第二話 人間キモい

「お、お嬢ちゃん……!ぼぼっぼくとおは、お話しない?」


 ……。

 俺と相対しているゴスロリお嬢ちゃんから返事が来ない。

 じーっと、見られている。


「……こ、ここはどこ、でひゅか……?」


 やっと口を開いたと思えば、かみまくりだった。

 現在進行形でサイドテールをぴょんぴょんさせながらゴスロリお嬢ちゃんは表情に恐怖という概念をそのまま張り付けたみたいな顔をしているため、うまく口が回らないのかもしれない。


「ここ? ここはね、僕の家だよ」

「そ、そうですか…………あな、あなたは誰なんですか……?」

「ぼく? 僕はね、星崎ほしざき 透馬とうまだよ」

「……人間?」


 その言葉にトウマは驚く。


「そうだけど、逆に人間以外に見えるかな?」

「……そうか、なるほど」


 なにやら一人で納得しちゃったみたいです。俺はいまだに状況把握できてないんだけど。


「くくっ、くははははははははッ!!」


 ゴスロリお嬢ちゃんはいきなり甲高い大声で笑いだした、トウマは瞬間で反応し口を手でふさぐ。


「バッカ野郎! なに大声出してんだ……!? 母ちゃんがまた来るだろうが」

「お前の都合なんか知るかよ、私は成功したんだ……! ついに、魔界から……魔界から解放されたんだーッ!!!! 母上の叱咤しったも受けなくて済む…、ここは天国か!?」

「ここは俺の部屋だ、俺がルール! だから大声で叫ぶな!」

「失笑……私に文句を飛ばすなど、そんなに来世が待ち遠しいか」


 こいつ、意味が分からん……。いきなり人の部屋に現れたと思えば俺をバカにしてる? 草。


「失笑するのはこっちだ、とりあえず声量だけは下げてくれな? な?」


 目の前にいるゴスロリお嬢ちゃんは仕方ない様子で「ムぅ、仕方ない」と許諾してくれた、ゴリ押しに弱いみたいだ。ふふ、かわいい奴め(苦い顔)。


 一度噛み合うのはやめて話をしようとトウマはゆっくりと相手の目を見つめる、対するゴスロリお嬢ちゃん……不快な顔をしながら見つめ返す。

 さっきの騒動からのこの静けさは少し異常に感じる、なにか脳内で音楽が流れてきそうな空間だ。あえて選曲をすると“~目と目で●じ合う~♪”……我ながら古いなぁと。


「……あのさ、君はどこから来たの?」

「……答える義務はどこにあるん? もちろん私は抵抗するで。拳で」

「どこで覚えたんだそれ」


 また静かな空間が訪れるのか、そう思ったところに――――


「……私は魔界から来た。察するにここは、やはり異世界?」


 ――――そんなセリフに、思わずトウマは息を止めた。


「やっぱりお前は……」

「ていうか、オマエって呼ぶのやめないか?私にはちゃんとした名前がある」


 ゴスロリお嬢ちゃんは異世界出身だと暴露した。そしてすぐに名前で呼んでほしいと。俺、トウマはここでわかってしまった……これはラブコメ展開ではないかと! 深夜テンションだからか、そんな妄想に浸っていた。


「私の名前はルリアン・ケラ、約1880万光年先の魔界というところから魔方陣で転移してきた、理由は聞くな。」

「なるほどわからん」


 魔方陣というワードが俺の頭を呼び戻し、その存在を思い出す。チラリと下を向き部屋にあった魔方陣を確認したが綺麗さっぱりなくなっていた。全くもって摩訶不思議である。


「だが……なんというか世界は小さいな? ――――――俺の思っていた、感じていた世界はもっと小さかった。 おま、じゃなくてルリアン・ケラだっけ、なんか名前長くないか」

「ずうずうしいな、貴様。 仕方がない……ルリアン様で妥協してやろう」


 ずうずうしいのはどっちだ。ていうかついに貴様って呼ばれ出したし。客観的に見て年下の女の子に貴様呼ばわりされるとか世間体様はなにしてんですか。俺を社会的に殺したいんですか。いやでも年下女子に貴様といわれるとなんていうか、こう……って俺にM属性は必要ねえよ! あばよM属性。はは。


「ところでなんだが、ルリア。 お前は俺が一ヵ月もかけて作成した魔方陣を破壊してここに召喚されてくれたのか? ん?」

「なに自意識過剰しているんだ屑クズ。あとなんだって、ルリア? 貴様にそのように呼ばれる義理はない」

「クズって言われた! 悲しい!!」


 そんな他愛のない話が少し続いた今。部屋の外が明るくなってきた。


「……もう朝か」


 窓の外には太陽が昇り始めていた。メルヘンチックのメの字もない俺が言うのは少し可笑しい気がするが、かなり幻想的。芸術を見る目がない俺が言葉で表現しようとすると……、そうだな。真っ赤なオムライスに腐ったイカ墨をぶっかけたみたいな。なにそれクソマズそう、てか汚い。

 今まで夜更かしは何回もしてきたが、ここまで感動的な日の出は見たことがない。魔方陣を作成してきた日々があるからこその感動かもしれない……。本題の「人生を変えてほしい」も今考えれば達成できたのかも、しれない……。くっ! 素直に喜べない!


「――――――なななんだこれはぁーーー!?」

「だからうるさいぞロリ」


もう決めた。俺決めちゃったもんね。次、俺に害を与えたらロリって呼んでやろう。


「なんなんだこの光、怖い! 母上助けて! 私まだ死にたくない!!」


 ルリアは窓に向かって手を伸ばし、まるで日光を遮ろうとしているように見えた。


「おま、まさかだけど日光が苦手とかそういう系? テンプレじゃん」

「日光ってなに! じゃなくてこの光ってどういう!? 殺されるのか……!?」

「おいおいいきなり物騒だな、落ち着けよ」


 これが落ち着けるか。とでもいいたげに俺の顔を覗き込んでくる。不覚にも可愛いと思ってしまったかもしれない可能性があるかもしれないかも。


「……ふむ。貴様が平気そうだし大丈夫か」

「ああ、真面目に答えると人間が日光に殺されるようなことはありえない。でも油断して太陽直視したら目ん玉もってかれるからお気をつけて」

「ファッ!? 人間!?」

「お、おう。人間だけど……どした?」


 ズザサァァ!!


 と、勢いよく後ずさり。


「やはり貴様人間だったか……。キモ」

「キモいとかひどい、てかさっき貴様は人間か? とか聞いてきてたじゃん。そしてロリアも人間じゃん……もしかして人間じゃないっていうノリ? さすがにそれは乗れな」

「乗れないもなにも、私は幻獣魔王スカンビアだ。人間じゃあない。ちなみに魔界では人間はキモい生き物と言われて絶縁されている。人間は本でしか見たことが無かったんだが、まさか実物を拝む日が来るとは」

「……キモいだけで絶縁される魔界の同志が可哀そうだ」

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