第5話
王城では。
「みな、集まってくれたな。今回は戦闘についての教習会である。」
泰然ことズン以外の皆に渡された役割は「剣士」「闘士」「槍士」「弓士」「癒士」の四つである。
「異世界から召喚した戦闘員たちは高い運動能力をもっているが技が全然できないらしい。なので君たちにはスキルを身につけてもらう。」
「スキル?」
「おい、スキルだって!」
「これは無双の予感!」
「成り上がってハーレム作って大金持ちまっしぐら!」
あまり異世界について詳しくない石井は疑問に思ったようだが、オタク戦士の篠瀬、駿河、妹尾が喜んでいる。テンプレからはすでに外れているともわからずに。
「そこのうるさい三人はわかっているようだが他のものがわからないようなので説明させていただく。スキルとは技、剣士なら剣術を槍士なら槍術を鍛えることによってできるようになる強力な技のことです。飛ぶ斬撃や何人もを貫通する突きを繰り出すことができます。実際にお見せ致します。そこの兵士!スラッシュを見せろ。」
「はっ!」
脇に立っていた兵士が後ろに移動、五つ並んでいるワラ人形に向かって剣を構える。振りかぶって
「スラッシュ!」
ブォンと力強く大きく風を切る音がなる。明らかに剣が届いていないと思われるものまで真っ二つに分かれている。
「なっ!」
クラスの皆が驚く。オタク三人衆はきゃっきゃと喜んでいる。
「このように普通の剣技とは異なり、より強力なものがスキルとなります。初級の技が今見せたスラッシュです。難易度が上がれば上がるほどスキルの威力が上がります。技を鍛えているうちにスキルを習得しますのでまずみなさんには型の練習をしてもらいます。」
「あの、癒士というのは何を……」
いつも穏やかな桜井さんが自ら質問をした。珍しいと皆から視線を集め、恥ずかしいのか縮こまってしまう。
「教会より賜った神力を与えることで傷を治すことができるのです。そちらもスキルがありますので神父に教わってください。他には?」
「魔法ってあるんですか?」
オタクの一人、妹尾くんが質問する。「ここは剣と魔法の世界!」というあれを期待して魔法チートでもしようとしているのだろう。
「魔法は魔族が使うものだ。人間に扱うものはいない。扱うものがいたらそれは敵だ。」
「じゃ、じゃあ俺たちを召喚したあれは?魔法じゃないのか?」
「神様が与えなさった王家に伝わる聖具である。魔法などという汚らわしいものと一緒にするでないッ!他には!」
皆少し萎縮してしまった。すぐに立ち直った坂田くんが質問する。
「戦う相手は魔族ってことですか?」
「ああ、魔族との戦いが近々勃発する。それに備えて君らを呼んだのだ。」
「魔族とは敵対しているのはわかりました。それ以外に敵対しているのはあるのですか?」
「1から簡単に説明しよう。この世界には人間以外に獣族、魔族、精霊眷族が生息している。
まず敵対している種族を紹介する。
まずは獣族。獣族には獣人と龍人がいて、こいつらはスキル、魔法が使えないが信じられないほど身体能力が高く、それぞれの持つ特徴を武器に戦いを進めてくる手強い相手だ。
次に魔族。魔族内でも様々な形をしていて統一感がないが共通しているのは人の形をしていて、おでこあたりにツノが生えており、そして目は赤く、肌の色は病的に色白い。スキルは使えないが魔法が使え、身体能力も獣族には少し劣るぐらいで高い。手強い相手だな。
そして敵対していないのが精霊眷族。敵対していないが仲間ではなく中立。森や山、湖に引きこもっていて出てこない。だが、攻め入ろうとしても自然が襲ってきて戦えないのがこいつらだ。気味が悪いから近づかないのが正解だと思うぞ。
最後にまとめると、敵対しているのは獣族と魔族。中立なのが精霊眷族。そしてこれから戦うのが魔族だ。わかったか?」
「はい、まあ。」
クラスの皆が理解したようだ。手強い相手と戦うのだと引き締まった顔しているものもいれば、恐怖に震えているものもいる。オタク三人衆は「ケモミミは敵なのか…」とか「エルフしゃんは引きこもり…」とか思い思いの言葉をつぶやいている。
「他に質問はないか?」
「人族の国はここだけなのですか?」
「いや、ココア帝国がある。が、こちら側の魔族との敵対と先方の獣族との敵対、互いの戦争による消耗により先日和解した。ただ、自由な行き来は禁止。貿易も国を通したもののみに規制。私貿易は禁止している。故に繋がりは薄い。」
「それはあまり利益につながら……」
「うるさい、君らは戦闘員だ。政治に口出ししないでもらおう。質問はないな。型を練習していち早くスキルを取れるように修行に励んでもらう。分かれて移動しろ!」
なぜ彼らは王の指示に、戦争に身を置かせられようとしているのに反発しないのか。それは失敗が目に見えているからだ。物語のような脱出劇をクラス単位で成功できるわけがない。それは皆考えている。そして個人単位で脱走した場合、王国の者が敵になるのはもちろん、クラスメイトすら敵になる可能性が高いのだ。もし仮に脱走できたとしてもこの世界の常識が欠如しているケツの青い少年少女では野垂れ死ぬだろうことはわかっている。リスクマネジメントをした上でこの場所に残っているのだ。
その点、飯田泰然という男は自由の身を獲得した上にソコソコの生活水準を保てている。運が良かったとしか言いようがない。
スキルについても彼は運が良かった。大体の人間はクラスの大半が習ったように役割には決まったスキルがあり、それを段階を踏みながら習得して行くという考え方が染みついている。
しかしその考え方を知る前に、修練を重ねれば役割以外のスキルを得ることができるということとベベロから役割に近くて詳細な想像が可能であれば簡単にスキルを生み出すことができるということを知った。
これは以後この真相を知っても疑いから入るので適用されることはない。
ちなみにベベロが気がついたのは頑固な油汚れが手で撫でるだけで落ちるスキルを作った時である。
泰然のクラスメイトたちは彼がいなくなったことを気にもとめず、スキルの習得に励むのであった。
そしてその頃泰然は
「うーん、調味料が塩だけっていうのは料理人としてどうかと思うな。よし、『調味料生成』のスキルを作ろう。」
クラスメイトのことよりも調味料のことを考えていた。
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