第4話 虎口を逃れて脳筋竜に会う

化け物風情が、僕に挑むか?」

 「グルル……」


 大ゴブリンは、依然として威嚇を続ける。

 だが、わずかに手が震えている。


 ちょっと遊んでみるのもいいだろう。


 それは、強者のみに許される愉悦。


 僕は今、強者なんだ。

 なんだかゾクゾクする。


 だが、今思えば序盤でちょっと油断しすぎた。



ーーーーーーーー――――


 んー……どこだ、ここ?


 ハルタは道に迷っていた。

 途中までは足跡を辿っていたのだが、痕跡がだんだんと薄くなり、ついには途切れてしまった。


 とりあえず、勘でいくか。


 ハルタはふらふらと揺れながら、疲れた体を歩かせた。


 しばらくして、変な音がするのが聞こえた。


 これは……泣き声?


 なにかが嘆き悲しむ声が聞こえる。

 ハルタは、なにかの罠である事を危惧しながらも、好奇心で少しずつ近づいていった。


 ん?……こいつは……


 そこにいたのはハルタと同い年くらいの少年が隠れる気もなくむしろ、気づいて欲しいかのような迷子の子供のように泣きわめいていた。

 金髪の髪に、雪国の人のような分厚い服装をしていて、大きなリュックを背負っている。

 そして、一番特徴的なのは、その青黒い立派な角が二本頭から生えていた。

 それから想像出来るのは、竜。

 ハルタは、なにかを思い出したかのようにハッと息を呑む。


 コイツ、もしかして……


 「お前、デデーンのおっさんが言ってた、ファフニールのガキ? 名前なんだっけ?」

 「へ?」


 泣くのを一旦中断して、少年の碧眼が俺をとらえる。


 「お前! デンちゃんと知り合いか!」

 「ま、そんなとこだ。てか、お前こんなとこでなにしてるんだ?」


 少年は恥ずかしげもなくはっきりと言う。


 「道に迷って、困っていた!」

 「あー……だから、泣いていた、ということか」


 デデーンの言う通りになってる。

 それほど、バカに定評があるってことか。


 「お前! 名前は!」

 「俺か? 俺は、ハルタだ」


 「ハルタ? 変な名前だな!」

 「そりゃどうも。お前は?」


 「俺は、リュードだぁ!よろしくぅ!!」


 さっきまで、泣きわめいていた自分をどこに捨てたとツッコミたくなるくらい、態度が一変し、元気ハツラツになった。


 「言っとくけど、俺も絶賛道迷い中だ」

 「おお! 仲間だ! 俺達は今日から道迷い友達だ!」


 目を輝かせて、俺の手をとるリュード。

 そんな浪人生みたいな言い方しないでくれ。

 しかしその言動ぶりに、あって数分しかたっていないのに、バカだということがはっきりと伝わる。

 とりあえず、荷物が増えたと仮定しておこう。

 いや、それより考えられるのは、


 「お前、ドラゴンに変身できんだろ? 空から確認出来ないのか?」


 「…………その手があったか!!」


 はい。バカ確定。


 「でも、それだと人間に目立って攻撃されちゃうかもしれないぜ?」


 と思っていたが、さすがにそこはちゃんと考えてるのか。


 「じゃあ、地図もってるか?」

 「地図? ああ、リュックに入ってる! そういえばあったな」

 「いや、地図つかえよ!」


 俺の迫真のツッコミに、リュードは不満そうな顔で言った。


 「だって、使い方わかんねーんだもーん」


 頬を膨らませ、プンプン怒りをアピールしているリュードをよそに、なかば強引に彼の手から地図を取る。


 それは大陸の分布図を表しているようで、いわば世界地図……って! わかるわけないだろ!

 地図を地面に叩きつける俺を見て、リュードはハッとなにかに気づいたかのような反応を示す。


 「わかったかも!」

 「え!? なんでこのタイミングで!?」


 「違えよ! デデちゃんたちに気づいてもらえばいい話!」


 「バカにしては、頭がきれるじゃん」

 「だろ!」


 なんだ、自覚してるのか。

 ってそうじゃない。

 だが、しかし、さっきデデーンたちの様子を見るにそれどころではないはず。気づいてもらうったって、相当でかいコトをしなきゃ、だけどそれだと人間に気づかれるし……

 あ、そうだ。


 「お前、ドラゴンになれるのか?」

 「うん」

 「ドラゴンって、この世界じゃ強いのか?」

 「ファフニールでもドラゴンじゃなくても、俺はつえーぜ!」


 よし、『アナライズ』っと。


ーーーーーーーーーーーーーーー

 リュード


 スキル

 咆吼……敵の動きを封じる。

 炎息……爆炎を口から吐き出す。

 風魔法22


 固有アビリティ

 竜化……ドラゴンに姿形を変える。

 竜鱗……全ての攻撃に強い耐性をもつ。

 竜撃……1回の攻撃が通常攻撃の30倍になる。そのかわり連続攻撃ができなくなる。竜化時のみ対応。



 アビリティ

 全活性……瀕死時、全魔力を使い、身体の損傷を全回復する。ただし動けなくなり、三日の間眠りにつく。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ほんとだ。こいつ、普通につよい。

 いや、普通以上につよいだろ。

 なんなら、空から探してもいいくらいだわ。


 「よし、空から集落を探すぞ。はやくドラゴンになれ」

 「え!? いいの!?」


 「お前くらいの強さなら勇者だろうが、まだ序盤だし、余裕だろ」

 「勇者!? …なんだっけ? それ?」

 「知らなくていい」


 「じゃ、いくぜ!」


 リュードは背中を丸め、全身に力を入れる。

 するとみるみるうちに体が巨大になり、同時にウロコや翼、ツメ、牙とドラゴンそのものへと姿を変える。

 そして、この森からゆうに飛び出すほどのその巨体にただただ圧倒されるハルタ。


 俺なんてこいつから見ればありんこ同然じゃねーか。

 リュードは俺を手に取り、背中にのっけた。

 こんなかんじの演出はアニメとかでよく見るが、いざ自分で体験すると物凄く怖いな…


 「じゃあ! いくぜ!」


 その巨体から発せられる声は、轟音となり周囲に広がった。


 これは即人間にバレるな。

 リュードは大きな翼を広げて、天高く舞い上がった。

 俺は恐怖感を感じたが、それはほんの一瞬だった。


 良く晴れた空から、眺める情景に感動してしまったのだ。

 世界はこんなに広いんだって思わせてくれる広大な大地。

 らしくもない自分になんだか嫌悪感すら感じる。


 それはそうと俺はさっきまでいた森にあるゴブリンの集落を血眼になって探す。

 たとえ、集落が人間に襲われたとしても、こいつのブレスで一発だろ。


 「あれ? さっきの森ってどれだっけ?」

 「お前は黙ってろ」


 集落…集落…あった!!

 それらしき場所を細目で確認した。森の木々の僅かな葉の隙間から垣間見える小さな集落。


 「おい! リュード!! あそこだ! 」

 「え? どこ?」

 「あそこ!! すぐ目の前!」

 「え!? 集落は空中に移動したのか!?」

 「すぐ下だ!」


 この知能なしの脳筋デカ物を相手にするのは骨が折れる……


 リュードはやっとの思いで、見つけてくれて、そこに向かおうとした瞬間ーーー




 集落からなにかがこちらに向かって物凄いスピードで直線上に飛んできた。


 それはリュードの横腹の鱗にあたり、跳ね返って、再び地に落ちる。

 地に落ちるもう動くことはないだろうそれは必死になにかを訴えているような顔だった。


 俺にはそれがなんなのか、どういう意味なのか、はっきりとわかった。


 あれは……普通よりもでかい大ゴブリン。

 どういう状況であったかは、リュードの横腹に付着した血を見ればわかる。


 「あれ? 今、なんかあたった?」


 リュードが聞いてきた。

 どう答えるか……リュードとゴブリンの関係はどれほど親しいのかはわからないが、一応、


 「いや、なんも……なかったぞ?」

 「そっか?」


 「リュード、このまま魔王のとこまで飛べ」

 「え!? なんでだよ!? 俺! デンちゃんにもっと安全な集落見つけたってーー」


 「デデーンのおっさんが言ってた」

 「……なんて?」


 「今すぐ、逃げろーーー」


 遅かった。

 今思えば、空を飛ぶべきではなかった。

 完全に俺の過ちだ。


 集落から再びなにかが吹っ飛んできた。

 いや、飛んでいるみたいだ。

 それの形はだんだんと明瞭にわかり、人だとわかった。


 リュードの眼前に来ると、その人は、剣をむけ、こう言った。




 「勇者の最初のボスが、竜とはなかなかいい絵になりそうだ」

 「なんだ? お前? いっとくが、俺は、一人の人間にやられるほど弱くはないぜ…」


 リュード! 余計な事言うな!


 その人は、不敵に笑っていた。

 どこかで見た顔だが、気のせいだろうか。

 頭の中の警報機がけたましく鳴っている。


 「リュード! はやくいけ!」

 「え!?」

 「はやく!! はやく! はやくしろ!!」


 俺が必死に叫ぶと、すぐに発進した。

 その人間を追い抜き、超スピードで大気を進み、俺は振り落とされそうになる。

 もうちょい速度おとせ! と言おうとしたが……



 やめた。



 その人間が、リュードと同じ速度をゆうに出し、すぐそこまで迫っているのだから。


 そいつは依然、不敵な笑みを浮かべる。


 こいつ、絶対あそんでやがる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

レジスタンス @uesakamiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ