第6話
修行を始めて一週間がたった。幾つかスキルを増やしていたが、想像したものが全てできるという極甘設定ではなかったようで、作れないスキルもいくつかあった。
昼間はベベロさんとボコスカ打ち合って、夜はコツコツ皮むきと皿洗い。1日の三食は食堂を借りて端材を使って仕上げる。根菜の皮でも食べられるものや、肉の切れ端をまとめて肉団子にしたりと節約情報番組の知恵に助けられた。
生み出したスキルのうちの一つである調味料生成スキルを使用して料理を作ったところ、この世界の食材との相性が抜群すぎて頰が落ちる戸頃の話ではない、きっと彦○呂も絶句するだろう。
そんなわけで今は冒険者ギルド。
「ズン、もう一週間経ったし動きも良くなってきた。狩に行って実践しようかと思うんだがどうだ?」
「狩ですか、お金稼げますか?」
「ああ、結構な。この付近では美味しいギウサギ肉が取れるんだ。」
ウサギと戦うのであれば戦うというより罠を仕掛けた方がいいのではと思ったが何か理由があるのだろうと出かけた声を喉に押し込めた。
「ギウサギ肉はさっぱりしててうまいんだ。噛み応えはあるが臭みが全くないのがギウサギのいいところだな。うーん食いたくなってきたな、よし、行くぞ!」
「え、今すぐ?」
思い立ったが吉日とばかりのバツグンの行動力を持つベベロ。彼の行動力に振り回された人は数知れない。弟子が今までいなかったのはこの性格を皆知っていたというのが一つの要因だろう。
もちろんそんなことを知らないズンは振り回されているのである。
王都の門番に冒険者ギルドカードを見せ、外に出る。
「さすがに街のすぐ近くは居らんからな、二時間ほど歩くぞ。」
ベベロの後を追って歩く。テンポはそんなに早くない。休憩なしで二時間ぶっ通しで歩く。疲労感がないのは修行の賜物なのだろうか。
「今の技量だったらギウサギとおんなじぐらいだな。ノルマは五羽だ。」
今の俺の実力はウサギ並みなのか?俺、そんなに弱いのか?ウサギも異世界補正がかかっているのかも知れない。
森の中をベベロさんは槍で草を分けながら歩いて行く。長モノはこういう時に便利だなと再認識した。それは剣でもできる?む、それはそうだ。
「ここからギウサギの領域に入る。」
「なんでわかるんですか?」
「長年の感って言いたいところだけどほら、あそこの木を見てみな。」
木の表面にはうさちゃんマークが彫られていた。
「あれがギウサギのマーキングなんだ。向こうの木にもマーキングされているからあれとそれをつないだ線がギウサギの領域というわけだ。領域意識が高い上に好戦的な性格を持つウサギだ。領土を拡大させないように間引いたりもするが畜産をわざわざしなくても勝手に増えてくれるから便利でいい食材だぞ。攻撃的だがな。」
「攻撃的なウサギって。そいつは肉食なんですか?」
「いや、草食だ。」
よくわからん。いきなり襲ってくる草食動物ってなんだ?自滅するだけだろとも思ったが、よく考えると自己領域内の食料を防衛する知性的な生き物なのではないか?と一瞬思う。しかし、たまに領外に出て生き物を瀕死に追い込んで放置して帰るというなんとも迷惑な習性があるというのを聞くとただの傍迷惑な生き物だということに落ち着いた。迷惑だな、ギウサギ。
そういう好戦的な性格から成長する筋肉。そして傍迷惑ではあるが肉を食べたいという食生活から歯ごたえのあって美味しい肉厚なウサギ肉が取れるという寸法だ。じゅるり、よだれが出そうだ。
そんなことを考えているとすでにギウサギの領内。油断ならない。
「おい、ギウサギの領内だぞ。警戒しないと負けるぞ。と、もう出てきたな。」
ギウサギの登場だ。
ウサギと言ったらモコモコしてて可愛らしい小動物を大半の人が思い浮かべるだろう。まずそのイメージを全て捨てて欲しい。
超筋肉質の二足歩行のウサギ。纏うオーラは修羅のごとく歴戦の戦士を彷彿させる精悍な顔立ちをしている。小動物らしい可愛らしさなどかけらも感じられない。
「べ、ベベロさん?こいつがギウサギなんですか?」
「ああ、こいつらの肉は美味いぞ。」
本当にこいつらなのか。今にもジッポライターと葉巻を取り出しそうな見た目をしているがウサギだ。
「くるぞ!」
現れた三体のうちの一体が襲いかかってくる。舐めているのか知らないが、残りの二体は大きなキノコと切り株に腰掛けてこちらをみている。
襲いかかってきた一体は一瞬で懐に入ってきて鳩尾に一発決める。
重い一撃。舐めているのはこちらだった。ベベロさんが僕と同等だと言っていたのだ。本気でやってやっと同等だという意味だろう。
杖の端をもち上段に打ち付ける。ギウサギは同じように懐に入り込み腹に一発打とうとする。
フェイントだ。腕を伸ばして棒の先を持ち、自分の方に棒を近づけ払う。攻撃を払われたギウサギは動揺を見せる。隙を見つけたズンは急所を的確に突く。怯んだギウサギの首元をナイフで切る。傍観に徹していた2体も襲いかかってくる。それらも倒しナイフで首元を切り、血抜きをする。
「よく2体相手に倒せたな。上々だ。次行くぞ次。」
ノルマを優に超える8体を狩ったところで、街に帰ることに。全て足を紐で括ってひとまとめにして担ぐ。筋肉質だからか結構重い。門番に調子はどうだった?と聞かれたが、ベベロさんが「上々だよ」と答えて中に入る。狩った数はものすごい多いのかと思ったら好調の域を超えない常識的範囲内らしい。他の食料となる草食動物だと一体でも良いとされるものだが、ギウサギは好戦的なので索敵をしなくても狩りを行えるという狩の初級に当たるようだ。しかし、戦闘力が必要となるので中級程度の力は必要みたいだが。
ギルドについて、一羽を残してそれ以外を売ることに。手続きをしている間、ギルド内の喫茶スペースにて今回の狩の反省会のようなものをすることになった。
「戦闘を見てたんだがよ、お前棒でとどめさせないじゃないか。」
ぐっ、確かにそうだ。戦闘はつづがなく終えられたと思っているが、最後のトドメのみナイフで処理していた。これじゃあナイフで戦う術を身につけたほうがいいということなのだ。
「武器を見直すべきなんでしょうか。」
「うーん、槍にしてくれたら1から教えられるが……。役割とあったものを選ぶといいと思う。で、長モノがいいんだもんな……。料理に長いもの使うか?そんなイメージがないんだが。」
確かに調理器具に長モノはない。あるとしたら麺棒、あとは餅つきの杵とかだろうか。
………竪杵があるじゃないか。棍棒を竪杵とし、相手を半殺しにするスキルを使えばいいのでは?
「いいの思い浮かんだのでそれにします。この棒も折れそうだったので明日木工所に行って作ってきます。」
「ああ。それがいいと思うぞ。あと、ナイフじゃなくて包丁にすると扱いうまくなるだろうし、解体包丁もサブの武器として優秀だと思うから購入しておいたほうがいい。あとは服。ずっと気になっていたんだがそんな綺麗な服は戦いには向かないから動きやすいの買うべきだと思うぞ。」
「買取でお待ちのズンさん、受付までお越しください。」
アドバイスも一区切りついたちょうどいいタイミングで呼び出された。
ギウサギ1体5000ポン。ちなみにポンは通貨である。可愛い響きだ。
それが7体で35000ポン。ソコソコの稼ぎだ。
35000ポンを受け取りベベロさんと別れて宿へ戻る。いつもより入念に体を拭き、厨房に入る。
いつものように皮をむき、皿を洗う。もうそろそろスキルも成長して新しいのも生えているかもしれない。そう思ったズンは仕事を終え、部屋に戻るとステータス画面を開いた。
飯田泰然
16歳 男
《役割》
料理人、整体師
《スキル》
料理効果付与10
料理技能アップ12
下ごしらえ12
後片付け10
自然治癒力アップ4
マッサージ技能アップ6
隠密1
地獄耳3
遠見2
格闘4
杖術10
《特殊スキル》
カ・ミヌーマ
調味料生成
特殊スキルは基礎となるスキルが10レベルに達するごとに作ることができると教わった。ベベロさんもお風呂清掃からデッキブラシパワーアップとか色々作ったらしい。
調味料生成は料理効果付与10によって作ることができたのだろう。カ・ミヌーマは料理技能アップが10レベルに達していたから作れたのと考えると、今、派生として新しく作れるのは「下ごしらえ」と「後片付け」、それと「杖術」だ。
一つ新しいスキルは考えてある。「下ごしらえ」の派生だ。これは今作ったところで試せないので試せそうな時が来たら作ろう。
料理人と整体師でサポート無双 マウヨシ @mauyoshi
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