』
なぁに言ってんだこのウサギさんは!
「世界を守るとかいきなりなこと言うのね! でも、みらたちを守れるってのは気に入った、やる気がでるわ! その、なんちゃら騎士になってやろうじゃん!」
『君ならそう言うと思ったよ。やっぱり僕の見立ては間違いじゃなかった。さぁ、来るぞ。奴らはアノニムス……正直な所、僕たちも正体はわからない。だけど、ディアナたちを狙っているのは確かだ。そして、奴らにディアナを渡してはいけない。殺させてもいけない。それは、世界の破滅だ』
「よくわかんないけど、そんな恐ろしいことはさせないわよ。世界の破滅とかピンとこないけど、みらたちの夢は壊させやしないわよ! 私の夢だってねぇ!」
勢いに任せて、レバーを押し出す。私の気迫に応じるように、アイディアンも動き出す。
「いっけぇぇぇ! アイディアン!」
アイディアン。巨大な機械仕掛けのロボット。全長二十メートルの巨体に刻まれた三日月の紋章。白亜に薄い青の装甲を煌かせながら、アイディアンは拳を振り上げる。
「そいつをやっつけろ!」
誰かの夢を守れない子が、自分の夢を実現できるわけがない。
誰かの夢を応援できない子が、自分の夢を見れるわけがない。
誰かの夢を壊すような奴を許しておいたら、自分の夢なんて語れない!
だったらやってやろうじゃん!
ときめきアイドル! ~ガーディアン・ナイト~ 甘味亭太丸 @kanhutomaru
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