第2話 大人の意味 前編

1 

 私がコーヒーを時間を掛けてゆっくりと飲んでいると、夕日達が顔を見せた。コーヒはもう冷たい。

 二人は遅れてすみませんという旨の事を話した。

 こういう所は駄々草なのは警察であってもまだ子供なんだなと思う。

 私はカフェの店員を呼ぶ。夕日はオレンジジュース、昼間はブドウジュースをそれぞれ頼んだ。注文の時、夕日は早朝なのかまどろみそうな顔でうとうとしていた。なのにカフェインを頼まないのは夕日の中で何か葛藤があったのだろう。子供特有の「謎の意地」は子供としての大切な要素だと思う。それを大人が否定すればそれは押しつけとなる。押しつけの連続は個性の喪失になりかねない。

 個性は人間としての価値になる。そして、誰しも持つ個性はどんなもので在ろうと価値がある。それを奪うのが大人ではない。それを磨くのが大人だ。余計な物は削り落とす。しかし甘やかしは見た目こそ美しくはなるが、それはただ埃を落としただけ。才能や個性は磨きがあってこそ存在できる。

 夕日は親がいない。昼間の親は企業の社長であまり親子の交流は無いらしい。

 …私は、この子たちの「保護者」でいれているのだろうか。

 「で…なんの用でしたっけ?」昼間が不意に話しかけてくる。昼間は眠気に抵抗があり、徹夜は持ってこいの人材だった。正直羨ましい。

 「…ああ、今日1時…2時間前だな。アジア難民が東京都内の寺院を爆破すると警視庁に届いたメールで犯行声明を出した」

 「んんー?どうしてアジア難民って分かるのー?」夕日は顔をテーブルに埋めながらか細い声で言う。

 「アジア難民と、犯行声明に書いてあったからだ」

 「そっかあ…」

 「…東京都内の寺院…多すぎて検討が付かないわね」

 オレンジジュースが運ばれてきた。それを夕日は鷹のように素早く掴み、蛇のようにストローを咥えて飲み始める。

 「解明班が今東京都内全域の寺院周囲にいる人間を退去させ、初動捜査を開始。しかし、そこで待ったを掛ける勢力がいた」

 「宗教ね…」

 「ああ、彼らは政治界と太いパイプがある。寺院を破壊されれば大損害。解明課では不安だから特別解明班を使って捜査しろという事らしい」

 「だから…私たちが呼ばれた」

 ブドウジュースが運ばれてきたが、昼間はそれに手を付けない。眠気は無いが疲れてはいるみたいだ。少し働かせ過ぎたか。

 「まるで”失敗したらどうなるかわかってんだろうな?”と、言ってるような要望だね」夕日がジュースを飲み干した。それを見ると昼間が目の前のブドウジュースに気がつき、やっと手を付ける。

 「政治界は宗教に貸を作りすぎている。これで失敗すれば政治界の有権者軽く数十は辞任する羽目になる事は当人達が一番分かっている。無視は出来ない要望だし、最初からそういうつもりだったのかも知れない」

 「国防大臣は?」

 「解明課は強制的に現場指揮権および捜査権限その他すべての責任を特別解明班に移譲させている。異存はないという事だろう」

 「…責任は、私たちが取れということね」昼間が唇を噛む。

 「だが、今回は公安からの支援がある。前の様に人員不足で犯人を逃すことはまずないだろう」

 難民はこの頃着々と増えつつある。紛争が続いているアフリカ小国を始め、様々な国が崩壊の兆しを示していることからこれからも増えることだろう。

 「思うんだけどさ…どうして魔法なんだろう…?」夕日がポツリと独り言のように言う。

 「犯行予告で魔法テロって警察に知らせたらそれってヒントになっちゃうじゃん」

 「そうだな、それは考えている。俺が思うにこれは…反魔法社会撤回を遠回しに言っていると思う」

 そもそも、寺院を指定した事は政治界と宗教とは深いつながりがあると知っているからだろう。   

 つまり、犯人は外の組織では無い。

 国内の何処かに犯人はいる。


2

 魔法犯罪解明課はマスコミに漏れないよう基本少数で行動する。

 最大三人が原則。人員は人事部が確保する。

 しかし、私が所属する特別解明班は何故か2人とも子供が配属された。

 人員の質は全く問題無い。昼間は魔法技術博士号を14歳で取っており、魔法技術はそこらの解明課なんて目もくれない程強い。正直私よりこの解明班に相応しいだろう。

 夕日も魔法技術は周りの群を超えている。

 魔法には適性がある。

 適性と言えど例えるなら酒の強さみたいなものだと聞く。

 強ければ何度とおかわり出来るが、弱ければ一杯呑めむだけで出来上がる。

 夕日の場合は超酒豪と言うことになる。

 適性は最高レベルと診断され、直ぐに解明班に採用された。

 夕日はアルビノでもある。

 白い髪、白い睫。それらは人目が付きやすいので常に帽子を被らせている。聞き込みもさせていない。

 私に魔法適性は無い。

 私は誘われて、ここにいる。

 こんなにも境遇が違うのにどうしてこんなにも彼女らに親近感を覚えるのだろうか。

 第三次世界大戦騒動…

 それは、もしかしたらそれが彼女らの人生に大きく関わっているからかも知れない。


3

 夕日と昼間は犯行声明の逆探知。

 私はある政治家に会いに行くため、車を走らせていた。

 ある政治家とは勿論、加藤外務大臣である。

 外務省庁の駐車場につき、車のドアを開けると爽やかな風が顔に吹き付けた。

 そろそろ、春かと思うと真冬の寒さが物寂しくなってくる。

 季節は当たり前に過ぎている。

 人は、当たり前に過ぎている。

 そんな人生の往来の中、ただポツンと座っている。

 それが、無性にもどかしくなりさっさと省庁に入った。

 彼女には連絡を付けているので、難なく彼女と会うことが出来た。

 「…ふうん。アジア難民を名乗る国内テログループ…ですか…」事件の話をするなり彼女は手を顎に当てて考え込んだ。

 「…ここ最近難民の話は無かったか?」

 「有りませんけど…多分そいつらの目的って…」

 彼女はすこし少し俯く。

 「魔法解明課を潰すことなのかもしれません」


 

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夕日が沈む時 宇論 唯 @uronn

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