第六話 テンサイ

時は20分前。

 ある青年が大変な事件に巻き込まれていた。


――――だめだ。

 ここは防火シャッターで通れない。

 と、なると窓から飛び降りるしかない。


「だがここは三階だ。さすがに死ぬわな」


 失笑しかできない。

 なんで俺避難できてないんだよ。ああ、すまん俺が悪いよな。

 クラスメイトが教室で授業受けてるときに俺は屋上で昼寝してたんだから。

 でもな?

 普通気づくよな。クラスメイトが一人居なかったら。


「さすがに探してるよなぁ!? なぁおい! 俺ここにいますから! お願いだから助けて!!」


 ふざけるんじゃない、反省してますからお願いです助けてください。

 そうやって土下座を繰り返す、安代 時宗(あしろ ときむね)。現在大ピンチです。


「はぁ、これ爆発で避難してたんだよな? そうアナウンスで流れてたよね? ……あ、大声出したらみんな気づいてくれたり?」


 そう思い、屋上に戻った時宗は大声を出す。「助けて」「僕はここにいます」など発声するが一向に返事が来ない。もう仕方がないので悲鳴を上げることにした。


「うわあああああああああああああああ!!」


 待っているのは。


「……」


 しずかな空間である。


「これなんか虚しいだけなのでは。ふはは」


 悲しい悲しいと上を向きながらウロウロしてたんだが、目尻が熱くなりだし今にも泣きそうになってきた。そして…あ、この風の流れと雲の色、雨が降るな! とかどうでもいいことしか頭に出てこない。

 このままじゃ下手したら俺の人生が終わってしまう。


「そうだな、やっぱ窓からどうにか脱出するしかないわ。それしかない」


 この決断に至ったあとは早かった。屋上のドアを開け、早速一番近い窓まで走って行きカギを外す。


 ガチャリ。


 クリアな音が廊下を走る。


「……さてさて、いっちょ頑張るとするか!」


 そう言うと、いざ自分の足を窓に掛けてみる。

 キッツ。学生ズボン破れそう……ビリビリって。


「なんか罪悪感ある。普段は先生に怒られるからかな」


 なんとか身を窓の外に出すが、不思議に思うことがあった。


「ん? 確か爆発だったよな? なんで、どこにも爆発の形跡がないんだ?」


 YES、爆発の跡が全く見当たらないのである。爆発って言ってたのに。ふぁ。

 しばらく、固まってみる。

 フル回転する頭に体は不要だからだ。


「……だめだわかる気がしねえwww」


 この安代 時宗(あしろ ときむね)、美術を除く他全教科。

 オール5の天才である。テストでは美術以外満点。美術以外の教科は毎回一位を攫って行く。そして行き着いた答えが。

 

「……これもしかして美術が関係する事件なのでは?!」


 ――――――自信家、金髪、水色目、黒メガネ、そして天才的頭脳。

 それが時宗。

 現代を生きる天才、とも言えるが。


「……いやでもひょっとしたら。 異世界モノいうやつちゃんかこれ!? やば、すご! やった嬉しい! いやでもちょっとまって、持ち物の確認だけしとかな。 こういうパターンは大体すごいの来るからホント!」


 変な方言を持った重度なキモオタ、とも言える。キモイ。


「おっと方言出てしまいそうだった……いや出てたか」


 そんなキモイところに時宗本人は気づいていない。自分の周りはほとんど引いてるだなんて内緒。


「あ、雨だ」


 先ほど雨が降ると予想していた時宗は、当たり前のように上を見る。

 あまりいい状況ではない。今の時期、このまま雨を浴び続けてしまったら……。

 ゾっとするぜお天道様。


 ……そこへある物体が視界へと入ってきた。

とっさに体が反応して、窓側にあった腕を身体側に寄せ、運よく避けれたが。もし直撃していたら。

 腕は大変なことになっていただろう。

物体は「中庭」から飛んできたのであろうか、「えげつない速度」に圧倒された。


 そのある物体は、「顔のない頭」だった。


「は、ぁぁッ!?」


 時宗の居場所、三階から下に落ちた物体を見ていることになるため、あまり詳しくは見えないが。間違いなく生首だ。


「どういうこっちゃ……なんで生首……めちゃんこ血出てる……」

「グォォァアアアア!!」

「ひっ!?」


 その声は廊下側から聞こえた。


「え、なに、なぜに顔が……?」


 それは先ほど強烈なスピードで飛んできた生首。それと全く同じ頭だった。

 すぐ俺の見える距離の廊下で「顔のない人」が叫んだのである。

体はすごくデカい。身長は2m近くあるのではないのだろうか……服の上からでもわかる腕の筋肉。あれは人間なのだろうか。そう思えるほどに、普通という概念を超越していた。


「大丈夫ですか……?」


 顔がない=口もない。

 つまりしゃべれない、そうわかっていてもつい言ってしまった。これはドッキリの類なのではないか、そうであってほしい。そう願うが、現実はそう優しくなかった。「顔のない人」は殺気を撒き散らしながら俺に向かって走り出した。


「ヤバい」


 小声で、囁くように言い放った時宗は、窓から廊下に戻り右手側にあった消火器を手に持つ。


「すみません少し失礼しますッ!」


 ブシュッ!!


 と、消火器の黄色の安全ピンを抜き、ホースの先端を「顔のない人」に向け、レバーを強く握り放射する。


「ウがぁ、ああぃああああ!?」


 顔がないのにどこから声を出しているのだろうか。

 謎の奇声を放ちながら、走るのをやめ立ち止まる怪物。その間に時宗は。


「まさかこのタイミングで『マスターキー』を使うとはな……」


 煙が廊下に立ちこもっている間に自分の教室『2-4』に『マスターキー』で入り込み、立ち籠る準備をしていた。

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異世界幼女と一般高校生 @kilinagi_macoto

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