先生へ

先生、僕を覚えているでしょうか。いえ、きっと先生は、僕の顔なんて憶えていないでしょうね。

僕は◯◯◯◯です。出席番号一三番、視力が悪くて、いつも先生の目の前の席に座っていました。一際大きなメガネと、右頬の巨大なホクロが僕のトレードマークでした。思い出していただけたでしょうか。

クラスで一番不細工で、勉強も運動もできなかった生徒、それが僕です。クラスメイトからはねられたりはしませんでした。しかし、友達はいませんでした。


ねえ、先生。どうして先生は僕を殴ったのでしょう。僕は何も悪いことをしませんでした。学校の備品を壊していないし、喧嘩もしませんでした。女子生徒を泣かせたりもしていません。なのに先生は放課後になると、居残った僕の腹を殴りました。何度も、何度も。何度教室の床に、ゲロを吐いたでしょう。僕のへその右には、黒色の丸い痣ができました。それは今でも消えてはくれません。

僕は一度、先生に質問したことがありました。

「何でこんなことするんですか?」

と、泣きじゃくりながら先生に訊きました。先生は一瞬きょとんとして、ヘラヘラと笑いました。そして、

「お前が悪いんだ」「お前は勉強も運動もできないし、おまけに笑える顔だ」「そんなお前に、俺は罰を与えているんだ」「覚えておけよ、〇〇。お前はこの先、ずっと罰を受け続けるんだ」「何のための罰かは、自分の頭で、しっかり考えろ」

先生はまた、僕を攻撃しました。その日以来、殴る蹴るだけではなくなりました。水を浴びせられたり、僕が当時想っていた女子生徒に、僕を騙ってラブレターを出したりしましたね。僕の教科書や制服には何もしませんでした。これは、周囲からバレないようにするためだったんですね。だから僕を殴るときには、僕を全裸にしたんですね。

僕は考えましたよ。先生の言う通り、自分の頭で、しっかりと。

これは罰ではなく、ただの暇つぶしなのだとわかりました。

先生は僕と違って、いい大学を出るほど頭が良かったし、体育の授業のサッカーではプロなんじゃないかと思うほどのプレーで生徒たちを湧かせていたし、顔だってモデルのように整っていました。

だから、ストレスが溜まったんですね。どんな生徒からも好かれ、同僚の方からは羨望される。生徒の親からは信頼される。だからそれらに答えるために本性を殺していたのでしょう? だから、僕の前では本性を表して、ストレスのすべてを僕にぶつけたんですね。

でも、先生はいつも僕だけを見ていたから、注意が足りませんでた。不合格ですよ、先生(笑)

僕はある日、誰よりも早く登校しました。まだ他の生徒も、ほとんどの教員も来ていませんでした。もちろん、先生もです。

僕は教室に入り、近くに誰もいないと確認してから、教室の掃除道具ロッカーに、スピーカーの上に、使われない給食着入れの中に、カメラとマイクを設置しました。言わずもがな、先生が僕に罰を与える姿を記録するためです。バレないかとヒヤヒヤしましたが、先生は結局、僕が卒業するまで気づきませんでした。

何故、無力な小学生がこんなものを持っているのかと言うと、僕の父親の私物です。父親は趣味で様々な種類のカメラを持っていました。一つや二つ拝借しても、父親は気づきませんでした。

狙い通り、先生の姿は記録できました。

一昨日、教育委員会、小学校、マスコミなどに僕が記録したすべてを送付しました。この手紙を読んでいる頃には、先生は終わっているかもしれませんね。

毎日のように殴られ続けたのに、僕が一年間休まずに登校したのは、先生に罰を与えるためです。この先、ずっと先生は罰を受け続けるでしょう。何のための罰か、それはご自分で考えてください。

それでは、もしまた会う機会があればよろしくお願いします。




追伸:昨日、大学の合格通知が届きました。僕はこれから、大学生として、立派な社会人になるために、一歩一歩進んでいきます。

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あんたへ 玉浦 ほっかいろ @hanamurakeito

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