ハードボイルド

田舎街に有る小さな酒場。そこにとある男が入って来る。

見た目は見すぼらしく、ただの村人にしか見えない。

男は店内を軽く見まわして、カウンターに真っすぐと歩いて席に着いた。


「マスター、ミルク」


男が注文すると他の客が皆大笑いをし、マスターは表情を動かさずにグラスを磨きながら男を一瞥する。

そして視線を手元に戻すと、静かにミルクを用意して男に投げる様に渡した。


「ほらよ」

「おう」


マスターと男は全てを理解している様に目線を合わせ、お互いにくっと口角を上げる。

周囲の客達はマスターの態度に怪訝な様子を見せ、みすぼらしい男の様子を伺い始めた。

だが男はそれらの一切を意に介さず、ミルクを一気飲みしてグラスを静かに置く。


「美味かったよ、マスター」

「おう」


男は来た時と同じ様に静かにカウンターを立ち、支払いをせずに店を出て行く。

だがマスターは彼を咎める事もなく、その姿を見送ると普段通りにカウンターで作業を始めた。

一体男が何者なのか気になった客の一人が、マスターに問う為に近づく。


「ま、マスター、一体さっきの男は何者なんだ」

「うちにミルク卸してる男だよ。店で出してる分の管理を見に来たんだよ」


そう、男は自分の卸している牛乳の扱いを見に来ただけだった。

この店ではカルーアミルクが人気であった。

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ネタ物 四つ目 @yotume

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