少年

 移動を終え、再び仕事を始める三人。先程のが今日二件目、あくまで応援なので一箇所の仕事量は少ない。そもそも彼女らにとって、片手間でも問題ない案件に、そこまでかかずらわったりはしない。テンションの低いデットなど、とうに面倒を越え、お上への文句を垂れ流しておりクレインは誰かに聞こえないかとヒヤヒヤしていた。


「隊長、今度も能力を?」

「ん、ああー……。もういいや、使わん。割り切るさ」

「やっぱり……」


 恥ずかしかったのだな、そうクレインが言葉を紡ぐことはなかった。小声が拾われるのを恐れたのではない。倒れている者を発見したので、周囲を警戒しつつクレインが近寄る。


「これは」


 額を撃ち抜かれた男、オブレイナが見て一言。


「イービルだ、死んで間もない」

「けれど戦った痕跡は――」


 その時やや離れたところから叫び声、断末魔のような声が聞こえ、三人が急行する。

到着したとき、事はすでに済んでいて男が膝から崩れ落ちる所だった。


「犯人は……」

「隊長、あれ――」

「おい、クレイン!」


 駆け出したクレイン、その先には“黒い靄”、それに消えていく人影。オブレイナが止めるも遅く、それに飛び込んだクレイン。靄ととも、クレインは影に溶けていった。






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「ここは……」


 見覚えのない景色、小さな工場のようだった。錆びついた機械が並び、人影はない。少し思考が鈍り、やがて思い出す。


「そうだ――!」


 辺りを見回すが少年の姿はない。懐を弄るが携帯がない、どこかで落としたのか。仕方がない、取り敢えずと周囲を探索する。すると地面に落ちた食品、缶詰。空き缶だが中が湿っている。人がいた痕跡に違いなく、警戒を強めたのだが、不意に声を掛けられる。


「ふうん、こんな間抜けでも警察になれるもんだ」

「――! お前」


 件の少年、イービルを次々と殺して回るそれ。今はクレインに銃口を向け、無表情で喋っている。


「なぜ、イービルを殺すんだ」

「つまらない質問、それに君は構わないだろう」

「なに」


 見た目に反して声色も、顔つきも落ち着き、クレインは自分よりも大人びて見えた。


「君はヒーロー寄りだろう。ならイービルが減るのは良いことじゃないか」

「それは、そうだが……」


 そう、実際のところ警察は今回の事件に大きな関心を示していない。クレインらが向けられているのが何よりの証拠で、イービルの減少を嫌う者など殆どいない。

世の中には能力者、非能力者がいる。そしてその中で、ヒーローとイービルに分かれるが“どっち付かず”のフラットな者も大勢いる。それは覚醒とも呼ばれ、能力者はある日、どちらかに目覚めることがあるのだ。生まれついての者の方が多いが、珍しいパターンでもない。警察に与するクレインも、覚醒してこそいないものの、持ち前の正義感はヒーローに近いそれである。


「けれど、彼らは法のもとに裁かれるべきだ」

「憎くはないと?」

「否定はしない、だがそれ以前に俺は刑事だ」

「……ふんふん、いい傾向だ」


 何事か頷く少年。


「今度はこっちの質問に答えてもらう」

「僕は君と話したくて、敢えてなにもしなかったのだけれど」

「……何の話」

「君、気絶してたんだよ? それも十数分かな、だからそろそろだと思うけど」


 古風な、銀の懐中時計で時間を確認する少年。


「だからなんの――」

「そこ危ないかな、“あっち”に近いから」


 地面が揺れ、耳をつんざく音。次いで熱風が吹き荒れ、クレインは倒れ込む。


「――これは」

「じゃあね、“運命の奴隷さん”、また会えると良いね、生きていれば、だけど」

「おい、待て――」


 再度熱波、先程よりも強い、工場の壁が壊れたため直で受けたクレイン。倒れ込みながら振り返ると赤く燃えるような空をヘリコプターが飛び、工場目掛けて攻撃をしていた。それで今いる場所を、概ね把握した。殲滅作戦が行われる、イービルの根城の近く。もう一度視線を戻すと少年は靄へと消えていく。


「くそ、止まれ……、ちくしょ、これじゃあ隊長に――」


 言葉が続くことはなく、爆風に巻き上げられ、数メートルの浮遊の後地面に叩きつけられる。少年はすっかり消え去り、意識が遠のく中、人の気配と、それが話すのが聞こえた。


「――……、早く――」

「――こを中継して、……――」

「――い、コーダ――」

「――……ああ、すぐ行く――」


 それを最後に、クレインは気を失った。

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レジェンド・オブ・イービル バルバロ @vallord

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