第8話 疑い、根拠

「その黒いナイフ······それっ、よく見せてください」

突然勢いよく近づいてきたミーニャは顔を鉄格子てつごうしに押し付け、目はそのナイフに釘付けになっている。

「どうしてあなたがこれを······?これは、私の祖先が300年も昔に使っていたとされる物。名前は確か“アルフザート”──だったかしら」

「へえ、これってアルフザートって読むんだな。俺には無理だが、お前には読めるのか?」シオンはナイフの刃の部分に書かれた言葉ともいえない記号を指差しミーニャに尋ねた。

「いえ······それは私にも読めません。おそらくそれも昔の文字でしょう······」

言葉のトーンが最後に下がったことに疑問を抱く。ミーニャはまた足下に視線を落としその場にガックリとしゃがみ込んだ。

「どうした?」

「お父さん、私をマフィアに売るだけでなく、家宝とされていたそのナイフまで見ず知らずの人に渡すなんて······」

悪かったな、見ず知らずの人で。

「本当に?」

「えっ?」

うつむいていたミーニャが顔を上げる。

「本当に君は君のお父さんが俺にこのナイフを託した理由が分からないのか?」

ミーニャは少し間をあけて答える。

「私を助けるためとでも?助けてもらうためとでも?娘を売った父親が今更?どうせ次はお母さんも騙されるに決まってる」

「君はお父さんに金で売られたと」

「そう言ってるじゃないですか!」

「何を根拠に」

「私を連れてきた人たちが言ってました!」

「だから、そいつらの言葉に何の根拠があるんだ?」

「ならあなたの言っている事には何か根拠があるっていうんですか!」

叫んで息を切らすミーニャを見ると、そのからはいつの間にか涙が流れている。

「確かに今の俺の言葉には何の根拠もない。強いて言うならこのナイフを持っているくらいだ。──だから、これから君がどうするか、それは全て君次第だ」

それからシオンはゆっくり立ち上がり、鉄格子から距離をとりナイフをもう一度よく見せる。

 「君を攫った連中の言葉とこのナイフを俺に託した君の父親の言葉、君を攫った連中とこのナイフを託された俺の言葉、どちらを信じる?」


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神速の狩人のいるギルド 蘇来 斗武 @TOM0225

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